将軍の策動
ファンタジー小説書いていたので投稿遅れました。
今週末にもう1話投稿します。
1552年 7月 観音寺城 永原重澄
御屋形様は、松永久秀から送られてきた書状を読んでおられる。その書状の内容としては、摂津で起こった三好に対する反乱の鎮圧が順調に進んでいるという旨記したものである。
事実、三好は好機とばかりに攻め寄せた波多野氏を撃退し、池田城を攻略し池田氏を屈服させている。さらに小川氏を攻略し、芥川氏は降伏寸前の状況である。反乱は事実上鎮圧されつつある。
書状を読み終えたのであろう御屋形様が顔を上げられた。
「三好家の足元で大きな反乱が起きたと聞いた時には心配したが、早急に鎮圧されつつあるというこの書状を読んで安堵した。」
「今この和睦状態は、六角家と三好家双方の力が均衡しているが故成り立っているのであります。この均衡が崩れると、将軍が策動し始めるでしょうな。」
「将軍様の隙が出来ると、大名同士を戦わせようと策を練る癖は誠に辞めて欲しいものだ。我が六角家は父定頼の以来誠心誠意仕えているのに、将軍があの様では仕える気も無くなるというもの。」
「御屋形様、どこで何者かに聞かれておるか分かりませぬ。そのようなお言葉は慎み下さい。」
「口が滑ってしまった。」
そう言って御屋形様は、笑いながら周囲を見渡す。某も両脇に座る家臣達もそれにつられて笑ってしまった。
「しかし、幼き頃は早く元服し当主となりたいと思っていたが、実際に当主となると父の偉大さ、自らが非才であることを嫌という程見せられる。幸い息子が優秀ゆえ、早く息子に家督を譲りたいものだ。」
御屋形様は、笑いながら仰るが某には御気持ちがよく理解出来るのである。先代の定頼公があまりに偉大すぎ、その孫の亀寿丸様も定頼公が太鼓判を押した秀才。この両者に挟まれ、定頼公並の働きを求められる御屋形様の心中たるや、ここに居る家臣は皆深く理解している。
「御屋形様の御苦労想像もできませぬ。されど御屋形様の物事を堅実に進められるお姿に我ら家臣一堂心から信頼を寄せております。何かご不安な点があられた時には、御遠慮することなくお呼びください。」
そう、六角家臣の長老格である平井定武が声を上げる。
「私も其方ら家臣達の助けによって政務を回す事が出来ておる。これからも至らぬ私を支えて欲しい。」
御屋形様は、仰られた。この厳しき戦国の世にあって我ら六角家とその家臣団の繋がりはまさに断金の交わりの如く強固である事がよく分かるものであった。
京 御所 上野信孝
「惜しいの。惜しいの。芥川らがもう少し粘っておれば、三好をさらに動揺させることが出来ただろうに。嘗て私の父が、大名並の栄典を送った恩を忘れたのだろうか?名門の名が泣いておる。」
そうって義輝様は、芥川らの反乱が早期に鎮圧されたことを嘆く。我ら幕臣も反長慶と親長慶の二つに分かれて争っておる。そもそも三好は、元は細川家の家臣であり我らから見れば陪臣に過ぎぬ存在。そのような存在が幕府の守護者として振る舞うなぞ、苦々しいことこの上ない。
「大樹、もう少しの辛抱ですぞ。細川晴元殿が再び軍勢を集め、三好の首を狙っております。細川殿が再び立たれた時に大樹直筆の書状をお下しになられば、六角等が必ずや同調するでありましょう。」
「そうよな、上野。長慶は、父の仇、早くあやつの首を父上の墓前に供えたいわい。」
大樹と私の密談は何度かの中断を挟みながら深夜まで続くこととなった。
観音寺城 亀寿丸
伊賀から帰ってきて、早速火薬の原料となるリン鉱石を大量に入手するために活動を始める。伊勢の鳥羽から低品質ではあるがリン鉱石を産出する。しかし、鳥羽から産出される量では全く足りないため、他にも草垣群島や与論島等から採掘するために、その地を有する大名等に書状を送る準備をする。
草垣群島は殆ど平地のない無人島である故、交渉は簡単に纏まるだろう。
与論島は琉球王国に所属しているが、琉球と交易を行っていた大内氏からその交易路を買取り、琉球を経由してそこから与論島に赴くこととなる。
恐らくこれらの採掘が始まるには数年の年月がかかると思うが、軌道に乗れば火薬を安定して生産することができる。
それまでは、古土法などで細々と火薬を生産するしかない。伊賀で見せて貰った火器の生産は鉄砲が優先されるので僅かに生産するのみであろう。
火器が十全に力を発揮する為には火薬だけではなく、鉛の入手経路も整備しなければならない。全く銭のかかる兵器である。
火器だけでなく、大陸の馬も手に入れたい。去勢や蹄鉄の技術も同時に入手したい。狙っている美濃は、平野が広がっている地だ。騎兵が大いに活躍出来るだろう。
あれもこれも欲しいと思うがそれらを手に入れるための時間、銭は無い。将来のことを考えるのは大事だが、目の前のことも忘れては行けないと自分に言い聞かせる。
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