三好との講和
これから暫く内政パートに入ります。
1552年 正月 朝廷
「帝、このような昇進は、将軍の体面を傷つけ、六角家と足利将軍家の間に無用な亀裂を産むことになります。どうか御再考を。」
「...わかった。此度は、近衛の顔を建てて将軍家の昇進も考えておこう。」
「感謝致しまする。」
新たに六角家当主となった六角義賢の昇進についてである。帝は、当初正三位を送ろうとしていたが、六角家の家格が余り高くないこともあり従三位となった。
官職は、六角家を重要視している事を示す為に左近衛大将にする事とした。本来近衛大将は、他の官職との兼任が多いのだが、六角家の献金により今までよりも多くの公家が朝廷に出仕してきた影響で、官職の数が逼迫している。よって兼任が多い官職を兼任無しで任官させたのだ。
しかし、これらの施策は現状従四位下の左近衛中将である足利義輝の官位官職を越えてしまう事になる。これに異を唱えたのが、将軍家との縁戚関係にある近衛稙家である。
近衛稙家は、将来自分の娘を六角義賢の嫡男の妻に送り込こむ予定なのだ。これによって幕府内での権力を強固なものにする為である。そこで幕府と六角の仲が悪化すると困るのだ。
しかし、帝としても将軍就任以来殆ど在京せず朝廷に勤仕する事が出来ない足利義輝に対し大きな不満を抱いている。ならばより頼りになる六角家を引き立てるのは当然である。
近衛稙家は、自らの影響力を最大限行使して将軍を京に戻すことを帝に約束することによって足利義輝を正三位大納言に任じさせることに成功した。無論近衛稙家の将軍の京への帰還は、傍から見ると三好と六角の対立の中で無理があると思われる。
しかし、六角定頼の死による当主の交代で家中が動揺・混乱している中新当主である六角義賢は、三好長慶との講和を結び戦を切り上げ家中の統制に専念したいとの思いがある。
この六角家の内情を詳しく知っている近衛稙家にとって充分な勝算のある約束なのである。その後、足利義輝は正式に正三位大納言に叙位任官されることが決定された。
近衛稙家の必死の朝廷工作により、六角義賢と足利義輝の官位逆転現象は僅かな期間で是正されたのであった。
1552年 3月 観音寺城 六角義賢
父の死より49日が過ぎ、家中の統制に力を入れ始めた頃三好長慶より和睦の使者として松永久秀が遣わされて来た。
「今は亡き六角定頼殿は、我が主君三好長慶も高く評価しておりました。その死をいたく悲しまれ、自らの代理として私めを弔問の使者として遣わされました。」
「三好殿の程の者に評価されているとは。父も喜んでいることでしょう。」
松永久秀は、両側に居並ぶ六角家臣達の鋭い視線を全身に浴びなが、堂々とした振る舞いで六角義賢と言葉を交わして行く。
両者の会話がひと段落した所で松永久秀が、今回観音寺城を訪れた本当の目的について話始めた。
「さて、我が三好家と六角家は互いに何の因縁も無い間柄でありましたが、周りの情勢により不幸な事に刃を交える関係となりました。我が主君は、これを憂慮しており弔問と合わせて両者の和睦の道を探るように命ぜられここに派遣された次第です。」
「私も三好殿とは何の因縁も無い間柄。されど、一度刃を交える敵となった以上我らは公方様をお助ける為にこの身を砕いて働いておる。さらに我が家中は、この事態に今までに無いほど結束し、京に攻め登らんとする機会を常に伺っておる。」
「されど、六角家と三好家は今や龍虎の間柄互いに本気を出して戦えば両者深く傷を負い周りの物を利するだけでございます。」
「阿波の田舎侍が御屋形様と同等とは、思い上がりも甚だしい!!」
「細川の家臣が御屋形様と同等だと言うのか!!」
六角家と三好家を同等の存在と例えたことで、周囲の家臣達が怒り、松永久秀に怒声を浴びせる。
「静かにせんか!この者は私と話しておる!無闇に叫ぶお前達は六角家の品格を落とす気か!」
六角義賢は、頭に血が上った家臣達を一喝し落ち着かせる。
(もし父なら、このように家臣達が声を荒らげる事もなかっだろうし、言葉を発さずとも家臣を黙らせる事が出来ただろうに。)
「私の家臣が無礼を働いてしまった。後できつく言っておくので許して欲しい。」
「私の方にこそ落ち度はあれど、義賢様には何の落ち度も有りませぬ。」
「では、話を戻そう」
「私は、この両者の不毛の争いに終止符を打つべく、和睦内容の叩き台を持って参りました。」
松永久秀は、懐より文を取り出し義賢に差し出す。小姓を介し文を受け取った義賢は、黙読し顔を上げる。
「内容の殆どに異論は無い。されど、細川晴元殿の嫡男である聡明丸を引き渡す事は出来ぬ。代わりにその次男を引き渡す事で手を打とうではないか。」
義賢は、自らの祐筆に命じてこちらの条件の変更を求める内容を書状に記させ、松永久秀に託す。
「分かりました。我が主と相談し再びやって参りまする。」
「色良い返事を期待しておる。」
松永久秀は、恭しく文を受け取るとすぐに三好長慶のいる越水城へと帰って行った。
松永久秀
馬に揺られながら自らが実際に見た六角家中の様子について思い起こす。
(思っていたよりも家中の統制は取れており、国内も乱れていない。この時しか、六角との和睦を結ぶ機会は無いであろう。多少我らに不利な内容でも飲まなければなるまい。)
松永久秀は、この条件で和睦を結ぶ為に三好家中でどれ程の人数を説得していかないと行けないかを考え、疲れたように頭を振る。
内政チートをかますんだ。




