26.笑い声だけが響く
ドワーフ三人組と獣人のバステルは朝方猫の尻尾亭で見つけた。
ぱーてぃとやらに誘うと、
「そっか、行っちまうんだな」
「もちろん、酒は飲めるんだろうな?」
反応は違ったが、快く受けてくれた。
ピピンとリックは冒険者ギルドで見つけた。
リクウが旅立つことを伝えると、
「そうですか、そうですよね。わかりました、ぜひ参加させてください」
「返せないくらい世話になっちまったな。見てくれよ、これ」
とピピンが冒険者証を取り出した。
紐の先端には銀色の金属板がついていた。
「お、それはまさか銀級ってやつか?」
「そうです、ついにです! これもリクウさんに手伝ってもらったおかげですよ」
「そっかそっか、良かったな。コツコツがんばってたもんな」
二人の誇らしそうな顔を見ていると、リクウまで嬉しくなってきた。
「送別会は明日の夜ですよね?」
「ああ、おばちゃんが腕によりをかけてごちそうを用意してくれるそうだ」
「わかりました、楽しみにしておきますね」
リィスとバルテとカーミラは、ギルドにいた。
これから依頼に出かけるところを、ちょうど捕まえることができた。
「というわけで、明日のぱーてぃとやら、どうだろう?」
「もちろん、我々も参加させていただくよ」
バルテは言った。
「え、ほんとに行っちゃうんですか?」
とリィス。
「いろんなものを見たいんでね。この街じゃみんなに良くしてもらって感謝してるよ」
「そうですか……」
リィスは気落ちしたような顔で席を立ち、そのまま出て行ってしまった。
リクウとルリは呆けた顔でそれを見送る。
「寂しいんだよ。恩人がいなくなるのが」
「俺がセンセに助けてもらったほうが先なんだがね」
「彼女はそう思ってないだろうよ」
バルテの視線が、ルリに移った。
「後学のために知っておきたいのだが、あなたは何者かな?」
バルテがルリに言う。
「魔術師として知っておきたいんだがね。魔力の類は一切感じさせず、それでいて常時認識を阻害する術の気配がある。相当な力を力を持った精霊とお見受けするがいかがか?」
「ひみーつじゃ」
ルリはいつものはぐらかし。ニヤけた笑いが顔に張り付いている。
「リクウ殿も教えてくれんかね? 本当に魔術師としての興味だけで、他言はしない」
「いや、それがさぁ、俺もよくわからんのよ」
「よくわからない?」
「勝手に取り憑かれて、それでこんな感じ」
バルテとカーミラは、唖然としている。
「そ、その、リクウさんが契約している精霊というわけではないのですか?」
とエルフのカーミラが言う。
「そんなのした記憶はないなぁ」
「なにか体に変化とかはないのかね? 髪の毛がないのは代償では?」
「いや、これは剃って――――」
そこでリクウは恐ろしい事実に気付いてしまった。
浪西涯に来てから二ヶ月以上経っているが、髪の毛が伸びる気配がない。
リクウはあまり髭の生えない質であるが、それも全く生えてこない。
「おいルリ、まさか」
「ようやっと気付いたか」
「これが代償ってやつか?」
「人聞きの悪いことを言う。それは加護じゃ」
「加護?」
「妾のおかげで主は不老じゃ。髪が伸びないのはつまりそういうことじゃ」
「つまり、俺はこれからずっとハゲってことか? それが加護だと????」
カーミラが割り込む。
「加護とは何かしらを付与する術全般に使われる言葉です。呪いと明確な違いはありません。有益な効果をもたらすものを加護、不利益をもたらすものを呪いと分類します」
「やっぱ呪いじゃねーか!!!!」
ルリの察しは早かった。
リクウが杖を手にする前に宙に浮いている。
「悪霊退散!! 悪霊退散!!!!」
リクウがやたらめったに杖を振り回す。
「にゃははははは!!」
悪霊が宙を舞う。
***
酒場のスペースのみならず、ラウンジまで使って送別会は開かれた。
並んだテーブルにはところ狭しと料理が置かれている。
肉料理に魚料理、スープに野菜に果物に、それに酒も。
猫の尻尾亭から漂う香ばしい匂いは、道行く人が立ち止まるほどであった。
リクウの知り合いのみならず、宿泊客も混ざっている。
バルテのパーティにドワーフのパーティ、グスタフのパーティにピピンのパーティ、獣人のバステルに受付嬢のライネもいたし、どいうことかアイス屋のお兄ちゃんまで招かれていた。
別れに際しての贈り物は、雑にテーブルに置かれていった。
持ってきたものは、驚くべきことに全員が同じであった。
バルテのパーティは酒。
ドワーフのパーティも酒。
グスタフのパーティも酒だし、ピピンのパーティもバステルもライネさえも酒を持ってきていた。
「おいおいお前らさ、こんなの俺がよっぽど酒が好きみたいじゃねぇか」
「好きだろ?」
ドワーフのリーダーでガイラが言う。
リクウは不敵に笑って、
「大好きだよ」
宴会が始まる。
いくらもしないうちに、どいつもこいつも酔っ払ってめちゃくちゃなことを始める。
夜、猫の尻尾亭に楽しげな声が響き渡る。
別れには、笑いだけがあった。




