34,WE1 『迷宮行脚』 ⑥
前回の投稿は“ 06/23 18:00 ”です。
イベント開始から、2日がたち、イベントも残すところあと1日となった頃。私は、上位勢とみられるパーティーと交戦していた。
戦いの中で、敵中に突撃していったロック・ワームがやられてしまい、厳しい状況に陥っているが、斬撃や魔法を何とかしのぎ、敵の攻撃を耐えている。
上位勢が中ボスの部屋に現れるようになってきたのは、1日目が終わるころと、かなり早く、当初、人間陣営がとっていたとみられる情報収集作戦はどこに行ったんだと、突如、現れた強敵に魔物陣営は逆にあたふたした。
徘徊型の魔物陣営が言うには、上位勢は自分たちを狩っている時も、文句を言いながらというか、つまらなそうにしていたということ。
魔物の中にはミノタウロスさんのような強者や、NPCと一緒になって人間陣営を襲うプレイヤーもいただろうが、その大半はNPCやソロの魔物プレイヤー。レベル上げや、ゲームの攻略に力を入れているプレイヤーにとって、イベントの大半を暇つぶしの単調な狩りに費やすのは苦痛だったということだろうか。魔物陣営のようにボスが弱体化する情報を持っていて、それが魔物狩りに起因すると知っていれば、まだ違ったかもしれないが、知らなければ不満を持つのは当然かもしれない。
詳細な理由はわからないが、かくして人間陣営のほとんどのプレイヤーが中ボス部屋に流れ込むこととなり、私たちは大忙しとなってしまった。
一応、ゲーム自体からログアウトすれば、休憩はとれるのだが、ゲーム内にいるときはほぼ途切れることなく、敵がやってきた。人間陣営がパーティーを組んでいることを考えると、人数比的に魔物陣営のプレイヤーが少なすぎないかと感じるが、私たちが知らないだけで、空いている部屋に、人間NPCが穴埋めされている可能性もなくはない。
知らないうちに、NPCと戦っているのかもしれないと思いつつ、後方から魔法を飛ばしてきているプレイヤーに向かってミニゴーレムを投げつける。
現在、私の勝率は7割ほどといったところだろうか。
ミニゴーレムによって、人数差をより顕著にできることから、意外と勝率は高い。
水魔法を使う魔法使いが現れると、一瞬で瓦解するが、上位勢にも勝てることがあったりと、なんだかんだ貢献している気がする。
攻略度(防衛度)は現在58%。一日目終了時点で22%だったことを考えるとやはり、上位勢が戦うことでパーセンテージは伸びやすくなっている。幸い、未だボスは倒されていないため、大きな攻略度の上昇は見られていないが、掲示板を見る限り、上位勢はやはり強く、私のように負けてしまうプレイヤーは多い。相性の問題もあるが、何とか勝ちを拾っていきたい。
ちょっときついけど、このパーティーにも勝っておきたい!
まずは遠距離系からと魔法使いに追撃を与えつつ、何とか勝利をもぎ取ろうと私は奮起した。
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「だぁー、負けた!!」
ダイキが開口一番、声を荒げる。
「これで二回目か・・・。これ以上は負けられないね。」
二度目のリスポーンを経験し、私たちパーティはダンジョンの入り口付近に戻されていた。
ゴーレムら中ボスに敗北したのち、私たちは一度休憩をとり、再度、中ボス部屋を目指してダンジョンを進んでいた。
上位勢が痺れを切らして戦いに出てしまったのもあり、今度こそは何とか勝利したかったが、運悪く、防衛型を引いてしまい、負けてしまった。
上位勢が戦闘に参加したことによって、人間陣営の戦況は一変。初中級者ではなかなか上がらなかった、攻略度も飛躍的に伸び、ボスは相変わらず倒せていないが、このまま行けば小細工なしに80%以上を達成できるのではと、皆一様に喜んでいた。
順調に上がっていく攻略度に、上位勢を温存する計画は臆病すぎたかもしれないと、考えを改めかけていたが、二日目に差し掛かって再び雲行きが怪しくなってきた。
上位勢が、中ボスにも負けるようになってきたのだ。
なぜそんなことになっているのか、掲示板では語られていなかったが、原因はおそらくポーションの枯渇。
上位勢は、ボスを倒そうと躍起になっていた。多分、ボス戦で必要以上にポーションを使ってしまったのだろう。そのため、対中ボス戦の総合的な勝敗で言えば、上位勢の方が勝っているだろうが、ここ6時間ほどはあまりいい報告を聞かない。
中には、既に3回のリスポーン制限を使い切ってしまったプレイヤーもいるようで、掲示板には懺悔の報告が溢れている。攻略度の上り具合も悪くなっているので、人間陣営の中には既に80%以上の攻略をあきらめている人間も出始め、ボスの情報集めも芳しくない状況だ。
そんな掲示板の様子を見て、思わず舌打ちしそうになる。
掲示板内で決まった方針を勝手に変え、中ボス狩りに出てしまった上位勢はまだわかる。私たちが、碌な情報を持って帰れなかったことも悪いし、せっかくのイベントを楽しめないという言い分も理解できる。けど、あきらめる奴は違うだろう!!!
