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六角氏軍記~戦国乱世を生き抜きたい~  作者: タスマニア


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美濃内乱

1555年 11月 美濃国 稲葉山城 屋敷


 「積年の鬱憤を晴らし、父斎藤利政の圧政を終わらせん!」



 斎藤義龍は、二人の弟の骸を目の前にして日根野弘就・作手棒兼常を前に宣言する。10月13日より病と称して屋敷の奥に篭もり、床に伏して機会を待っていたのだ。機会を待つこと1ヶ月以上。そして今日、11月22日、父利政が山麓の私宅へと赴く機会を得た。



 直ぐさま、庶家兄の隼人佐を使者にして弟二人を呼び寄せて、日野根弘就と作手棒兼常の2人に斬り殺させた。



 「隼人佐!城内の兵士達の指揮を取れ。そして、父にこの事を伝えろ。」



 興奮で、呼ぶ声が荒ぶる。自らを落ち着かせながら伝令を命ずる。



 血飛沫がべっとりと付いた衣服のまま、隼人佐は外に出て馬に乗り、兵を集めると麓に掛けていく。恐らく父は、弟2人を殺したぐらいでは此方に屈しないだろう。いや、2人を殺したからこそ、私には絶対に屈しないに違いない。



 「日根野、其方は、美濃国中の者を調略せよ。父の悪行を並び立てれば多くが我々の側に着くであろう。急げ、父に遅れをとるな。」



 「御意。」



 「作手棒は、この者たちの首を取り城下に晒せ。」



 「はっ!」



 矢継ぎ早に指示を下していく。老いたとはいえ父の力は侮れない。もうそろそろ、弟達が殺されたことを知るだろう。直ぐにでも、軍勢を集めて安全な場所に引くだろう。



 家督継承の問題や内政によって父は家臣たちからの忠誠心を失いつつある。ここに勝機がある。一挙に家臣を纏めることが出来れば、父を打ち倒すことができるであろう。出なければ弟達の次に私の首が晒されることになるだろう。



 首が無くなった、2人の弟達の遺体が下人達によって運び出されていく。心の中で2人に手を合わせる。弟の家臣と私の家臣のあいだで諍いがあったが、弟達に悪感情は無かった。



 「我らが一国衆であればこのような事は、無かっただろう。弟達よ、この咎は死後の地獄にて受けよう。」



 運び出される弟達に別れを告げる。家督争いで親族を殺すことは、武家では珍しくない事だ。されど同じ父母から生まれ、血肉を分けた兄弟の間柄。自らの魂を切り裂く様なもの。なんとも言えぬ、痛みが胸の内にある。弟達が極楽浄土へ行けるように心の中で手を合わせる。



 外を見ると、城下の町のあちこちから火の手が上がっている。恐らく事態のあらましを知った父が兵を集め、火を放ちながら落ち延びるつもりなのだろう。



 そのままこの稲葉山城を攻め登らないのは、思ったより兵が集まらなかったのだろうか。それなら、我々の勝ちは決まった様なものだが。




     斎藤道三


 (やりおった!)



 心中は、この一言で埋め尽くされている。儂に似ず、心悠々で温和な性格をしている義龍がまさかこの様な行動に出るとは考えた事すら無かった。



 まさか仮病と偽って1ヶ月以上機会を伺っていたのか。いや、1年以上家督が不安定な状態に置かれながらその心中を誰にも語らず、ひたすら牙を研ぎつつあったのか。



 「この道三、我が子の力量するら見抜けぬとはいつの間にか耄碌しておったかいや、我が子可愛さに目が曇ったか。」



 考えが頭を巡る。堂々巡りになった所で思考を無理やり打ち切る。このまま屋敷に留まっていれば、宜しくない。追手が来るはずである。



 「兵を集め、町に火を放つ。我らは大桑城に落ち延びるぞ。」



 周囲の者に命じると、最小限の荷物を纏め、屋敷に火を放つ。それと同時に松明を持った兵が散らばり城下町の各所で火を付けて回る。これで追手を振り切ることが出来るだろう。



 思ったよりも兵が集まらなかった事が深刻である。集まらない事は覚悟していたが、その想定を更に下回っていた。六角に叩かれた事が影響しているのであろう。



 「まさかここまで、兵が集まらんとはな。」



 これでは、戦にならんかも知らんな。されど、弟を殺す様な奴を息子とは思えん。戦国乱世において最も頼れるのは、身内ぞ。血の薄くなった分家なら兎も角、弟を斬るのは自らの手を切り落とす事と同義。うつけか、儂とおなじマムシか。




    観音寺城 六角義賢

 斎藤内訌。この知らせを聞いた時は、笑いが止まらなかった。我が親族である土岐頼芸を追い出し分不相応にも美濃国主と名乗った天罰よ。



 「進藤、新年を前にしてこれは誠にめでたいことではないか。このまま親子諸共共倒れにならぬかの。」



 「御館様に敗れた道三を担ぐ事は出来ぬと、息子を担ぎ出したのですかな。はたまた別の問題か。ここで御家騒動を起こすとはあまりにも時勢が読めておりませぬな。」



 「殿、此方に今現在の美濃の内情であります。」



 そう話していると、影より藤林長門守が美濃の内情を纏めた文を出してきた。孫子も言う通り、相手と己を知ることが勝利への第一歩なのだ。



 「どうやら、家督の問題で利政の嫡男が同腹の弟二人を呼びつけて殺したようだ。残念ながら利政は、家臣たちの支持を得られなかったのか兵が集まらず、大桑城に逃げ込んだようだ。」



 「何となんと。それではこの内訌は早く収まりそうですな。」



 「いや、利政が逃げ込んだ大桑城のは雪が降る故それが溶けるまでは互いに睨み合うのではないか。」



 「今回は、永原が正しいだろう。両者とも我らへの出兵で疲れが溜まっているはず。いきなりは動けぬだろう。」



 

 「進藤・永原、もし内訌が長引くなら再び高須城の土岐頼芸殿を担いで美濃を攻めとってしまおう。これで安心して三好と対峙できる。家臣の皆には負担をかけるがな。」



 進藤・永原の両者から反対の意見は出なかった。息子の忠定とは違い、我ら本軍は殆ど戦をせず余力が残っている。ここで、尾張で目立った成果を上げられなかった忠定を呼び寄せて幾つか戦果を挙げさせて、自信と箔をつけてやろう。下賤な物の背中を叩き切ってくれるわ。

ここで美濃の一部を切り取りたいよね。

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人材も欲しいところですな
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