阿波公方
これから更新を早めていきたい。
1554年 4月 摂津 芥川城山 松永久秀
今、三好家中では阿波に逼塞している足利義維様を新たな公方様にと持ち上げる機運が三好実休様を中心に盛り上がっておる。自らの外交手腕を生かし、将軍として認めさせ続けた足利義晴は遠の昔に亡くなっており、その息子義輝は即位早々朽木所か越前にまで逃げ延びており、朝廷は将軍としての役目を果たしていないと見ており障害とはならないだろう。
六角は、朝倉・織田・齋藤と事を構えており、我らを敵に回す余裕は無い。畠山も当主畠山高政が我らとの同盟を堅持しており、畿内の内外において我に立ち向かう余裕のある大名はいない。
されど、遠国の大名の殆どは義輝を公方として扱っており、畿内や畿内近国の者の多くは心の底では義輝を推しているだろう。それ程までに義晴が築いた地盤が強固なのだ。下手に義維様を担ぎ上げると痛い目を見ることになる。
「長慶様、松永であります。御時間を頂きたく。」
「久秀か。そのように改まってどうした。何か良からぬ事が起こったのか。」
長慶様は、柔和な笑みを浮かべながら対応される。
「良からぬ事が起きようとしております。」
某の言葉に長慶様は、一瞬で顔を引き締められ畿内一の大大名の当主としての顔つきとなられた。正に、この緩急こそが三好家をここまで強大な勢力に育て上げたのだ。時に容赦なく、時に寛容。正に覇者を体現しておられる。
「どのような事なのか話してみよ。」
「長慶様も知っての通り、三好実休様を中心として一部の家臣において足利義維様を新たな公方様に担ぎ上げる動きがございます。その動きが昨今の情勢により大きなものとなっております。この事について僭越ながら諫言をさせていただきます。」
「その事か。残念ながらこの件については弟達と話し合い、足利義維様の擁立を進めることで合意しておる。そもそも、今の公方様は暗殺を仕掛けてくるなど武家の棟梁としての器がないと言わざるをえない。佞臣を傍に侍らせ、誠心誠意尽くす忠臣や大名を遠ざける所か攻め滅ぼさんとしている。義維様と比べればどちらが優れておられるかは比べるまでもない。」
「されど、この日の本において義維様を新たな公方様として認める者はそう多くはいないと考えられますぞ。そのような事を強行すれば、三好家が孤立する事になるやもしれませぬ。また、家中の者共の反発も招きますぞ。」
聡明な長慶様の事だ。このような事は分かっておられるのだ。されど、三好実休様を初めとする弟君達や一門衆の権力が強くなっているのだろう。某も余所者としてのまだまだ軽んじられておる。
「公方様と六角殿とが和議を結べば何とか弟達を説得できるかもしれぬのだが。この話はここで終わりである。部屋より下がれ。」
「御時間を割いていただいたことありがたき幸せ。」
部屋より下がった某は早速行動に移すこととした。足利義維擁立の為と称し、六角方に弁解の手紙を送るのだ。そうすれば、公方様との戦に消極的な六角はそれを公方様に伝えて和議を結ぼうと動くだろう。公方様も慌てふためき和議を結べぼうとするだろう。もし結ぶことが出来なかったとしても、そのような噂が経つだけでも擁立遅らせることが出来る。その間に某が六角と公方様の和議を取り結ぶ時間が出来る。
今の公方様の首根っこを抑えて言う事を聞かせるのが我が三好家にとって最良の道。やむにやまれぬ事情で代替わりさせるとしても、もう少し公方の権威が落ちてもらった方がやりますい。どちらにせよ、義輝様には義晴様の遺産を食い潰していただかなければならない。
六角も和議を結んだとしても、朝倉には不信感を抱き、齋藤と織田とは敵対を続けるであろう。東に敵を抱えた状態では、我らと対立しようとはするまい。
こう考えると公方様は、我らにとってとても都合のよい動きをしてくれておる。担いでいる神輿は軽くて正統性が高い方が良いのだ。
この戦が終わったら商人とかも出したいな。




