31,WE1 『迷宮行脚』 ③
前回の投稿は“ 06/20 12:00 ”です。
しばらく視点が変わります。
「よし!じゃあ行こうぜ!!」
大きな剣を携えた、ツンツン頭の快活そうな少年が、満面の笑みを浮かべてこちらを振り返る。
イベント開始直後だというのに、彼はダンジョンに入るのが待ちきれないらしく、パーティーメンバーである私たちに向かって、急かすような声色で声をかける。
そんな彼との付き合いは、もう何年になるだろうか。幼馴染の私たちにとって、せっかちな彼の態度は見慣れたものだが、ことゲームにおいては、それが強調されているようで、微笑ましく思うも、苦笑してしまう。
「わかったから、落ち着きなよダイキ。」
諭すように首を振った、長身のメガネをかけた少年の名前は、ヒロトという。
私たち幼馴染の中で、もっとも利口なクラスの委員長だ。
ゲーム内で使っている武器は盾とメイス。昔から周りを見て、気配りをするタイプだったこともあってか、タンク職が性に合っているらしい。
そんなヒロトが「イベントは逃げないから・・・」、などとダイキを諫めている様子を見て、からかうように、これまた活発そうな、赤髪の少女が2人に駆け寄って行く。
「ヒロトだって、今日のHR中そわそわしてたじゃん!先生に、挨拶急かされてたし・・・。」
そう言いながら片手を口元に添え、杖で小突くようにして、ニヤニヤとヒロトをからかっているのは、アヤカ。
明るく、元気で誰とでも仲良くなれてしまうような、そんな雰囲気を持った少女だ。実際、今もアヤカにイジられたヒロトは、捲し立てる様に反論しているものの、本気で怒っている様子はない。私たち幼馴染の中だけではなく、アヤカは外でもそうなのだ。彼女の容姿が整っているということも、影響しているとは思うが、相手に悪感情を持たせないこの明るさは、現実世界でも魔法を使っているのかと、少し疑ってしまうほどだ。まぁ、彼女がゲームで扱うのは、状態異常系などではなく、ダメージ量の大きいものばかりなのだけれど。
「ユキもほら、ダイキ先行っちゃうから!!ヒーラーが居なかったら、あいつらすぐ死んじゃうよ!!」
ダイキが先頭を走って、それをヒロトが追いかけて、その様子をアヤカがからかう。そんな、いつもの光景を、後ろの方から見守っていると、今度はアヤカが急かしてくる。
あんな風にイジっていたけど、ほんとはアヤカだって楽しみなのだ。今日の授業中、チラチラと何度も時計を見ていた彼女を私は知っている。
「うん、今行く。」
見慣れた景色に笑みを浮かべながら、先端に宝石を付けた大きな杖を両手で抱えて、私は3人の元へ走っていく。
みんなが待ち望んだ、サービス開始から初めてのワールドイベント。
かくいう私も、待ち望んでいたそれに、私たちは意気揚々と乗り込んで行った。
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「ダイキ!お願い」
「おう!」
幼馴染たちの声がダンジョン内に響き渡る。
盾職であるヒロトが、魔物の攻撃を受け止めていると、そこに向かってダイキが大剣で斬りかかっていく。
ダイキの渾身の一撃は、無防備に身をさらけ出した魔物を深く裂き、大ダメージを負った魔物は、光の粒子となって消えていった。
最後の魔物を倒したことで、戦闘を終え、私も構えを解いて一息つく。
これでダンジョンに入って何体目の魔物だろうか、カウントはしていないが、既に多くの魔物を倒したように思える。攻略度はどうなっているのだろうか。
同じ疑問をアヤカも持ったようで、杖を器用に腕で挟み、メニューを開いてイベントページから調べている。
「えーと・・・まだ、0%だってさ。そんなに早く終わられても困るけど、これはちょっとびっくりかも・・・。」
やれやれと言った表情で、アヤカが現在の進捗を発表する。
イベント開始から既に、3時間ほどが経過しているが、まだ0・・・。
ワールドイベントはゲーム内時間で3日間行われるので、100%攻略を目指すのであれば、一時間で約1.4%稼がなければならない。だというのに、未だ0%とは・・・。
「掲示板でも現状を不安視する声が上がってきてるね・・・。」
ヒロトがそう言って、掲示板が表示されたモニターを見せてくる。
100%攻略ができないことなど、私たちパーティーはおろか、掲示板の皆も察しているが、それでも頑張れば、80%~の“ダンジョン踏破!”を目指せると思っていた。しかし、どうやら我武者羅にやっているだけでは、達成できないらしい。掲示板内でも、なにか良い攻略度の稼ぎ方は無いかと話し合いが始まっていた。
「集団の魔物を狩った時も、そんなに稼げた気がしないんだよなぁ~・・・。いや、実際に数字が出てるわけじゃないからわかんないんだけどさ。掲示板でもそこに言及してる奴いないし。」
