29,WE1 『迷宮行脚』 ①
前回の投稿は“ 06/18 12:00 ”です。
ダンジョンの魔物となるのはいいが、イベントまでの3日間をどうすごすべきか。
魔力の残滓の報酬である1000Gをポーションに変えながら、私はイベントまでにできることを考えていた。
候補としてはいくつかあり、
・レベルを上げる(できれば新スキル)
・戦術を考える
・掲示板に入り浸って情報共有
という3つ。
レベルを上げることは、単純に戦力アップの意味合いもあるが、新スキルを早く見てみたいという思いが強い面もある。もちろん、新スキルがそもそも手に入るかは不確定だが、レベル上げによってどちらにせよ強くなるので、夢見ていてもいいだろう。
戦術面は、私がどう立ち回るか含めても考えておきたい。
掲示板での魔物陣営の考えにもよるが、本気でプレイヤーに勝ちに行くのか、ロールプレイ重視で、あくまで魔物らしく行くのか、イベントが始まる前にしっかりと決めておきたい。
個人的には両方欲張りたいが、何せ人間陣営と絡んだことがないので、相手の実力がわからない。
魔物陣営の中には、知り合いや親戚が人間陣営でプレイしているという人もいそうだが、そのような環境だからと言って、相手陣営の情報を書き込みや発言すると、それらが音声や文字になる前に勝手にAIに弾かれてしまうため、私はおろか魔物陣営にも人間陣営の情報を知るものはいない。
私が、ラージゴーレムやストーンゴーレムに進化していれば、話はまだ違ったのかもっしれないが、あいにく、私はレア度の高そうなゴーレムリーダーを選んでしまった。
ミニゴーレムを投げたりしなければ、ちょっとでかめのゴーレムに擬態できるか?ミニゴーレム2体と一緒に戦ってくる魔物、って感じで。
実際のダンジョン内がどのような感じになるかわからないけど、集団戦闘オンリーで考えると、ミニゴーレムに与えておく指令が、サーチ&デストロイになってしまうような気が・・・。それでもいい気はするが、手を付けない場合の私は、擬態からの奇襲が王道コンボとなるため、急に戦闘を始められると擬態の暇がない。かといって、ミニゴーレム無しで戦うと、相手が前衛後衛に分かれるだけで簡単に負ける未来が見える。それは面白くないしなぁ。というか、ミニゴーレム3分で消えるじゃないか、どうすれば・・・
結論が出ないので、実際にダンジョン内の様子を見てから決めることにして、現実逃避を図る。
イベントが始まると、私たち魔物プレイヤー以外にも、魔物NPCがダンジョン内に湧き出すようなので、そこにゴーレムが居たら混ぜてもらってもいいかもしれない。ただ、やはりこれも仮定に過ぎないので、結論はやっぱり保留だ。
掲示板での情報収集および情報共有だがこれは積極的にやっていった方がいい気がする。
どのイベントでもそうなるかはわからないが、今回は明確に魔物陣営は仲間同士。せっかくグループ分けがなされているんだから、仲良くやった方が得だろう。ダンジョン防衛率も報酬に関わることだし。
既に掲示板内では“『The Origin Online』WE1対策スレッド(魔物陣営)”が建てられ、活発に議論が交わされている。
いま議論が繰り広げられているのは、まさに私も悩んでいた、魔物プレイヤーとして戦うのか、魔物として戦うのかだ。
私はゴーレムプレイヤーの数が少ないにも関わらず、特殊な進化をしたことから、あまり目立たないように、と動いているが、スレ内の意見では反対になっており、正統進化したプレイヤーほどRPに徹しようと発言している。そちらの方が強みを生かせるということもあるのだろうが、RPをやりたいと考える人間はそもそも特殊進化なんて選択肢にあっても選ばないのだろう。なんだか欲張りで申し訳ない。
特殊な進化先を選んだプレイヤーはというと、その力をアピールするいい機会だと考えているのか、積極的に戦うことを提案している。中には魔物プレイヤーもパーティを組んで戦うべきだと言っているものまでいるが、さすがにこれには賛成できない。実際やれば面白いのだろうが、個人的にはRPと防衛率を両立したい派なので、そこまで防衛率に振り切ると言われると首を縦に振れない。
スレ内では様々な意見がある中で、意見を一つに統一するのは無理という結論が出はじめ、結果、各々好きにやることに決まった。一本、芯が通っていない状態で少し不安が残るが、これはこれで魔物らしさだとも思う。
