北伊勢謀略
暫く更新は遅くなります。
1553年 10月 伊賀上野城
まだまだ未完成の伊賀上野城の一角に於いて、北伊勢攻略の為の話し合いの場が設けられた。この会議に参加するのは、伊賀守護代の三雲定持・藤林保豊、三雲賢持、青地茂綱、伊勢守護代の梅戸高実の嫡子である梅戸高秀、甲賀衆筆頭の望月出雲守である。
「皆多忙の中よく集まってくれた。」
「我らは、若様と多くの事を共に行い、互いに利益を分け合った間柄にございます。若様の求めとあらば日の本の何処であっても駆け付ける所存でございます。加えて、遅くなりましたが、従四位上左近衛中将そして伊賀守への叙位任官おめでとうございます。」
この場で私の次に官位の高い三雲定持が参加者の代表として挨拶を述べる。
「其方らの忠節ありがたく思う。では、本題に移ろう。望月・藤林、地図を広げよ。」
車座になって座る中心に北伊勢の地図が広げられる。
北伊勢は、先の話しでも出た通り幕府奉公衆・北方一揆・十ヶ所人数の3つの勢力が入混ざっている。そして、六角家被官は主に梅戸氏が率いる北方一揆に集中している。
「主な障害となる幕府奉公衆は、その多くが土着しており、名ばかりの存在となっている。公方が若狭に落ち延びている間に徹底的に叩く。」
「しかし、土着したとはいえ、未だ幕府との強い繋がりを持つ家は多く、大義なく討ち取ると流石の幕府も介入してきましょう。」
現地の事情に詳しい梅戸高秀が疑義を呈する。
「それについては、旗幟を鮮明にせぬ各領主達に検地と軍役賦課、関所の撤去を一度に求める。これを受け入れぬのなら領地を没収すると。いわば挑発よ。」
内容としては、領主の利権を奪い、負担を押し付けるものである。このような要求が受け入れられる訳が無い。ならば、実力を持って六角家の影響力を排するしかない。この書状で、相手を無理やり決起させるのだ。
「これは……」
あまりの内容の厳しさに、皆が少し引いている様な気がする。
「無論、これは本来段階を踏んでやるべきものだ。しかし、従わないなら私が相手の事情を考えることはない。私は、私に従う者のみにしか利益を分け与えない。二心を抱きながら面従腹背する様な輩に与える慈悲は無い。しかし、私に嘘偽りなく仕えるものは決して見捨てない。これらの事は、ここにおる其方らこそが、よく知っているはずだ。」
「若様のお心よく分かりました。されど、決起した者共がこの書状の内容を広めれば我らに従う者達に動揺が走るのでは?」
「茂綱、心配はいらぬぞ。出雲守・長門守。」
「は。既に、我ら甲賀衆が北伊勢に入り、千草領が六角領になった事によって豊かになった事を多いに喧伝しております。他にも、領主間の憎悪を煽ったり、在地の領主の悪評を振りまき、領主と百姓の分断を図っております。」
「伊賀衆は、各地の城に忍び込み、城の構造・規模・動員兵力等を事細かに調べ上げております。間者も多く忍ばせおり、城攻めのさいは、内部より内応する事が出来るでしょう。また、使者として六角家被官の領主の元に赴き、知行地の安堵と忠誠を誓う起請文を書かせ、六角家への支持を取り付けております。」
「2人が言った様に、敵は丸裸になり、求心力を失っておる。最早敵は今や土台が腐っている屋敷である。一撃を加えればいとも容易く崩壊するであろう。」
伊賀と北伊勢に私の確固たる地盤を築く。そして行く行くは、美濃・尾張を手中に収めたい。豊かな濃尾平野を切り取りたい。その為の第1歩である。決して、失敗する事はできない。
稲葉山城 斎藤道三
「殿、これが六角忠定の北伊勢攻略の骨子にございます。」
間者から齎された情報をゆっくりと吟味する。元服して間もない人物が考えたとは思えない。
「確かに、近江の麒麟児は優秀じゃ。されど、未来の事を考えすぎておる。麒麟は空へ羽ばたいてすらおらぬのに、その頭は天を向き空のことばかり考えておる。地べたには、恐ろしい蝮がおる事を忘れておるかのようじゃ。」
道三は、北伊勢国衆に忠定の意図を伝え、団結する事が重要である事を説く書状を書き記す。これによって、六角家に幾らかの損害をおわせることが出来るであろう。策謀の存在こそ気付かれたが、尻尾が掴まることはなかった。
「古来より、老人の最後の楽しみは、前途有望な若者を虐め、その芽を詰むこと。老蝮の毒がいかに恐ろしいか、麒麟児に見せてくれよう。」
「されど、幾ら内情を伝えたとはいえ、北伊勢国衆が団結した所で所詮は烏合の衆。六角家との戦に勝てるとは思えませぬぞ。」
「安心せい稲葉。若狭におる公方を動かせば良い。公方を動かせば、若狭の武田・越前の朝倉が動く。この両家が動けば否が応でも六角は北に釘付けにされる。加えて公方の調略が北近江の浅井、南伊勢の北畠に伸びる。上手く行けば、我らは戦わずして六角家を崩壊させることが出来る。」
謀略・調略によって敵を追い詰める。強大な敵には正面から相対せず、寝技で勝利を掴む。実際に兵を動かすのは、最後の最後情勢が決定した時である。
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