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六角氏軍記~戦国乱世を生き抜きたい~  作者: タスマニア


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尾張撤退2

1555年  7月 那古野城 織田信長


 「殿、六角より和睦の申し入れが。」



 「内容は。」



 どうやら六角の腰抜けは、岩倉を囲めば我らが和睦に応じるとでも思っておる様だ。まだまだ我らには余裕がある。幾らでも抵抗してやろう。



 「和睦なんぞ撥ね付けろ。我らは勝てるやもしれぬ状況。六角を尾張から追い出してくれるわ。」




 「されど、そろそろ今川の動きが怪しくなっております。今年の2月には鳴滝城の山口が今川方に転じておりますし、三河の支配も固めつつある今、下手をすれば六角と今川に本格的に挟み撃ちされかれぬ状況です。」




 戦の序盤は、屋敷に籠っておった不忠者が澄まし顔で何か言いよる。だいたい、お主が序盤から我に協力して居ればここまで苦労する事もなかったかもしれぬのに、偉そうな事を言いよって。



 「確か、六角からも今川に背後を突くようにとの連絡が行っておったな。されど林、我々は未だ戦う力を残しておる。六角が我より奪った領地の返還が無ければ講和には応じん。」



 林は気が弱い。六角が、大軍を見せつけながら脅せばすぐさま弱気になるやもしれぬゆえ、厳しく言いつけておく。本当は他のものに任せたいのだが皆多忙であり、家中で最も格の高いものを送らねばならないが故に、林秀貞を用いることとなった。



 「何とか交渉を纏めて参ります。」




 岩倉城周辺  六角忠定


 早速、織田方より交渉役として筆頭家老の林秀貞がやってきた。どうやら、あちらも本気のようだ。



 「お初にお目にかかります。それがし、織田上総介信長が家臣林秀貞にございます。どうかお見知り置きを。」



 「林殿よくぞ参られた。こちらにおわすのが、六角伊賀守忠定殿であられる。そして、某が三雲紀伊守賢持である。此度の交渉では、某がお受けいたそう。」



 基本的には、こちらの戦力の方が大きいので形としてはこちらが上手にでる為に少し横柄に振る舞う。そして、脅しの意味も込めて本陣の周りでは青地達が配下の兵達を率いて団体行動を取るように命じている。大きな掛け声がここにも響いている。



 「時間も有限で有ります故、早速交渉に入りましょう。」



 「ですな。我々六角方としては、此度の戦役の主目的であった土岐頼芸殿の美濃復帰と斎藤利政の懲罰これが達成しつつある今、織田殿と戦う意義が薄れております。そこで、我らは同盟を組んでいる清須織田家の領地の保全と松葉・深田両城の割譲をお願いしたいです。それならば、残りの津島を初めとする西尾張の領地は中島・葉栗郡を除き返還し、岩倉織田家の領地の領有もお認めしましょう。」



 「な、なんと!つまりは、ごく一部を除き元の領地はお返しいただけると!」



 「勿論であります。我らの主敵はあくまで斎藤。此度の戦は、織田殿との戦は連携されないための予防措置というようなもの。如何かな。」



 まさかの破格の条件に林秀貞は狼狽している。圧倒的に有利な側がこのような条件を出すとは思わなかったのだろう。それに特に駆け引きなく単刀直入に提示された事も驚きに拍車をかけただろう。



 「まさかこのような破格の条件、されど一つ我らが尾張の国主である斯波義銀殿お立場はどうするおつもりでしょうか。もし、色よき返事をいただけるなら、すぐに我が主と相談したいと思いまする。」



 「勿論、此度の斯波義銀殿に関しては先代であらせられる斯波義統殿の地位を継ぐことに何の意見がありましょうか。ご安心くだされ。林殿、慌てなさるな。直ぐに帰れば織田殿に怪しまれるかもしれませぬ。聞く所によると、織田殿と幾度か揉められたとか。そのような貴殿が早く帰れば何か取引したと思われるかもしれませぬ。しばらく本陣におられるがよろしい。」



 ここで慌てて腰を浮かせて、帰ろうとする林秀貞を留めおく。主君と揉めている重臣がさっさと帰ってきたら怪しいことこの上ない。



 「どうですかな。是非とも我らが近江流の軍学でも見ていかれたら。」



 そう言って無理やり惜し留めると、伝令を走らせる。直属の旗本衆には、学校の体育でよくやる行進等の団体行動を叩き込んである。上官の一声で1千人が隊列を変えたり、横隊から縦隊に変わる様は圧巻である。



 「如何ですかな。林殿。我らの兵の規律は。」



 「某は数多くの戦を戦って参りましたが、この様な軍勢を見たのは初めてですぞ。これが近江流の軍学ですか。」



 「いかにも。我らは集団を1つの生き物のの様になるまで、訓練を積みます。こうやって鍛えられた軍は、戦場でも粘り強く戦う事ができます。」



 林秀貞の顔には、驚愕の感情が浮かんでいる。だが、コレはハッタリだ。1万人も常時訓練させる余裕は、流石にない。常備軍として雇っている旗本衆であるからできる芸当だ。引き連れている軍勢が皆同じ様なことができる口ぶりをしているだけだ。



 「林殿、我が主はもし事を起こすのならばこの軍勢を率いふたたび尾張に加勢に参るでしょう。貴方ほど、織田家に忠実に仕えている方なら主君の力量の大切さはよくお分かりでしょう。」



 三雲が、傍に近寄って囁きかける。岩倉攻めで一撃を入れられたとはいえ、全体としてはこちらが押しており、それに対して信長は有効な手立てをあまり打つことが出来なかった。領地は戻ってくるにせよ、信長の主君としての力量には疑問が残るはずだ。ここで御家騒動の種を確りと埋めておこう。



 「林殿、そろそろ良い時間になりました。これはほんの心付けです。これからの交渉もよしなに。」



 そう言って金の詰まった袋を渡すと、断る暇もなく彼を陣の外に出す。これで、筆頭家老と当主の仲がさらに悪くなってくれると良いのだが。

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