イベントまでの事前準備としては、このほかにも、お金を稼いで、ポーションや戦闘で役立ちそうなものを手に入れておく、という選択肢もあったが、私たち魔物陣営はどうやらアイテム使用禁止らしく、装備品以外のアイテムを持ち込むことはできない仕様になっている。
人間陣営はアイテムを持ち込むことができるので、たとえこちらがHPを削ったとしてもポーション等を利用して回復してくる。若干ずるいと感じるが、実際のゲーム内の魔物からしたらプレイヤーは大概ずるい存在だろう。致し方ない。
掲示板内は、“各々好きにやる”と、結論が出たにもかかわらず、まだ、一部のプレイヤーがやいのやいの言っている。
報酬が出たり勝ち負けが発生すると、こうなることはわかっているが、ちょっと、大人げなくも感じる。いや、立場が違えば、私も同じように見えるか。
文句を言っているスレ民をみて、客観視させられてしまった私は、自分自身もあまり意固地にならず、みんなの意見に従って、勝ちを狙うことになったら出し惜しみ無しで戦うことを決める。
ままならないなぁ~、とせっかくのイベント前だというのに、少し気落ちしながらレベル上げに向かおうとすると、掲示板のスレが急に加速し始めた。
なんだ?と思って掲示板をのぞき込むと、なんとそこには運営出現!!との書き込みが。
やばい、喧嘩しすぎたか?
と、私は書き込んでいないので関係ないものの、イベント前から自陣営でBAN者出ることを恐れていると、その運営らしき人物のハンドルネームを見て全身が固まる。
え、これ、運営・・・・・・いや、正確には運営じゃないんだけれども、確実に運営がやってるだろうと思われる存在が掲示板に出現した。そして、間髪入れず、私たちの議論をぐちゃぐちゃにする提案をし始めた。
666:魔王
“力”が欲しいか。
私たち魔物の総大将。
魔王様が下界の掃き溜めに降臨された。
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【ワールドイベント】
『迷宮行脚』
魔物陣営のプレイヤーの皆様へ、ワールドイベント追加要素のご案内です。
この度、ワールドイベント『迷宮行脚』に“魔王”が出現しました。
魔王によって皆様に与えられた“力”は以下の通りです。
・NPCを従えて、特定エリアを防衛。(ステータス上昇)
・NPCの指示に従い、特定エリアを防衛。(協力プレイ可)
・ダンジョンを徘徊し、敵を殲滅。(回復速度増加)
参加されるプレイヤーの皆様は上記のいずれかを選択し、イベントに臨んでください。
なお、前回のご案内に記載した通り、ダンジョン内でリスポーンできる回数は制限されていませんが、人間陣営のプレイヤーに敗れた場合、同一プレイヤーともう一度戦うことはできません。
特定エリアの防衛に関しましても、同様の仕様となります。
また、プレイヤーがNPCを従える際、従えるNPC内にプレイヤーが紛れ込むことは無く、魔物NPCの種類はランダムで選択されます。
さらに、魔王はこのダンジョンのボスとして、『虹晶蜥蜴』を召喚していきました。
「虹晶蜥蜴」は水晶で出来た体を持つトカゲ型の巨大な魔物で、特殊な力は持たないものの、高いステータスを誇り、人間陣営を蹂躙します。
「虹晶蜥蜴」は、特定エリアを抜けた先で待ち構えますが、ボスがやられてしまった場合、ダンジョンの防衛率は大きく減少します。
また、ボスのステータスは挑戦者がこれまで倒した魔物の数によって増減するため、エリア防衛に関わるプレイヤー皆様のみならず、ダンジョン内を徘徊するプレイヤーの皆様方も、できるだけ人間プレイヤーに勝利しましょう。
魔王が出現したことにより、イベント参加者全員に配布予定の称号が変化します。
『ダンジョン防衛隊!』 → 『突発魔王軍!』
※追加要素により、参加を取り消したいプレイヤーの皆様方は、お手数ですが、お問い合わせのほどよろしくお願いいたします。
…………
南 「問題の解消、改善がこの部署の役目では。イベントの仕様変えて大丈夫なんですか。」
室長「プレイヤー間の価値観の違いをうまいこと解消したじゃないか。うちの範疇だよ、問題ない。」
南 「この中ボスに入るバフとか、回復速度の上昇とか誰が変更するんですか。」
室長「・・・・・・うちの部署の役目は問題の解消、改善だよ。」
南 「・・・・・・・・・」
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