京極蜂起 最終
戦を書くのはやはり難しい。臨場感を中々演出出来ない。
犬上川 京極高広
「浅井勢は何処で油を売っておるのか!」
儂は思わず大声を挙げる。予想以上に、相手を押し込んでいたので、目の前のことに熱中しすぎていたのが良くなかった。浅井勢が居らぬのなら、我らは一瞬で袋のネズミぞ。
急いで、浅井久政へ伝令を出そうとした時に、我らの背後から軍勢が現れた。旗印を見ると浅井勢であった。儂は一安心しながら、早く敵右翼と交戦せよとの命を伝令に伝え走らせる。
視点を全体から局所に移すと、青地勢・三雲勢が自らの陣地に引いて行くのが見えた。我らもこれを追撃し戦果を上げたかったが、堀勢の損害が多いので、浅井勢の展開を待つ間部隊の再編をしなければならない。
浅井勢の展開がほぼ完了したのを見ると、我らは遂に敵陣へ取り付く事となった。鉄砲対策として、大楯を二重にすることとなった。
「ここが最後の踏ん張り時ぞ!敵陣を掻き回すのだ!」
皆大楯持ちを先頭に最後の力を振り絞り敵陣に取り付こうとする。我らが敵陣から30間の距離に入ると鉄砲を一斉に放つ。されど、その多くは大盾に止められ被害は殆ど出ない。
馬廻りの者共がさらに進めと声を上げた時、鉄砲よりも一際大きな音が響く。それと同時に大量の硝煙が辺りを覆う。
「何が起きた!」
儂は、周囲に何が起きたのかを問いながら、先の鉄砲にやられた戦を思い出した。まるであの戦の焼き直しである。左翼側を見ると、浅井勢は此度も動いておらん。そして、六角の右翼が浅井勢を無視して、我らの退路を塞ぎつつある。今、儂は完全に死地にいることを悟った。
浅井が恐らく裏切り、我らの軍勢が大きな損害を受けた今、逃げ場は何処にも無い。この事実が儂に重くのしかかる。
呆然としている間に、敵は陣から出てきて我が方と斬り合っている。さらに堀秀基や今井が討死し、味方は大崩れとの報が入る。
今までの成功が一瞬にして水泡に帰していく。何もかも上手くいっていたが、最後の最後に家臣に裏切られる。戦国の世が誠に恨めしい。
「御屋形様どうされますか?」
馬廻りの声掛けに我に返る。儂は腐っても京極家第15代当主。この首を雑兵にくれてやるには高すぎる。
「儂を名のある武士の元へ連れて行け。この首は雑兵にはやれん。」
「黄泉の国までお供しますぞ。」
「お前達には死後何とかしてこの奉公に報いようぞ。」
悔しい。最後の時まで付き従ってくれる配下を持ちながら、最後は恩知らずの下衆によって敗北の追い込まれたのが。その悔しさを晴らすが如く、儂らは一丸となり押し寄せる雑兵を蹴散らし、敵陣に向けて進んでいく。槍を振るい、槍が折れれば刀を抜き、足軽を斬り伏せる事数人、廻の者は皆討死を遂げ何時しか儂1人となっていた。
「そこの若武者よ!名を名乗れ!」
敵中を駆け回り、遂に見事な武具に身を包んだ武者に出会うことが出来た。儂は疲れきっており、殆ど腕が上がらない。今度雑兵に襲われれば為す術なく討ち取られるであろう。遂に儂の最後の時がやって来た。
「我が名は、三雲賢持!そちらは、名のある大将とお見受けする!」
名を聞いて儂を一度負かした者であることが分かった。この者は将来大成するであろう。将来の大物に討ち取られれば、多少の面目は立つであろう。
「我が名は、京極高広!儂の首を持って手柄とするが良い!」
三雲賢持
崩れた敵を斬っていたら、壮麗な武具を纏った武者は、自らを京極高広と名乗った。まさに敵の総大将。これ以上の手柄は無い。
私達は向かい合い、刀を構え、一挙に騎馬を進める。京極高広は抵抗らしい抵抗もせず一刀の元に首を跳ねられた。我らを何度も苦しめた相手としては呆気ない最後であった。
私は馬廻り達に命じ、京極高広が討ち取られた事を喧伝させた。これにより、兵の士気は完全に崩壊し、犬上川に追い詰められていった。殆どの者は川にたどり着く前に殺され、残った数少ない者も川で溺れ死ぬこととなった。
六角亀寿丸
戦が我らの勝利で終わっり、佐和山城を囲んでいた兵士達も四散した後、此度の合戦で沈黙を守り続けていた浅井久政が本陣にやってきた。
「此度の戦は我が家臣達が京極に与同してしまったが故、私も家臣達を抑えることが出来ず京極と手を組んで反旗を翻してしまいました。」
「確かに、我らに反抗した罪は非常に重いが我らに通じ、京極方の内情を伝えた功績もある。浅井久政は戦場の片付けを行った後、本拠小谷城にて謹慎し、御屋形様の沙汰を待たれよ。」
「承知しました。」
三雲定持が、浅井久政に面倒事を押し付けた後、首実検が始まった。やはり、功績の1番は京極高広を討ち取った三雲賢持であり、その次が堀秀基を討ち取った宮部継潤、最期が今井を討ち取った青地茂綱である。
今回の戦は、若手が大きな戦功を挙げ、経験を積むことが出来た。その中でも堀秀基を討ち取った宮部継潤は、俺の配下とし三雲賢持の与力として預けることとなった。
「若様、突然の初陣でありましたが、勝利したことおめでとうございます。」
「定持、此度の戦私はただ陣の奥で座っていただけだ。褒められるべきは前線で血を流し戦った青地茂綱・三雲賢持達だ。」
「勝利しても浮かれずに、実際に戦った者を労う。亀寿丸様は良き大将になれるでしょう。」
自分の何倍も生きている人物に褒められるのはやはり嬉しい。気持ちを切り替え、早ばと陣を引き払い観音寺城に凱旋する。
今回の京極高広を討ち取れた事は今後の北近江の支配に良い影響を与えることになるだろう。
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