45 闇の神力
「やりすぎだ、ドイルド」
「もう試合はとっくに終わったはずだぞ」
エーデルの前に立ち、守ったのはタクロ先生とヘルヴィンだった。
「エーデル! 大丈夫?」
「見てらんねぇよ! 腕が折れてる! あんたやりすぎだろ! 七年のくせに! 相手は一年だぞ」
ロニカとディルはエーデルに駆け寄り、涙を流しながらドイルドに怒りつけた。
「…………ディル……泣いているのか……僕なんかの為に」
「もう喋るな! 死んじまう!」
「これで死にはしないよ! 変なこと言わないでディル。エーデル今治癒するからね。『大地に満ちたる命の鼓動、神気をまといて汝の傷を嫌せ、ヒール』」
ロニカは土の神力を手に纏い、エーデルの胸に手を当て詠唱し治癒魔術を使った。
(……ロニカの神力……暖かいな)
エーデルがロニカの神力を見るのはこれが初めてだった。
エーデルを支える土のように、大地が包むように治療に特化した優しい土の神力だった。
ロニカの治癒魔術のおかげでエーデルの傷は徐々に塞がり、回復に近づいた。
だが、エーデルの意識はまだ朦朧とし気絶した。
「出血が多すぎるんだ……どうしよう……」
ロニカは人より神力量が少ない。これ以上使うと気を失う可能性がある。
「どけ!」
ロニカを突き飛ばし、エーデルにの胸に手を当て治癒魔法を
かけたのはヘルヴィンだった。
そしてヘルヴィンの体に纏った神力に、ここに居る全員が酷く驚いた。
それは――闇の神力。
ロニカは闇の神力を目にして怯えている。
エーデルの傷は塞がった。闇の神力を使うよりも、医務室に連れて行きたい、そう思ったロニカはヘルヴィンに声をかける。
「ヘ、ヘルヴィン? ……医務室に……連れて……」
「駄目だ。今治癒しなければ……彼はここで死んでは駄目なんだ!」
「ヘルヴィン、エーデルは大丈夫だ。傷も癒えている、死にはしない」
ヘルヴィンの神力を見て、この場で唯一驚くことのなかった人物、それはタクロだった。
ヘルヴィンは神力を抑え、エーデルから手を離して顔を伏せた。
「ごめん、取り乱した」
ヘルヴィンは一度冷静になり、事態の深刻さを理解した。
取り乱して、闇の神力を使ってしまった――
皆の顔を見るのが怖かった。
「ゔっ……」
「エーデル?」
「ゔっ、痛い……ヘルヴィン?」
エーデルは目を開け目の前にいるヘルヴィンを見た。
その場にいる全員が安堵した。
「よかった〜。エーデル大丈夫?」
ロニカは目に涙を溜めている。
「うん! 少しクラクラするけどもう大丈夫! ロニカ、ヘルヴィンありがとう。二人が治癒魔法使ってくれたんだよね?」
「あ……うん」
ロニカは顔を曇らせた。
なぜかディルやヘルヴィンは目を逸らし続けている。
「皆どうしたんだ?」
突然ドイルドがいやらしく笑った。
「ククッ。これが人間の手に落ちた神の末路か」
…………また神の話か。
「ドイルド先輩、どういうことですか? さっきからあなたは何を言っているんですか? それに対戦はとっくに終わっていたはずです。何故僕はあそこまでやられなければいけなかったのでしょうか?」
「答えてやる義理はない。お前は俺に負けただろう?」
「確かにそうですね、手も足も出ませんでした……」
「ククッ。あぁ、情けない。実に情けない。ボロボロになれば誰かが止めてくれる、庇ってくれる、治癒をしてくれる。甘ったれだ。神力を無駄に使い、調節も儘ならない、まともな戦闘もできやしない、無知で阿呆だな、お前は」
ご最もだ。反論の余地もない。
ドイルドが強いということは一目見た瞬間に理解した。相手が強くても僕の神力ならどうにかなると思っていた。だが、ここまで八方塞がりで徹底的に打ちのめされるとは思ってもみなかった。
結局意識を失ってヘルヴィンとタクロ先生に守ってもらい、ディルを泣かせ、ロニカに治癒魔術を使わせた。
(僕は何のために強くなろうって決めた……?)
一生懸命やって痛くても我慢した敗北じゃない。ただ痛くて何もできずに負けた虐めな敗北。
この人を前にして感じたことのない敗北感……浮かれていたんだ。
家族に友人にクラスメイトに『規格外』だと言われ、人より特別な何かを持っていると勘違いして、自分が何者かになれると思っていた。本当は人に教えられるほど凄い人間ではなかった。
(僕は……家族や友人、エーデル自信を守るために強くなるんじゃなかったのか? 何で守られているんだよ……)
「それで、お前はこの星で何を成す?」
…………何を成す?
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