尾州侵攻5
図は簡単なものなので地形が結構間違えていると思います。
1554年4月 清洲城 六角忠定
やっとこさの思いで、清洲城に到着した。織田信長が桶狭間の戦いのように少数で突っ込んで来るのでは無いと、恐れながら進軍したため何時もよりも時間がかかった。
そうして着いた清洲城には、いるはずの斯波義統や坂井大膳とその一党がまるまる消えていたのである。当然、残された者や到着した我が軍勢も上から下まで大騒ぎである。
何処に行ったと近場を探していたところ、川沿いで切り捨てられた兵士の死体とかろうじて生きている兵士が見つかったことにより、斯波義統は討死し、その息子は織田信長の元に逃げ伸びたことが分かった。
「若様これは、大変なことになりましたぞ。大義名分が相手方に渡ってしまいました。」
三雲賢持が言う。織田信友は、顔を真っ青にしてこちらに土下座しているだけだ。全く役に立ちそうにない。
「賢持、各城に伝令を出せ。信長が大義名分を得たとして積極的な動きを見せるかもしれぬ。藤林長門守、岩倉織田家との同盟締結を急ぐのだ。斎藤と織田の連携を断ち切らなければなるまい。」
急いで、岩倉織田家との同盟を結び、地理的に斎藤と織田信長の連携を断ち切らなけれければ、斎藤が更に援軍を送ってくる可能性がある。そうなれば兵力で逆転されるやもしれない。
「注進!注進!岩倉城落城!織田信安親子が自害されたとの事!」
信長の動きはこちらの考えよりもはるかに早かった。大義名分を手に入れた時の動きが恐ろしく早い。流石は天下を手にした群雄であるとただ舌を巻くしか無かった。
岩倉城が落ちたことにより、稲葉山城から犬山城を経由して、那古野城に入る道ができてしまった。今度はこちらが大垣城や稲葉山城からやってくる斎藤の援軍をより警戒しないといけなくなった。
みすみす錦の御旗を逃した坂井大膳を恨むしかないが、本人は何処かに逃げ出したので責任を取らせて打首にする事も出来やしない。加えて家中の有力者が突然消えたことによって、清須織田家家中は機能不全に陥っている。
急いで、北伊勢に更なる動員をかけなければならない。もっと軍勢を呼び寄せて、磐石の体制を築かなければならない。せめて二倍の兵力は欲しい。決戦を行うなら三倍は必要だ。同数の兵でぶつかりあったら、私は敗戦し討死する自信がある。
計算外のこの事態を十分以上に活用する信長は恐ろしい。対抗策として何とか織田信長とその弟信行を仲違い出来ないものか。強い敵は、弱らせてから圧倒的な兵数差で叩き潰すものだ。決して、物語のように華々しく正面決戦を行うものではない。決戦は勝敗が決した時に行うものなのだ。
「青地茂綱は、部隊より斥候を出せ。川の渡河出来る地点を監視させろ。数が足りなければ梅戸や伊賀勢より出させろ。これ以上相手に先手を取られれば我らは清須から撤退せねばならぬ。」
幸いなことに川という天然の堀がある程度敵の進軍路を限定してくれる。無理矢理、渡河出来ない場所を渡ってくるかもしれないので、定期的に斥候を走らせて軍勢がやってこないかを見張らせる。川を超えた敵を素早く補足することで、敵の殲滅を狙うのだ。
後は、各城の連絡を密にして互いに連携し合えば良い。鉄の守りをもって信長に消耗戦を仕掛ける。その為のにも、とある秘密兵器を用意してある。
那古野城 織田信長
「この度の守護斯波義統殿が討死された事、お悔やみ申し上げまする。」
「信長殿、どうか其方の力を持って元凶である清須織田家を討ち滅ぼした、六角を追い払ってくれぬか。」
斯波義統の遺児、義銀は涙ながらに信長に訴える。信長は、平伏したまま静かにその言葉に耳を傾ける。
「なれば、義銀様この信長に一言打ち払えと申し付け下され。さすれば、某は義銀様の刀となりこの尾張の地を荒らす無法者達の首を並べてご覧に入れましょう。」
覇気と自信に満ちた声で信長は答える。偶然とはいえ、大義名分がこちら側に転がり込んできたのだ。最も懸念していた、守護より討伐令を出されれる事態が自分ではなく、相手方に出たのだ。
「おい、佐久間信盛、池田恒興。直ぐさま、軍勢を集めよ。すぐに、岩倉織田家を攻めるぞ。」
「殿お待ちください。岩倉織田家はまだ旗印を明らかにしていないはず。ここはまず、書状を送り去就を鮮明にさせることが重要ではないかと。」
「佐久間殿の言う通り、それにまずは我らではなく、筆頭家老の林殿を通じてことを進めるのが道理であります。戦とはいえ、軽んじてはならない事がありまするぞ。」
佐久間と丹波両名が信長を諌める。
「二人共耳をかせ。林は、この危急存亡の秋においても些細な事に拘り家中で怪しげな動きをしておる。このような輩と図っておったら我らは戦に負けるに決まっておる。だから、優秀なお主らを信頼し大事を任せようと言うのだ。それに、一門である織田信光も賛成してくれるだろう。」
「何と、殿はそこまで考えておられたのですか。されど、岩倉をどう言った理由で責められるので。」
佐久間信盛が続けて尋ねる。
「岩倉は、義銀様より何度も六角や清須と書状のやり取りをしていることが分かっておる。奴らの腹はとうの昔に決まっておる。なれば我らが気づいてないと思っているのを利用してさっさと片付けてしまうのがよい。六角の援軍が入ってくる前にな。」
「そのようなことなら我ら両名にお任せ下され。直ぐさま兵を集めまする。」
両名は、納得すると直ぐさま屋敷より馬を走らせて行った。
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