38,VSフォレスト・エイプ
前回の投稿は“ 06/28 18:00 ”です。
私と対峙するボス猿が、先手を取って攻撃してくる。
ボス猿と私には、30mほどの距離があったように思えたが、グッとしゃがみこんだボス猿は、ジャンプ1つで飛び込んで、こちらを殴りつけてきた。
ウッド・エイプらの攻撃から、ボス猿の火力も私にとって脅威になるものではないと判断していたが、30mもの大ジャンプから繰り出される攻撃には、危機感を覚えたため、両手を突き出して、ガードを試みる。
ガッ!っと鈍い音が響き、私の両腕が弾かれ、ゴロンと後転させられる。
ダメージ量は9。
10回以上は受けられるが、ウッド・エイプたちの攻撃から考えると破格の威力だ。
ハイオークの時とは違い、大きく後ろに弾かれることは無かったので、そのまま、後ろに転がって体勢を立て直す。ボス猿にとっても、先ほどの攻撃は大技の様で、私が体勢を立て直す間、追撃は来なかった。
素手で攻撃してきていることから、硬い私を殴りつけたことによる、ダメージが無いかと期待するが、その様子もなく、ボス猿は次の攻撃を繰り出そうと、私を睨みつけている。
長距離からの跳躍で攻撃に勢いをつけているのであれば、近距離戦闘での火力はどうなのかと、体をズイっと前に出し、ボス猿の攻撃を誘うと、その行動を挑発と受け取ったのか、ボス猿は歯茎をむき出しにし、薙ぎ払うように左腕で私を攻撃してきた。
再び、攻撃をガードするが、先ほどと違い、一回の攻撃ではボス猿のターンが終わらない。
2回、3回と続けて攻撃を繰り返され、流石にまずいと思い、4回目の攻撃でわざと大きく弾かれることでようやくボス猿の攻撃から解放される。
止むことの無い連続攻撃に、1回1回の火力を見ることはできなかったが、4回の被弾を経て、ダメージは15。
ダメージ量が4で割り切れないことに、ガードにも微妙に判定の違いがあるのだと頭の片隅で感じながら、頭の大部分は、思っていたより火力が高いことに警鐘を鳴らす。
たった二回のやり取りで私のHPが2割削られてしまった。
威力の高い、ロングレンジの飛び込みに、スキの少ない素早い連続攻撃と、明確な弱点を感じられないボス猿に、ウッド・エイプとのレベルの違いを感じながら、再び攻撃してくるボス猿に対し、私も地面を蹴ってパリィを試みる。
ゴッ!っと先ほどよりも鈍い音が、響き、今度は吹き飛ばされることなく、地面に着陸する。
しかし、今までの敵のように武器を持たないボス猿には、パリィの効き目が薄いようで、大きく弾かれることもなく、ただ威力が減衰しただけに終わった。
ボス猿が、次の攻撃に入る前に、こちらから動かなくてはと、私はボス猿に向かって、自らの拳を振るう。
私が振るった拳を、ボス猿は片腕でガード。
硬いのは拳だけでなく、腕もなのか、苦痛に顔を歪ませることもなく、ボス猿は私の拳を受けきった。
しかし、追撃を加えようと、さらに私が拳を振り上げると、後ろに跳ねて、距離をとってきた。ダメージがないわけでは無いらしい。
ガード後に私に反撃することもできただろうが、それをせずに下がったということは、ガードからの反撃よりも、ダメージを食らわないことを優先したということ。
ガードするより回避した方が得だと感じた?ダメージ量とはいかほどなのだろうか。
拳の硬さから想像していたよりも、意外と柔らかいのか?と思いつつ、再度距離ができたことから、飛び込みによる、大攻撃を想定し、身構える。
こちらが警戒していた通り、ボス猿は再び大ジャンプでこちらに飛び込んでくる。
ボス猿の飛び込みは素早く、見てからではガードぐらいしかできないが、予備動作のしゃがみこみに合わせることで、跳躍中のボス猿にミニゴーレムを投げつけることに成功する。
ウッド・エイプたちから、私が岩石を投げつけてくる情報が共有されているか、知る意味も含め、ミニゴーレムを放ってみたが、私が投げた岩石は、そのまま避けられることなく、ボス猿に直撃した。