ダイキが頭の後ろに腕を組んで、うーんと首を捻らせる。
自身の感覚や、掲示板の記載から一度の戦闘で倒した魔物の数は関係ないという結論に達したようだが、それには私も同意見。手ごたえだけでなく、魔物の強さ自体も、外で戦っていたものと大差なく、正直、これがワールドイベントか、と拍子抜けさえした。
「やっぱり、混じっているであろう、魔物プレイヤーを倒さなければいけないんじゃなのかな?ダンジョン内に、恐ろしく強いミノタウロスが徘徊しているという情報もあるし、そいつみたいなの倒せばあるいは・・・」
私たちには通達されていないが、十中八九、魔物の内にもプレイヤーは紛れ込んでいる。初めてのワールドイベントに参加できないなんてことは無いだろう。それを倒せばもっとポイントが稼げるはずだと、ヒロトは言うが、魔物プレイヤーの強さだって始めた時期の関係で、違いがあるはずだ。既に、プレイヤーだと気づかずに倒した魔物プレイヤーだっているはず。それなのに、この%なのは・・・。魔物プレイヤーの中にも条件があるのだろうか。
「倒せばって言うけど、ミノタウロスは倒せなかったの?」
ヒロトの発言に、アヤカが疑問を持つ。
ミノタウロスの情報だけがあって、討伐時の攻略度の増減がわかっていないということは、プレイヤーは逃げ出したのだろうか。
「いや、全滅したらしいよ。しかも1対4で。」
「えぇ・・・。それほんとにプレイヤーなの?」
アヤカがあきれたようにそう言いうと、ヒロトもこればっかりはミノタウロス本人に聞いてみないとわからないと、証明することは無理だと両手を上げてお手上げのジェスチャーをする。
ミノタウロスの強さに、私も驚愕する。
いくら魔物プレイヤーだったとしても、ゲーム開始時期が両陣営で同じ以上、ここまでのプレイ時間は変わらないはず。それなのに、1対4で全滅何てあり得るのだろうか?
さすがにNPCなんじゃ・・・と思っていると、先ほどからずっと掲示板やホームページ眺めていたカズキが、大きな声で私たちを呼んだ。
「おい!!掲示板がなんか騒がしくなってきたぞ!!」
声に驚き、ぱっと振り返ると、ダイキはこちらに向かって、大盛り上がりしている掲示板を見せつける。
何があったのか、と今度はヒロトが掲示板と睨めっこし始め、しばらくすると、顔上げて一つの書き込みを見せてくれた。
「これだ、ボス部屋みたいなところをクリアしたら、って書き込み。この人たしか攻略勢だし、嘘はついてないと思うよ。」
ヒロトが見せてくれた掲示板には、ボス部屋(仮)をクリアしたとの情報が。
「それで?攻略度の方はどうなってるの?」
「い、1%になってる!!」
おお!と私たちのパーティ内に歓喜の声が上がる。
「ボス部屋攻略で1%も上がるってことは、これをあと79回繰り返せばいいのか?」
「さすがにそれだと簡単すぎるんじゃない?ただ、これまでの蓄積にボス部屋分が乗って1%になったって線もまだあるよ。」
アヤカがそういうと、ダイキも「さすがにそうか」と肩を落としたが、攻略したプレイヤーが言うには、体感だけでも、今までの魔物と攻略度の上昇量が違うとのこと。
実際の数値の上昇は、ボス部屋攻略数が1のためわからないが、自信満々にそんなことを言われてしまえば、私たちのパーティーも同じところを目指すしかあるまい。
「とりあえず、今やれそうなことはわかったね。僕たちも前に進んで、ボス部屋を攻略してみよう!」
イベント開始で早速行き詰まっていたが、光明が見えた。
全員で顔を見合わせ、頷くと、私たちは各自の武器を手に取り、先を急いだ。
―――――――――――――――――――――――
ミノタウロスさんは、神託で得た称号によって、一対多の時に最も力が発揮できます。(超強化されるわけでは無い。)
…………
イベント内の攻略度増加の大小は
ボス > 中ボスNPC部屋 > 中ボスプレイヤー部屋 > 徘徊型魔物
となっている。
人間陣営の攻略手順としては。
中ボス部屋を攻略することで、21%~79%のダンジョン攻略が可能となり、80%以上を目指すにはボスを攻略する必要がある。(倒さないとそもそも%が動かないが、現時点で倒せるレベルの魔物ではない。)
そして、そのボスを弱体化させるためには、中ボス部屋含め徘徊型魔物を倒さなければならない。
人間陣営が80%以上を達成する場合、弱体化させたうえで中ボス部屋を突破し、ボス部屋に至る必要があるが、一度倒した中ボス部屋には二度と入ることが出来ず、一度敗北した中ボス部屋に入れる可能性もあまり高くないので、その場、その場での適応力が求められる。
なお、今回のボス部屋(仮)は中ボス部屋のことなので、人間陣営は21%~79%のダンジョン攻略の第一条件をクリアしたことになる。
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