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六角氏軍記~戦国乱世を生き抜きたい~  作者: タスマニア


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尾州乱入4

なかなか話を思いつかない。

 1554年 4月 清洲城 斯波義統



 此度の六角氏の尾州への乱入は、許すことが出来ぬ。実権はほぼ無いとはいえ、尾張国内の問題に首を突っ込まれるのは我慢ならん。尾張国内の問題は、斯波氏の職分ぞ。もはや、清須には居ることが出来ぬ。



 何とかして脱出の機会を伺っておった。すると、清須城内には、この事態を憂う者が我が一族以外にもいたのだろう。那古野の織田信長より我を居城に迎えたいとの連絡が入ってきた。新たに神輿に担がれるだけであろうが、神輿でたる我にも担ぐ者を選ぶ位の事はやらさせて貰う。



 「父上、我らに残された時間は多くありませぬ。六角の軍勢が城に入ったら抜け出すだことは困難になります。何とかして抜け出す方法を考えなくては。」



 「落ち着くのだ義銀。急いては事を仕損じる。」



 逸る息子をなだめながら、策を練る。城の目の前の川を渡れることが出来れば追っ手から逃れることが出来るであろう。しかし、六角の乱入以来我らへの監視の目は強くなっておる。城から出ることすら儘ならぬ。



 「ただお主の逸る気持ちもよく分かる。我らへの監視の目は日々強まるばかり。もうすぐすれば六角の者も監視に加わるであろう。」



 「父上、私に良い考えがあります。六角が城に到着する当日に脱出するのです。当日であれば城内の者の気も緩むでしょう。そこを付くのです。父上より、織田信友らに六角への出迎えを命じ城内の兵を減らします。彼らが出ていった頃を見計らい、我らも供を率い周囲を見て回るといい無理やり城を出てそのまま川を渡り逃げ延びるのです。」



 「ふむ、近くを見て回るだけなら何とか城の外に出ることなら出来るであろう。しかし、直ぐに帰らぬとして怪しまれるのであるまいか?」



 「もし追っ手が来れば、私が父上の盾となり殿を努めましょう。」



 「ならん、ならんぞ義銀。子が親より早く死ぬなんぞ、親不孝の最たるもの。儂が殿を務める故その後其方が私の仇を取るのだ。」



 息子の覚悟と成長を嬉しく思いながら、我らはこの計画を小さな紙に認め、それを帯の中に隠し家中の者に回覧させた。申し訳ないが息子の一人である、長秀には清須城に残ってもらう。



 これは、監視の警戒を解くためである。一族のもの全てが城外に出るとあらば怪しまれるであろうが、幾人かが残って居れば怪しまれにくくなるというもの。上手く生かされることがあれば、敵味方に分かるることがあってもどちらかは家を残すことが出来る。



 脱出当日の日になると、儂は信友と河尻に命じて六角への出迎えに行かせた。彼らは7百ばかりの兵を率いて城を出ていった。今の城内には3百ばかりの兵が残るのみである。



 「義統様、どうか150人程でありますが、護衛をお付けいたします。今は、戦時であります。御身に何かあれば一大事でございます故。」



 「儂にそれほど兵を割けば城内の守りが薄くなるのではないか。」



 「ご安心くださいませ。最低限の兵は残っておりますし、もうすぐ六角殿の軍勢がお着きになります。義統は、くれぐれも遠出されて到着に間に合わない等という失態は犯されぬ様にお願い申し上げます。」



 「分かっておる。」



 坂井大膳の陪臣の身でありながら、まるで対等である立場からの弁えぬ物言いを叱りつけそうになったがそれを必死に抑えながら務めて冷静を装う。



 「丹波祐植よ我が留守の間、我が息子と妻を頼むぞ。」



 「御意。」



 策が漏れる事を防ぐ為、ここに残る者には我らが今日ここに帰らぬことを伝えてはいない。しかし聡明なあいつのこと我が信長の元に走ったと知ればその真意も汲み取ってくれるであろう。




 「皆、ここら一帯で休憩を取ろうではないか。」



 我らは、城から出た後川に沿って南に下り熱田神宮の近くへ向かって行く。4月とは言え今日は日差しが強く兵の多くが額に汗をかいており、疲労が溜まっている様子である。これは正に天の与えた機会である。




 我らの監視役である川原兵助に川の水を汲んでくるように命ずる。城内では徒党を組み我がもの顔で振る舞う人物でも儂と一対一になれば皆萎縮し、言う事をよく聞く。このような小物は群れておかなければ大きな態度をとることが出来ぬのだろう。



 供の者に目配せをし、ゆっくりと儂の周りに人を集める。監視の兵は皆木陰で休息をとっており、我らに注目するものは少ない。



 儂は覚悟を決めると、馬に飛び乗り一挙に川に向かって駆け出した。息子の義銀や供の者達も着いてきていると信じて馬を走らせる。



 「守護が逃げ出したぞ!」



 「斯波様が織田信長領に向かっているぞ!」



 後ろの方から残された兵の怒号が響く。それから直ぐに矢や鉄砲の弾が飛んできた。兵達がなんの躊躇もなく儂に鉄砲や弓を射掛けてくるとは。数代前の当主であれば有り得なかったことだ。斯波の持つ名前の影響力が低下していることを身を持って思い知らされる。



 馬をさらに急がして、堤を走り抜ける。堤を駆け降りようとした瞬間、胸から燃えるような熱さが駆け上った。それと同時に背中に何か鋭い物が突き刺さる感覚がある。



 直ぐさま矢弾が儂に当たったことを理解した。左手側を見ると、水を汲んできたのであろう、川原一党の姿が見えた。



 「貧すれば鈍するとはこの事か!」



 少し考えれば分かる事に思い至らず、得意になっていた過去の己を悔いる。だがもう儂は助かるまい。なら、若人我が息子の道を切り開くのが最後のやってやれること。



 「殿!その御怪我どうされました!」



 後から追いついてきたのであろう、森政武らが声を掛けてくる。震える手で刀を抜くと、槍を構えて少しづつ近づいてくる川原一党を刀で示し叫ぶ。



 「もはやこの傷では助かるまい。儂は名門斯波の当主!戦場で一人も道連れにせず死ねるか!」



 もはやなりふり構っておられぬ。森政武らに我が息子の無事を託すと、馬に鞭打つ。幸いなことに馬は無傷である。槍を恐れることなく一党に向けて走り出す。



 人馬一体となった儂に気圧されたのか雑兵の槍衾が乱れる。隙間に馬を捩じ込むと、太刀で槍を切り払い雑兵を一気に蹴散らす。逃げ出そうとする兵を2、3人切り捨てると、続け様に一刀の元に川原を切り捨てる。



 我ながら鬼神の如き力であると何処か冷めた目で見ていたが、川原を切り捨てた太刀の勢いに体は耐える事が出来なかった。馬から落ちると同時に意識が途切れた。

2週間に1回は投稿出来るように頑張ります。

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>「ご安心くださいませ。最低限の兵は残っておりますし、もうすぐ六角殿の軍勢がお着きになります。義統は、くれぐれも遠出されて到着に間に合わない等という失態は犯されぬ様にお願い申し上げます。」 義統”様…
斯波長秀は名前でわかると思いますが、信長に保護されたあとに元服して長秀と言う名前を付けられたと思います。 幼名はわからないですが。
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