「ギィッ!!!」
と、苦しそうな声を上げ、地面に落下するボス猿。
その姿から、ウッド・エイプからボス猿に情報が伝わっていないとも考えたが、大技中に回避行動がとれない線もあると思いなおす。
大技中は回避不可という仮説が正しければ、近距離戦闘を繰り返し、その都度、適度に距離を取って大技を誘うことでいずれは勝てるかもしれない。
打ち落とした、ボス猿に追撃を加えれば、もっと早期の決着を望めるかもしれないが、生憎、私が落下地点にたどり着くのと、ボス猿が起き上がることのどちらが早いのか微妙なところで、私があんまりにも遅いと、反撃を食らってしまう可能性がある。いや、どちらにせよ近接戦闘に持ち込むのであれば、近づく方がいいのか・・・・・・・・・、違う、打ち落として、動けないうちにさらに距離をとる方が安全だ。大技だけ待つなら近づく必要はない。
ボス猿が対応してくるまでは、この方法で戦い続けると決めた私は、起き上がろうとしているボス猿からさらに距離を取った。
三度、私たちの間に30mほどの距離ができた頃、ボス猿が起き上がり、遠く離れた私を見つけ、逃げ出そうとしていると思ったのか、地団太を踏んで憤慨し、再びしゃがみこんで大ジャンプを決行する。
火力はウッド・エイプと比べ物にならなかったが、ワンパターンなのはボス猿も同じようで、再び私の投げつけたミニゴーレムによって叩き落される。
仮説が正しかったことに安堵するが、当初私が抱いた不安は解消されていない。
それは決め手に欠けること。ダメージを与えることが出来ても、逃げられてしまっては意味がない。
最後のダメージを与える方法は一応、考えてある。ただ、これをやるなら、相手のHPがどれぐらい削れているのか、できるだけ正確に知りたい。
しかしながら、今のところ、そのような方法は見当たらない。
敵の動きの変化に、敏感になるしかないか・・・。
ボス猿を落としながら、細かな動きを見落とさないように観察する。
最後の一撃で削りきるためのHP管理としては、それぐらいしかできなかった。
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逃げて、落としてを繰り返すこと、数回。
途中、私のスキルポイントが無くなりかけ、近接戦闘を行う羽目にもなったが、無事、大ジャンプ狩りの行動パターンに戻ることが出来、順調にダメージを与えていた。
今も、私に落とされ、起き上がろうとするボス猿から、ゴロゴロと距離を取って、ボス猿の大ジャンプを誘える位置に待機している。
ミニゴーレムを直撃させた回数は計7回と、それなりの数になってきているため、そろそろ、こちらも作戦を実行したいところだが、いまだ、相手の行動に変わりはない。
逃げられる前に攻撃しておいた方がいいかと、私の頭に迷いが走ったその時、若干ではあるが、ボス猿のしゃがみが浅いように感じた。
わかりやすい変化では無かったが、何かを感じ取った自身の直感を信じて、私は作戦実行を決意する。
ボス猿がジャンプするタイミングで、私はミニゴーレムを投げつけると、すぐさま転がり、何度も撃墜したことから予測できる、落下地点目掛けて転がった。
鈍い音が聞こえ、ダメージを受けたボス猿は、私が転がっていくその先に落下し、立ち上がろうとするが、大技中に攻撃を食らったことから、体をなかなか起き上がらせられない。
そんな何度も見た行動を繰り返す、ボス猿の前に到達した私は、拳を振り上げ、止めの一撃を振り下ろす。
が、起き上がれなくとも、動くことはできる。
私の拳をすんでのところでガードしたボス猿は、そのまま、私を押し込むように立ち上がり、今度はこちらの番だと言わんばかりに、右手を振り上げ、私めがけて拳を振るおうとする。
ゴツン!
