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#6 ワンマンアーミー① 致命的な欠陥

 紆余曲折を経てついに6人揃った私たちのパーティ<ゼータ>は、ようやく全員でクエストを行う段階に入った。問題を起こした人たちとはいえ、実力は折り紙付き。力を合わせれば、Aランク――いや、Sランクパーティにだって引けを取らないはずだ。


 そう、力を合わせれば。


「おい糸目野郎!! こんなとこに罠張んじゃねぇ!!」


「でも、そこで待ち伏せしたほうが効率的だよ?」


「ロゼール、何をしている。早く持ち場に戻れ」


「だぁってぇ、そっち行くと服が汚れるんだもの。ねぇヤーラ君?」


「あの……手、離してもらっていいですか?」


 6人でクエストをやってみて、私はこのパーティの致命的な欠陥に気がついた。

 協調性が、壊滅的に、ない。


 考えてみれば当然だったかもしれない。この人たちの個性の強さといったら他にない。一人一人とじっくり向き合って、それなりに上手く付き合えるようになったつもりだけど、いきなりチームで行動できるかといったら……。


 ゼクさんは相変わらず突っ込んでオーバーキルしまくるし、ロゼールさんはそれを嫌がってやる気なくすし、マリオさんは気づかないうちに仕掛けをこらしまくってるし。

 まとも枠のスレインさんでも全員のカバーは難しく、ヤーラ君は私と待機しているけど暴走したら手がつけられない。


 だけど、一番ダメなのは私だ。


 戦いの知識も経験もないし、魔族に詳しいわけでもない。

 今回だって中位レベルの魔物の討伐だと舐めてかかってしまった。相手が群れでしかも森や洞窟の中に隠れたりするので、予定より大幅に時間がかかっている。適切なクエストも選べない。


 このままでは、まずい。

 私たちのパーティが――<ゼータ>が、立ち上がらないかもしれない。



  ◇



 今回のクエストを受ける前、私がパーティ結成の申請書をドナート課長に提出したときのこと。レミーさんも仕事をほっぽって一緒にチェックしていて、やがてあごひげを撫でつつ紙面と私の顔を交互に見始めた。


「……エステルちゃん、正気か?」


「何か間違えてました?」


「ミスはない。珍しいな。――だが……いいのか? 全員採用で」


 レミーさんもドナート課長も視線で念を押してくるが、私は間髪入れずに返した。


「はい。問題ありません」


 2人はお互いのほうへじりじりと目線をずらし、やがて合流する。それからレミーさんが急ごしらえの笑顔で身を乗り出した。


「いいんだぜ、別に。2、3人除外しても。誰も責める奴いないから」


「しませんよ。みんないい人なんですから」


「おおう……」


「本当に全員問題はないか。仕事に支障を来すような――」


「ないことはないですけど、なんとかなると思います」


「……ハハハハハ!! すげぇな、エステルちゃんの心の広さは!」


 レミーさんはスカッとしたような笑い声を上げて、私も素直にそれを褒め言葉として受け取った。一方のドナート課長は表情1つ変えずに申請書に判を押した。


「……ならいいんだ。ただ、正式に許可が下りるのは一週間後の『合同作戦』の後になる」


「合同作戦?」


「ああ。ついこの前、魔物の軍団の根城が発見されてな。複数パーティが合同でそれを殲滅することになった。それにお前たちも選ばれている。そこでの働きが認められれば、ただちに許可が下りるだろう。それまでに、6人で戦う手筈を整えておけ」


「わかりました!」


 ようやくみんなをあの牢屋から出してあげられる――そんな期待に胸を膨らませて、合同作戦に向けた予行のために適当なクエストを選んだのだ。


 結果として、それは失敗に終わった。



「まー気にすんなって。失敗なんてつきものさ。今のうちにやらかしといてよかった、って思うべきだぜ」


「早いうちに問題が浮き彫りになったと考えろ」


「す、すみません……」


 出発のときは自信満々だった手前、フォローを入れてくれるレミーさんやドナート課長の顔をまともに見れなくなってしまう……。

 こんなんで合同作戦のときにやらかしてしまったら、<ゼータ>が瓦解してしまうかもしれない。


「しかし、戦術か……。その辺は俺も教えてやれることはないな」


「そもそも俺らの仕事に必要ねぇしな。この課の新人職員がパーティリーダーやってる時点で、そこ期待しちゃダメだろ」


「でも私、みんなに迷惑かけたくなくて……」


 わかっていた。自分が何の役にも立てていないこと。名目上リーダーというだけで、何もできない。

 仲間たちはみんな強いし、頼りになる。本当は協会の勇者パーティの中でもトップクラスに入るくらいの力があるはずだった。私が足を引っ張っちゃいけない……。


 私が床とにらめっこしながらそんなことを考えているさなか、課長とレミーさんはお互いに顔を見合わせて無言の話し合いをしていたようだ。


「なら、<ゼータ>のメンバーたちの古巣を当たってみたらどうだ? そこでどう戦っていたのかを聞けば、参考になるかもしれん」


「……あ、なるほど!」


 盲点だった。みんな元はAやBなどの高ランク帯に所属していたのだから、元の仲間たちだって同じだけの実力者が揃っているはず。


「ゼクのところは全滅してしまったが、他で残っているのは――」


「えーと、ヤーラ君が<エクスカリバー>で、ロゼールさんの元仲間がいるのが<クレセントムーン>ですよね。スレインさんの<オールアウト>はいいかなぁ……。あ、マリオさんがいた<ブリッツ・クロイツ>は活動してないんでしたっけ」


 ふと気づくと、2人とも私に向けていた目をきょとんと丸めている。


「エステルちゃん、知らないうちにパーティ名めっちゃ覚えてんのな。びっくりしちまったぜ」


「え、だって、よく話に上がったりするし……」


「まあ、いい傾向だ。<エクスカリバー>と<クレセントムーン>なら快諾してくれるだろう。<ブリッツ・クロイツ>はやめておいたほうがいいな。奴の名を出しただけで煙たがられる」


 確か、そこのリーダーが魔物に襲われて亡くなって、それがマリオさんの仕業じゃないかと疑われているんだっけ。私はそんな話を鵜呑みにしたくはないけれど。


「あれ? <ブリッツ・クロイツ>ってあの後辞めた子いなかったっけ。ヒーラーの」


「彼女もおすすめはできないな。同じく名前を出しただけで怯えて逃げられかねん」


 そんなにマリオさんって評判良くないのかなぁ……私はいい人だと思うんだけど。


「そういえば、ロゼールの元仲間も<クレセントムーン>以外に1人いるが……彼女にも会わないほうがいい」


「ど、どうしてですか?」


「話が通じん」


 実は<ゼータ>以外にも変わった勇者って結構多いんじゃないだろうか、なんて考えがちらついた。


 とりあえず、今のところ会いに行けそうなのはロゼールさんの元仲間がいる<クレセントムーン>と、ヤーラ君の古巣である<エクスカリバー>。

 私はレオニードさんとも面識があるので、まずは<エクスカリバー>のほうを訪ねてみることにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とにかくキャラクターたちの魅力が凄いですね…! こんなに個性豊かに書けるものなのかと、本当に関心してしまいました! お話一つ一つも面白くて、とても素晴らしい作品だと感じました! [一言] …
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