和睦
あと少しで戦は終わると思います。
1554年 5月 北近江 田上山 朝倉宗滴
「流石は定頼の薫陶を受けた六角家中の武将達である。山田山や高月に陣取られて、小谷城との連絡が取れぬ。」
朝倉宗滴は、陣中に六角勢の布陣を聴きながらて独り言ちる。六角勢と本心では戦うつもりは無いが、公方様の前でそのようなことも言えるはずもなく、陣を柳ヶ瀬から前方の田上山に移し、戦う意地を示しておる。
「まさか、4万近い軍勢を動員してくるとは思わなんだ。こちらは小谷城の兵も合わせても1万あまり。未だに攻めてこないのは、儂らが公方様を担いでおるからであろう。」
小谷城は、戦が始まって直ぐに完全に包囲されており、兵糧の不足が甚だしいと聞く。何とかして対陣を長引かせる為に兵糧を運び入れてやりたいが、小勢の儂ら到底無理な話じゃ。
儂が何とかして対陣を引き伸ばしておるかと言うと、公方様と六角家との和睦交渉がなかなか進展せぬからである。六角方は小谷城に籠城しておる者共の首と斎藤利政の美濃国守護職の剥奪を求めておる。されど、公方様は自らの発言の沽券に関わるとして拒否されておる。
互いに平行線のままもはや決着をつけるには戦しかないという雰囲気が両軍を覆い始めた頃、畿内近国の政治情勢を変えんとする情報が入ってきた。
阿波国平島より足利義維が三好実休らに担がれ、堺に上陸したとの報が三好家重臣松永久秀より入ってきた。この報により、公方様の態度が急激に軟化し始めた。されど、儂に言わせれば遅すぎる。
「宗滴よ、其方は直ぐさま六角との交渉を纏めるのだ。このような所で油を売っておったら義維めに将軍位を奪われるかもしれぬ。」
「この宗滴、和睦に向けて粉骨砕身させて頂きます。されど、公方様今や六角の元には三好より対陣を長引かせて欲しいとの書状が送られているとの報があります。ここはどうか公方様も一定の譲歩をお示しください。」
儂の言葉に公方様は顔をしかめられる。
「公方様、宗滴殿のおっしゃる通り。ここは、大局を見るべきです。小さな恥をかくことをおそれ、将軍位を失ったのであれば後世において笑いものになりまするぞ。」
大舘晴光殿が、諫言される。上野の奴が怒りの顔をして怒鳴ろうとしている所を、儂が睨んで黙らせる。このような佞臣を近くに置いている様では、これから先、京に復帰しても長くはあるまい。
「分かった。今回は余が折れよう。美濃国守護職の解任を認める。しかし、此度余の決起に応じたもの達の命は保証して欲しい。これだけは譲れぬ。」
「ご決断感謝つかまつります。この宗滴、必ずや良い報告を持ってまいます故、もう少しの辛抱でございます。」
何とか六角方が納得しそうな譲歩を公方様に認めされることが出来た。これを早急に書状にしたため、交渉しなければなるまい。斎藤のことは儂の知ったことでは無い。公方様には、京しか見えておらん。儂も最近まで敵対しておった仇の斎藤に骨を折って和睦を斡旋してやる義理もあるまい。
丁野山城 六角義賢
「御館様、朝倉宗滴殿より本格的に和睦の為の交渉を始めたいと使者がやって参りました。」
小谷城を包囲して早くも1ヶ月近くの時が経った。この間に畿内の政治情勢は大きく変わった。公方様は、早く京に帰りたいのだろう。
「後藤よ、其方はどう考える。ここはもう少し、焦らしてより良い条件を引き出すべきか。」
「御館様、ここは素直に和睦を致しましょう。朝倉宗滴殿のお顔を立てるべきです。元々、我ら六角と朝倉は定頼公以来の深い仲。これを失うのはよろしくないでしょう。」
「…分かった。直ぐに交渉に移ろう。進藤、小谷城を下した後について如何がする。」
「我らは、まず朝倉と公方様とだけ和睦を結びましょう。その後全軍を率いて、斎藤を叩くのです。戦にならずとも美濃方面に領地を拡大出来るやもしれませぬ。さすれば、土岐殿の国主復帰もやりやすくなると言うもの。」
「後藤賢豊、其方が和睦の交渉を纏めるのだ。布施は、和睦後3千の兵を率いて浅井久政を小谷城内に入れて、反旗を翻した者たちへの仕置きと浅井の監視を任せる。進藤は、我が軍の先鋒として街道を通り不破関に向かえ。」
大軍を集結したいまここで、今までに山積した問題を一挙に解決するのが良いだろう。ここで忌まわしい斎藤に一撃をくれてやれば鬱憤が晴れるであろう。
「吉田重政殿、其方は4千の兵を率い今より尾張の我が息子忠定の援軍として赴いて貰いたい。受けて貰えぬか。」
「御館様直々の願い。断れるはずなどございませぬ。微力ながら助太刀してまいります。」
「老体に鞭打たせるようで申し訳ないが、其方の忠義を嬉しく思う。忠定には、隙があれば兵を率いて美濃を脅かすように伝えよ。」
「この重政にお任せあれ。」
弓馬の道に長けた重政なら、若い者が多い忠定の軍も三雲と連携してよく導いてくれるであろう。
突然六角に殴られて、この後さらに今川に殴れることが確定している織田信長。彼は生き残れるのか!?




