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六角氏軍記~戦国乱世を生き抜きたい~  作者: タスマニア


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尾張の楔

織田信長の絡むと言ったな。あれは嘘だ。変わりに信友君とからみます。

 1553年 11月 清洲城 織田信友


 坂井大膳に権力を握られ、織田信長と対立した我らは、今や清洲一帯に押し込まれておる。あの信長に手も足も出ず城下一帯を放火略奪され威信を傷つけられた。これによって信長は、「うつけ」との評価を覆し、一躍尾張国内での評価が高まった。


 押し込まれた我らに手を差し伸べる勢力などなく、後背の美濃を治める齋藤利政は、織田信長の義父であり我らは周囲を信長や信長に与する勢力で囲まれておる。もはや我らは進退窮まってしまった。


 「殿、使者が参られました。」


 突然、坂井大膳が使者を伴ってやってきた。今までも薄気味悪いと思っていた、大膳の顔は萱津の戦い以降さらに気味が悪くなっておる。ただ、主君を超える家中の実力者に否と言うことが出来る訳もなく渋々、入るように言う。


 「殿、何を呆けておられるのですか。このお方は、六角家からの使者ですぞ。上座をお譲り下さい。」


 六角。その名を聞いた瞬間驚きの余り坂井の無礼に怒る気すら吹き飛んだ。私は、坂井が私の知らぬ間に他家と使者のやり取りをしていた事を咎めることすらせず、急いで上座を譲った。


 「私は、六角忠定殿より織田信友殿と交を結び、織田信長と対抗する為の同盟を組みたいとの命を受けやって参りました。」


 何と、六角忠定といえば隣国の伊勢や近江を治める六角義賢の嫡男にして、帝より一字を拝領し、北伊勢と伊賀を統治する人物。官位官職は、従四位上左近衛中将と伊賀守。


 恐らく、この同盟の話を持ってきたのは、齋藤と対立している六角が齋藤と繋がっている織田信長が尾張を統一し、伊勢を攻めるのを恐れて、信長と敵対している我らに近づくためだろう。


 「六角家との同盟、誠にありがたき申し出でであります。恐れ多い事ではありますが、我らの主君斯波義統と結ぶのが本来あるべき姿ではありませぬか。」


 思わず聞かずには居られなかった。我らが主君斯波義統は傀儡とは言え、その家格は高く順当に行けば六角家が本来結ぶべき相手だ。


 「確りと理由があります。斯波義統殿は織田信長との直接的な利害関係がない事が原因ですな。我らとしては、信長と激しく対立している織田大和守家の方が手を結ぶに相応しいと考えております。」


 「此方としては断る理由なんぞ御座いませぬ。ただ、あまりにも意外なことで思わず聞いてしまった次第にございます。」


 「信友殿の仰ることはよく分かります。我が主君は、この同盟は暫し秘密としたいと仰られておられます。織田信長にこの同盟が発覚するまでに、我らが武器や銭・兵糧を清洲城に運び込みます。これらを使い防備を固めて貰いたい。」


 恐らく、北伊勢での地盤を固め切るまでの時間が欲しいのだろう。恐らく同盟を結んだ我らはこれから六角に使い倒されるだろう。同盟と言っても清洲一帯の小領主と、三カ国の大大名では格の差は歴然。我らは、尾張に手を伸ばしたときの先兵として使い潰されるか、適当な理由をつけて葬られるか。二つに一つ。ただ、我らに選択肢は無い。滅びの時間を長引かせるだけとなろうとも。


 「なんと、いたれり尽くせり。この織田信友六角忠定殿に大いに感謝している事をお伝えください。」


 その後、使者殿を城に泊め出来る限りの持て成しをして帰ってもらった。坂井大膳は、上機嫌でこれで信長恐るに足らずと言っているが、自分がこの先生き残れると信じて疑ってない姿は何処か滑稽に感じられる。さて、これからの我が織田大和守家はどうなるのだろう。




 1553年 12月 梅戸城 六角忠定


 今ここには、北伊勢の小領主達が集められた。主に幕府奉公衆や十ヶ所人数の者達が急遽集められた。皆どのようなことで呼ばれたか分からず招きを断った者も少なくない。彼らが集まった広間の上座に座り彼らに話しかける。


 「皆、年末年始が迫り来る中よくぞここまでやってきてくれた。めでたい新年を前にして其方達に残念な事を伝えなければならない。」


 「忠定殿一体何があられたというのでしょうか。」


 集められた者達の誰かが声を上げる。


 「とある人物よりこのような書状が私の元に持ち込まれた。」


 齋藤利政から北伊勢の小領主達に当てられた手紙と、小領主達が何があった時は齋藤利政と同調し一斉に蜂起するという事が定められた起請文であった。


 「お前達は、表面上は私に従いながらその薄汚い腹の中で、自らの誇りを忘れ卑しき出自の齋藤利政と結び私への反抗を画策していたとは。一体どういう了見ぞ。」


 私の剣幕に気圧されたのか誰も言葉を発さない。このまま一気に畳み掛ける。


 「無言は、事実だと認めている証拠。この不忠者達を捕えよ。」


 号令と共に隠れていた兵士達が一気に部屋に雪崩込む。突然の事でほとんどの者は抵抗することすら出来ず捕らえられた。僅かに抵抗した者も切り捨てられるだけであった。


 捕らえた者達に検地やそれに応じた軍役の賦課、関所の廃止等の条件を突きつける。応じる者は殆ど出なかった。仕方が無いので応じなかった者達は、強制的に領地を取り上げた後族滅することとしよう。


 城での捕り物が始まると同時に、梅戸高秀・三雲賢持・青地茂綱がそれぞれ軍を率い城に来なかった領主達の城を攻め族滅することとなった。北伊勢は、僅か3日で完全に六角家の支配下となったのである。

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