その瞬間、ボス猿の脚部に、鈍い痛みが走る。
大ジャンプ中に撃墜されるような、強烈な痛みではない。むしろ、いま目の前に脅威があるこの状況で、気にしてはいけないダメージだったが、不意打ちかつ、敵に挟み込まれたという疑心暗鬼から、ボス猿は思わずふり返ってしまった。
ガンッ!!!
そうなってしまえば、私の攻撃を避けることはできない。
投げつける前に、命令を出しておいたミニゴーレムに気を取られ、ガードの開いたボス猿に対し、私の精一杯のパンチが突き刺さる。
ミニゴーレムがボス猿に攻撃したことから、外野が騒がしくなっている気がするが気にしている場合ではない。
ガァ!!とうめき声を上げ、膝を付くボス猿に対し、体格差から、最も高い火力の押しつぶしを放てないことに歯がゆさを感じながらも、止めの拳を振るう。
ドン…ドン…
私が最後の一撃を加えようとしたとき、ウッド・エイプたちが見守る方角から、ドンドンと何かを叩くような音が鳴り響いてきた。
ドン・・・ドン!・・・ドン!!
次第に大きくなっていく音に、まずい予感がし、一刻も早く、ボス猿に止めを刺そうとするが。先ほどまで、膝を付いていたはずのボス猿は、響き渡る音を聞くと、目を爛爛と輝かせ、痛みなど忘れたかのように立ち上がり、私の元から、音のなる方へ飛び出していってしまった。
ドンット!!ドン!! ドンット!!ドンドン!!
何度も見せていた大ジャンプよりも早いんじゃないかというその動きに、私は追撃を加えることが出来ず、そのままボス猿を逃がしてしまう。
私から逃れたボス猿は、ウッド・エイプたちの元へ合流し、音なる方に向かって両手を突き出し雄たけびを上げ始める。
ボス猿だけでない。ウッド・エイプたちもそれぞれ、思い思いの方法で近づいてくる何かに熱狂している。
胸を叩くもの、大声を上げるもの、拳を突き上げるもの。
多くの猿たちの歓声を浴びながら、大音量のビートを刻むそれが姿を現すと、サルたちの熱はさらに勢いを増した。
その姿は、ボス猿よりも大きく、厚く。かつて見たハイオークを彷彿とさせるような強者のオーラを纏っていた。
筋肉質な体は、黒と緑の毛に覆われており、発達した頭部の毛は、遠くから見るとサングラスのように目元を隠している。
腰ほどまでたなびく長い髪を辿った頭上には、葉で作られた王冠のような何かが被せられており、色とりどりの木の実によって鮮やかな様相を為しているが、派手なのはそこだけでない。体にも、様々な草葉が器用に飾られ、その姿はサンバのような外国の民族衣装を身に纏っているかのようだった。
そんな、太陽のようなオーラを纏った大猿は、体を揺らし、自らの胸をリズミカルに叩きながら、森から現れる。そして、そのまま私の前までやってくると、ニヤッと異常なまでに白い歯を見せつけるように笑った。
そして、スッと拳を胸の前に置き、ボクシングのファイティングポーズのような構えを取ると、いつの間にか、周囲の木いっぱいに待機していた猿たちが歓声を上げ、そのボルテージは最大になる。
『新たな神託が下りました。』
【神託】
猿たちの祭典(踊闘大猿に勝利する)
異様な雰囲気に飲みこまれ、討伐ではなく、勝利という神託の意図もわからないが、ただ一つ理解できるのは、なんだか大変なことになってしまったということ。
奇抜な格好をした踊闘大猿は器用に眉を動かし、早くやろうぜとこちらを挑発してくる。
暗く静かな森の中。唯一開けた、明るすぎる闘技場で、猿たちの祭典が幕を開けようとしていた。
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舞踏→舞闘
舞は違う気がする→踊闘
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