苛立ちが募り、トントントントン、と人差し指で杖を叩く。
あきらめの早すぎる連中に対し、怒りを覚える私を、ため息交じりに見る幼馴染たち。その態度にも少しイラっとするが、今はそこで争っている場合ではない。
攻略度は現在63%であり、イベント終了時刻までは残り12時間。何とかあと17%稼げる手立てはないかと、必死に頭を回すが、減ったプレーヤーとポーションの枯渇した上位勢では、たとえ中ボスを狩り続けたとしても80%には届かない。どうしたら・・・
「ユキ。ひとまず、中ボスの部屋に向かおう?いい案が浮かんだとしても中ボスと戦えなかったら意味がないよ。」
苦笑いを浮かべながら、ヒロトが提案してくる。
確かに、考えることは道中でもできる。ひとまず、ボス部屋を目指すのが先決か。
ヒロトの提案に了承し、私たちは再度、ダンジョンの奥へと進んで行く。
「それにしても、上位勢でも倒せないボスってどうなってるの?もう結構な数のプレイヤーが挑んでるはずでしょ?あまりにも進展なさすぎじゃない?」
「一応与えられるダメージは多くなってるみたいなんだけどね。行動パターンとかも、特定できてる部分はあるみたいだし。ただ、全然倒れる様子がないっていうだけで・・・」
「そもそも、倒せないって言うのはねぇの?」
「どうだろう、うまくポーションの運用ができていれば、中ボスだけでも80%に届いたかもしれないから、プレイヤーを間引く役割を持ってるって可能性はあるかもね。」
アヤカたちがボスについて考察しているが、ヒロトの言っていた“プレイヤーを間引く役割”という可能性というのは考えていなかった。上位勢のみが周回し続けるのを防ぐ役割ということ?
だが、本当にそうだとして、なぜ与えられるダメージがどんどん増えているんだろうか。倒せないのであれば、そんな仕様にする必要はないはず。運営は絶対ボスが倒される想定もしているはずだ。
「なんで、与えられるダメージが増えてるの・・・?」
私は自身の抱えている疑問を口にしてみる。
「そりゃ、動きのパターンとかいろいろ慣れてくるからじゃねぇの?」
ダイキがそういうが、私の中に違和感は残り続ける。
「ボスに挑めるのは最大で3回でしょ?いくら上位勢とはいえ、3回フルでボスに挑戦しているパーティは希少なはず。なのに、なんでこんなに定期的に与えたダメージが増えたって報告が来るの?3回連続でボスに挑戦しているパーティがそんなに多いってこと?」
私がボスに連続で挑戦するパーティはそこまで多くないと言うと、今度はアヤカが別の案を出す。
「イベントの時間が経過するごとにボスが弱体化するって言うのは?」
時間経過による弱体化か。
確かに、徐々に与えられるダメージが増えている理由にはなる。だとしたら、やはり上位勢には残ってもらっていた方が良かった・・・
「いや、多分それはない。もしそうなら、もっと時間がたつごとに、与えられるダメージが一定の量で増えていくはずだよ。けど、実際はダメージの増加量はまばらで、増えるときは増えるし、今みたいに全然報告が来ないこともあるんだ。まぁ、今はそもそもプレイヤーが少なくなってきたことも関係してると思うけど。ダメージを出せるようになった時は掲示板も結構盛り上がってたよ。そのあたりで行動パターンもある程度報告がでるようになってたし。」
「じゃあ、やっぱり動きの慣れとか、パターンてことじゃないのか?」
「うーん・・・」
私が、上位勢の中ボス攻略を止められなかったことを悔やんでいると、ヒロトが時間経過による弱体化は成り立っていないことを説明してくれる。
けど、時間経過による弱体化も違うのであれば、なぜボスは弱体化したんだ。ダイキが言うようにパターンが成立したからなのか?でも、ヒロトはダメージが増えたあたりからパターンも確立してきたって・・・。
