さらなる一手 2
公家の話し方どうしよう。
1545年9月 観音寺城
部屋から下がった定持は、屋敷の奥ではなく本丸へ向かった。甲賀の有力者である定持でも、独立している地侍達を六角に服属させることは御屋形様の許可なしにはできないからである。
(亀寿丸様は、まさに才気に溢れる方であられるが、まだまだ幼い。物事の進め方をまだまだ知っておられない。これは、亀寿丸様の才覚ばかりに目を取られていた儂の落ち度である。これからは物事の進め方を教えて行かなければ。)
考えながら歩いていると、御屋形様の部屋に前に着いた。今、近衛殿の対応は義賢様がやっておられるので御屋形様の手は空いておられる。
部屋に入ると御屋形様は、手紙を読んでおられた。
「御屋形様、相談したいことがあり参りました。」
「亀寿のことか。」
「左様でございます。」
そして、亀寿丸様が自らお考えになられた椎茸の栽培方法を教える代わりに、臣従させる考えを某に話されたことを伝える。御屋形様は顎に手を当て考え始める。
考えが纏まりになられたのか、
「定持、亀寿に伝えよ。この案は実行しても良いとな。しかし、他家との交流をどう結ぶかは当主の権限であり、考えるのは良いが実行する時には当主にしっかりと相談することが肝要である。独断専行は褒められぬ行為である事をしっかりと教えるのだ。」
「承知致しました。亀寿丸様に確とお教えいたしまする。」
定頼様の許可を許可を得ることができた。直ぐさま亀寿丸様の元へ戻る。
部屋に戻ると亀寿丸様は、酒瓶の栓を開け中の匂いを嗅いでいた。
「若様、若様の提案お受けいたしましょう。」
某がそういうと、若様は笑みを浮かべこちらに頷いた。そして、次からは他家を臣従させるなどの対外的な計画を実行する際には、御屋形様の許可を取らなければならないことをお伝えする。それを真剣な眼差しで、聞いていただくことが出来た。しかし、若様はまだ齢5つこの歳でここまで賢いとは六角氏の将来も明るいことよ。
俺の企みはどうやら祖父定頼にはお見通しであったようだ。やはり、許可を取る前に定持に話したことを詰められてしまった。物事が上手くいっているので天狗になり、報告を怠って独断専行をしてしまった。そのせいで定持には大きな迷惑をかけてしまった。これに報いなければならない。
そういうことで、栓を開けて匂いを嗅いでいた酒瓶から定持がいない間に持って来させた盃にお酒を注ぐ。注文通り注がれたお酒は水のように透明であった。
「定持、本丸にまで走らせてすまなかった。お詫びと言ってはなんだが、この酒を受け取ってくれまいか。」
「若様、有難く受け取りますが幼い頃よりお酒を嗜まれるのは早死の元です。くれぐれも元服するまではお飲みにならないように。」
そう言って盃を受け取ってくれたが、やはり常識と違って透明なお酒に戸惑っているようだ。この時代にも清酒は所謂僧坊酒でという形で存在しているので、定持は知っているか飲んだことがあると思っていたのだがこの様子を見てみると初めて知ったようだ。水のように見えるがれっきとしたお酒であるといい、飲んでみるように勧める。
意を決して飲んだ、定持に感想を聞くと口当たりがまろやかで飲みやすいとの評価を聞くことができた。好評だったので3つある酒瓶の内2つを送ることにした。
次の日、近衛稙家が俺に会いたいということで、父、祖父に引っ張られ稙家の面前に押し出されることになった。突然の事で、貴人に対する礼も付け焼き刃ではあるが、上手くやれているのか稙家からの印象は良さそうだ。
「幼子の身でありながら、長幼の序をわきまえ、作法にいささか不自然なところはあるがここまで出来るとは。神童との例えも間違ってはおらぬようで。近江守殿は良い孫を授かりましたな。」
「まだまだ世間の事を知らぬ愚か者にここまでお褒めの言葉を頂くとは、この定頼望外の喜びにございまする。」
稙家殿と祖父の会話を聞く限り、礼儀作法が付け焼き刃である事は見抜かれたが、総合評価としては上々のようだ。ここで、今まで貯めに貯めた物を一気に放出する勢いで贈り物を準備してある。
「稙家殿、亀寿から稙家殿へ僅かながら贈り物をしたいとの願い出がありました。どうか受けて下さらぬか。」
「よかろう。神童との誉れ高きものからの贈り物、さぞ楽しみである。」
部屋の外から木箱を持った使用人達が入ってくる。それぞれ持っている木箱を稙家殿の前に置き、蓋を開けて部屋から出ていく。内訳としては、栽培した椎茸の中でも香りの強いものを木箱2つ分を厳選し、瑠璃杯を3つをそれぞれ1つずつ木箱にいれ、最後の2つの箱にはそれぞれ1000貫の銭を入れてある。
「なんと、、、まさかこれ程の物が出てくるとは。」
「公家の皆様方は荘園からの年貢が途絶え、困窮しているとお聞きしております。それゆえ、1箱は近衛殿へ、もう1箱は他の公家の方達へお配りください。」
「どうやら麿の決断は正しかったようで、おじゃりますな。六角家の将来も明るとうございますな。」
どうやら、心をがっちりと掴む事が出来たようだ。しかし、将来将軍と縁戚関係になるのは、史実を見ると面倒事に巻き込まれることが確定しているので素直には喜べんな。
この後、特に失敗することなく切り抜ける事ができ、稙家殿はホクホク顔で京に帰っていた。これから成長していくと公家との交流も多くなるが、上手に付き合っていける自信がない。礼儀作法についてしっかりと学んで置かなければならないと実感させられた1日だった。
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