京極蜂起 3
もうしばらく続きそうです。
佐和山城周辺 京極高広
「まだ城は落ちぬのか!」
城を包囲して数日が経ったが京極高広は、いつ来るとも知れない六角の援軍、苛烈な城攻めによる兵力の減少等によって冷静さを失いつつあった。
「早くこの城を落とさねば、我らの勢いが削がれてしまう。」
「ご注進!ご注進! 我らの後方に六角の軍勢が現れました。その数およそ4千余り!」
「何と!軍議を開く。警戒を促しつつ、諸将を集めよ。」
(思ったより援軍の数が少ない。これは何か裏があるかも知れぬ。)
六角の援軍という冷水を浴びせられた京極高広は、一旦冷静さを取り戻すと直ぐさま対策の為に諸将を本陣に集め対抗策を練り始めた。
しかし、ここで各々の利害の細かな不一致が出で来て軍議が紛糾することとなる。中でも揉めることとなったのは現れた六角の軍勢と1戦交えるかどうかの議論である。
京極高広はこのままでは背後を突かれ、不味い状況になるので、最低限の兵を残し対陣し、相手の出方を見るべきと主張する。
浅井久政は、更なる援軍が来ることは確定しているので佐和山城の攻略を諦め勢力を保ったまま撤退し、和睦をするべきだと主張する。
堀・今井等は佐和山城の抑えの兵を残し、一挙に六角の援軍に襲いかかりこれを撃破し、その後の交渉を有利に進めるための材料とすべきと主張する。
この分裂した中、浅井久政の案は獲得した土地を自ら捨てることになることや、京極高広・堀・今井等の反対により直ぐに却下された。
そして、佐和山城に対する抑えの兵を残し、京極高広は残りの軍勢を犬上川を挟んで六角勢に相対させた。
鎌刃城周辺
三雲賢持率いる1千5百の軍勢は本体と秘密裏に別れ、鎌刃城攻めを敢行しに来たのであった。これは、京極勢が佐和山城を落とすために鎌刃城の戦力を動員しており、城の防備が手薄になっている情報を忍びから得たためである。
ここで鎌刃城を攻め落とすことで、陸路からの補給を断ち大軍である京極勢が長期に渡っての対陣が困難となる。更に京極高広に従っている国衆に大きな動揺を誘うことが出来る。
日が少しづつ暮れ始めたころ、突如城の至る所が燃え始めた。これに対して残された城兵は、消火の為に持ち場を離れることとなった。
城から火が出たのを見た三雲賢持は、伏せていた兵を一挙に大手門へ突撃させる。突撃とほぼ同時に門が迎え入れるように大きく開いた。
城内に入った兵は、消火の為に水や砂をかけていた城兵はある者は槍で突き殺されたり、刀で斬り殺されたり、弓で射殺されたりした。
制圧された大手門をくぐった三雲賢持は、兵を煽り立てる。
「城内の人、物は乱取り自由ぞ!裏切り者に遠慮は要らんぞ!人を捕らえて売り払うもよし!金目を奪うも良し!各々奪い終わったら城に火を放て!」
兵達は皆沸き立ち略奪に勤しむ。ある者は死人から鎧を奪ったり、刀を奪う。敗者に遠慮は要らないと容赦なく奪い勝者は享楽に耽る。
略奪の終盤、城内の蔵に隠れ潜んでいた堀秀基の正室が定持の元へ引き摺り出されてきた。助命を請う彼女の首を刎させ、首を塩漬けにし、鎌刃城落城の報と共に本隊の元へ送った。
略奪が一通り終わると、城に満遍なく火を放ちそれを確認するため、敵の援軍を撃退するために百人程の兵を伏せて、本隊への合流を急ぐ。
犬上川南岸 六角本陣
賢持の指揮の元鎌刃城は完全に焼け落ち、そこに溜め込まれていた兵糧もこちらが拝借した分を除き焼けたようだ。この報と共に届いた堀秀基の正室の首は一体どうしたら良いのだろうか?
「定持、この首は一体どうすべきだろうか?やはり僧侶を呼んで厚く弔うべきであろうか?其方はどう考える?」
「亀寿丸様。某に良い考えがあります。」
そう言って定持は首桶を兵に持っていかせた。どのようなことに使うのかは教えて貰えなかった。
夕刻になってもまだ、戦場での振る舞いや作法を叩き込まれている最中、浅井久政からの密使が本陣にやってきた。
密書の内容としては、合戦になった時浅井久政本隊と近しい家臣達の部隊は沈黙を保ち、合戦に加わらないとの事だった。
恐らく、鎌刃城の落城を知り京極勢の中でここで合戦に打って出て勝利を挙げて和睦を行う事となったのだろう。ここで我らと秘密裏に繋がり、恩を売って何とか重い処罰を免れたいのだろう。
「定持、これはどうすべきか?」
密使を陣の外へ下げさせたあと、定持に尋ねる。
「皆を集め軍議を開きましょう。やりようによっては京極高広を討ち取れるかもしれませぬぞ。」
浅井からの密書を机の上に広げ諸将に見せる。やはり反応は大きく2つに別れた。三雲定持、永原重澄の戦慣れしている両者はこの提案を受け入れ、首魁である京極高広を確実に討ち取るべしと主張する。
青地茂綱、三雲賢持の若武者は、勢いに乗っている今、この申し出を跳ね除け、浅井久政諸共京極高広を討ち取るべしと勇ましく主張する。
両者の激論のあと、永原らの意見を取り入れ浅井久政の申し出に幾つかの条件をつけることで受けることとなった。この条件が、受け入れられなければ青地らの言う通り、京極勢との本気の合戦を行う事となった。
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