ボスが関係する以上、絶対ここに何かに理由があるはずだ。しかも、それはイベント攻略のカギになる情報のはず・・・。
ヒントは絶対に隠されていると、今まで得た情報を頭の中で反芻する。すると、私はふとあることに気づき、確認を取るためヒロトに声をかけた。
「ねぇ、ヒロト。ダメージ量が一番増えたのっていつ頃の話なの?」
「え、そりゃ今だけど・・・」
「そうじゃなくて、ダメージ量の上昇が一番増えた時。」
「え、・・・ちょっと掲示板見なくちゃわからないけど、たしか一日目の終わりから二日目にかけてだと思う。」
「・・・それだ。」
「え?」
私のつぶやきに、皆がきょとんとした表情をする。しかし、私は、ただ一人、一つの確信を得て頭を抱えていた。
私たちは間違っていなかった。
いや、間違っていなかったという表現は違う。上位勢がやっていたことは無駄じゃなかったんだ。
「普通の魔物。いや、中ボスもなの?どっちにしろ普通の・・・通路とか歩いてるやつら含めて全部だよ。魔物を倒すほど、ボスは弱体化していく。多分、これが正解だと思う。」
私の結論に皆も、カチりと何かが嵌ったような顔をして、各々厳しい表情をする。
「え、たしかに、それは正しいかも・・って・・・。あ、いや多分あってると思うんだけど・・・・・・。それ、今から間に合わなくない?」
そう、気づくのが遅すぎたのだ。もっと早く、魔物を狩ることによってボスが弱体化していると気づかなければならなかった。
今からやるとしても、私たちだけが、魔物を狩ったところで意味はない。
上位勢たちがやったように、多くのプレイヤーが通常の魔物を狩り、そのうえでボスに挑戦しなくてはならない。
ただ、それをプレイヤー数の少ない今から初めて、間に合うのかわからない。もっと言えば、今行っている、中ボスのみでの攻略とどちらが効率が良いのかも・・・
「お困りのようだね。冒険者諸君」
私たちが、イベントの攻略について悩んでいると、突然背後から現れた、金髪碧眼の優男が話しかけてきた。
「私の力が必要かな?」
「え、あの、すみません、失礼ですがどなたかお伺いしても・・・」
突如現れた男が助力を申し出てきたため、ヒロトが恐る恐る名を訪ねる。
パーティプレイに割り込んでくる、わけのわからない男なのか、それとも単に良い人なのか。
不気味な優男の妙な雰囲気に身構える私たち。
しかし、そこに返ってきた言葉は、私たちが決して想像していないものだった。
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次々と現れる人間陣営を相手にし、そろそろまた休憩を取ろうかな、と考えていた私の部屋に再び挑戦者が現れる。
これを相手にしたら、一度休憩しよう。
そう決めて、目の前の相手に視線を合わせると、私は驚愕する。なぜなら、入ってきた男が一人きりだったからだ。
男は白を基調にした鎧を身に纏い、その背には、男の髪に負けないほど煌びやかに輝いた、黄金の大剣を携えていた。
ただならぬ男の雰囲気に、私はゲームにも関わらず、ごくりと唾を呑みこむように身構える。
「そんなに、緊張しなくてもいいじゃないか。」
!?
魔物である私の挙動を、いや、思考を読んだのだろうか。
そう言って、薄く笑う男に、私はより警戒心を高め、5匹の魔物と共に臨戦態勢に入った。
男は私たちを脅威と思っていないのか、剣を背から抜くことすらなく、淡々とこちらに歩み寄る。
「君たちの王に伝えてくれないか。」
こちらの緊張お構いなしに、どんどんと近づいてくる男は、意味深な言葉を発すると、その言葉の意味を理解するよりも先に、さらに巨大な爆弾を落としていった。
「私は勇者。いずれそちらに伺うと。」
次の瞬間。一瞬視界が白んだかと思うと。私の体力は消し飛んだ。
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