新型火器
中国の技術やばすぎ。
1552年 4月 伊賀
朝屋敷から出て、案内を受けながら山奥に入っていく。山奥深くの小さな平地に多くの工房と屋敷が所狭しと並んでいる。そしてそのさらに奥に森を切り、開き平らにしたであろう広場が広がっている。
屋敷の中で一際立派な建物に通される。そこには火器の開発を命じていた張宇がいた。彼によると幾つかの火器の開発に成功したとのことだ。今日はその成果を見せたいようだ。
奥の広場に行くと先に筒状の物が付いたやりを持っている兵士が4人立っていた。他にも江戸時代に見られるようになる竜吐水のような形をした物が置かれていた。通訳を挟み張宇が説明を始める。
「殿、この箱は猛火油櫃といい、北宋の初期に開発された炎を吹き出す兵器とのことです。下部の箱には特別な油が入っており、その火は水を掛けても中々消えないと言っています。新たに幾つかの改良を加えました。ここにはが橡皮があったお陰でより精密に箱を密封する事ができたと言っています。さらに皮製の管と金具を組み合わせる事である炎を自由に発射出来るようになったと言っています。」
説明が終わると早速実演が始まった。数人が鉄製の横棒に取り付き棒を上下に動かし始める。そして、金具の口から発射された液体に火を付けると一瞬で業火となり、周囲に火を撒き散らした。射程は、5.5間と短いが城壁に取り付いた兵を焼き払うには何の問題もない。張宇によると中国ではこれを船に載せ海戦に使用しているとの事だ。
しかし、この兵器は火薬とは違い大量の石油を必要としている。さらに其の石油を精製しナフサを得なければならない。今使っている油も遥遠くの中国から大金を払いやっと運んできた代物のようだ。ここで知識チートが生きてくる。遠江国の相良に小規模ながら軽質油の取れる油田がある事は有名である。今川と更なる交を結ぶ次いでに入手出来ないか試して見よう。
次の兵器に移る。槍の先端に筒をくっつけている簡単な構造に見える武器である。
「この武器は、火槍といい先端に取り付けた筒に火薬を詰め込み、敵に向けて火炎を放射する武器です。火炎は凡そ1.7間程吹き出すそうです。この武器も先程の兵器と同じく防御線や、海戦に向いた兵器です。更に筒の中に磁石の粉末、硫黄、ヒ素などを混合すれば目潰しなどの効果を付与することが出来るとの事です。」
兵士が火を付けると炎が一気に延びていく。しかし、燃焼時間があまり長くがないのが残念だ。構造が簡単であるが故先の猛火油櫃よりも大量生産に向いているだろう。この2つがあれば籠城戦においてかなり有利に立つことが出来るだろう。
最後に元寇で使われたてつはうと瓜二つのような物が出てきた。
「これは中国で震天雷と言われる物でその中の西瓜砲という物です。鋳造された鉄の容器にまきびしや鉄の鉤爪を仕込み、殺傷能力を上げ、まきびしなどを広範囲に撒くことが出来る武器です。」
素晴らしい。これも防御戦に役立つものだ。これに、第一次世界大戦で使用されたソートレルを組み合わせれば射程が一町11間の迫撃砲擬となる。これを伊賀や甲賀の忍びに持たせ、遠くから敵陣に放り込めば大混乱間違い無しである。
「張宇よ、よくやった。これからも私の為に多くの兵器を開発するのだ。」
張宇を激賞する。彼の存在によって多くの火器を得ることができた。これによってさらに他の大名に対し多くの有利を得ることが出来た。
他の中国人技術者を招きたい。その中でも中国の高炉技術と鋳造技術が欲しい。両方とも中国では高度に発達した技術だ。技術者が優遇されない中国で燻っている技術者、職人を何とかして呼び込めないだろうか。
屋敷に帰り、張宇に相談をする。どうすれば多くの職人を召し抱えることが出来るかと。
「中国では、多くの職を求める優秀な技術者がいます。そこで私が殿の元で厚く遇され、尊敬されている事をしたためた手紙を書きましょう。まずは、日本に連れてこられた中国人に当たってみると良いと言っています。」
「是非とも手紙を書いて欲しい。これで職人が集まれば其方を職人衆の棟梁としよう。」
嬉しそうに頷く張宇とその後何気ない会話を少し続け、昼食を頂いたあと屋敷に帰ることとした。何故か屋敷には、千がいたがな。
同日 甲賀 望月屋敷
亀寿丸がまだ藤林長門守の屋敷で寝ている早朝。
「千代様、部屋に戻りましょう。藤林長門守殿の許しなく領内に入れば、殺されても文句はいえませぬ。それに今や千代様の両肩には甲賀衆の未来がかかっております。何とぞ軽挙妄動はお控えください。」
「うるさいぞ平八!許可なら父上がもう取ってある。それに俺は今亀寿丸の許嫁なんだろ?将来夫婦になる相手に会い行くことのどこが軽挙妄動なんだよ?」
「それに託けて、伊賀に行きたいだけだということはお見通しですよ。」
言い争う両者を周りの者はいつもの事と言うように意にとめない。このまま争いが続くと思われた時、望月出雲守が両者に割って入る。
「平八、千代の言う通り儂が藤林長門守から許可を取っておる。されど、こやつは直ぐに道から外れて山中を進もうとするだろう。其方は、それを諌めそれでも言うことを聞かなければ縛り上げて連れて帰るのが役目である。」
「ここ平八お役目しかと承りましたり。」
出雲守は、千代をジロリと睨んでから言った。
「お前に信用が無いからこのような事態に落いちるのだ。これに懲りたら、日頃の振る舞いを正すべきだな。」
注意された千代は、そっぽを向いて返事をしなかった。
こんな事が有りつつ、甲賀から遥々山を越えてやってきたようだ。
「甲賀からここまで中々の距離があるが、よくやって来れたな。」
「なに、簡単、簡単。ちょっと遠い散歩みたいなもの。お主も鍛えれば俺の様に簡単に出来るようになるさ。」
サラッととんでもない事を行ってくる。甲賀ではこれが普通なのだろうか?
「千代様が特別なだけであって、普通の忍びでもこのような事が出来るのはほんのひと握りでありますぞ。某も着いていくのが精一杯でございました。」
千代の付き人、確か平八と言ったか。千代の発言を訂正する。さすがにこのような芸当が出来るのは極小数の様だ。女性の身でありながらこのような事が出来るのは感嘆するしかない。
「そういえば、千代の一人称は俺なんだな。」
「不満か?どうせお堅いお公家様の娘を正妻に迎えるのだろ、柔らかい俺が側室で丁度良い塩梅じゃないか。」
上手い返しをされながら、彼女の一面を知ることが出来て嬉しかった。今日は公私共に多くの収穫があった日であった。
相手を燃やし殺す気まんまんのラインナップ。
火薬がどう考えても足りね。能登からグアノを取ってくるか。
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