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#19 目覚めし太古の秘宝⑨ 正義を貫く

 流星のごとく現れたスレインさんは、さっきの傷だらけで立つこともできなかったときと違って元気そうにピンピンしている。


 煌めく刃の切っ先を向けられたヘロデは、怪訝そうに顔をしかめている。


「お前、なんでここに!?」


「ここが自動人形の内部だというのは聞いていた。我々が落ちたのはこいつの右腕の部分だったらしいな。君が腕をぶんぶん回してくれたおかげで、上の部屋まで一直線だったよ」


「いや待て、動けるような傷じゃなかったはずだぞ!!」


「君の知り合いか知らないが……『ナオミ』というのは腕のいい薬師だな」


 床に投げ捨てられた小瓶は、ヘロデが使っていた回復薬が入っていたものと同じだった。

 そうか。最後に後ろからヘロデに斬りかかったとき、あの瓶を盗んだんだ。


「不意打ちに盗みとは、本当に悪党だな……。だが、巨悪を倒してこそのヒーローだぜ!!」


「無抵抗の少女に攻撃しようとしていた奴がヒーローだと? 笑わせる」


「なんだと?」


 ヘロデは眉を吊り上げて怒りを露わにするが、皮肉を浴びせたスレインさんのほうが実は心底憤っているのだと直感した。


「<スーパーヒーロー号>、自動操縦モードオン!」


 操作盤のレバーのようなものを力強く倒したヘロデは、準備体操のように腕をぐるぐる回す。


「お前という悪を倒して、俺がヒーローだって証明してやるぜ!」


「そのくだらんヒーローごっこを終わらせてやる」


 互いに火花を散らす2人から、私は静かに距離を取った。急に部屋が動き出したときに備えて、つかまりやすいものがあるところへ。


「行くぜッ!! バーニング・ナックル――ッ!!!」


 ヘロデはまたしても叫びながら突進して殴りかかり、スレインさんは闘牛士のようにひらりとかわす。そのまま剣を突き出して反撃を――しようとしたところで、その刃がヘロデにがしっと掴まれた。


「そう何度も同じ手を食うかよ!」


 刃物を構わず両手で握ったヘロデは、剣ごとスレインさんを思いっきり引っ張ってぶん回す。


「スクリュー・ブレ――イク!!!」


 その遠心力で放り投げられたスレインさんだが、身を転がしながら着地して衝撃を殺し、身体中を擦りむきながらもダメージを軽減している。


 が、その間にもヘロデは走って距離を詰めて飛び掛かる。


「シューティング・スタァァ――ッ!!!」


 スレインさんは迫ってくる足を横に回転してかわし、その勢いで素早く立ち上がる。ヘロデも隙を与えないようさらに技を繰り出す。


「シャイニング・ストォォ――ム!!!」


 雨のように何度も繰り出される拳を、スレインさんは剣を使ってガードする。

 先ほど刃を掴んだヘロデの両手からは血が出ているが、痛みを感じていないのかガンガンと遠慮なく叩きつける音がする。


 そこで部屋がぐらりと揺れ、斜めに傾いた。

 私は台座だった突起にしがみついて堪えるが、スレインさんはよろけて後ろの壁にドッと背をつく。

 図らずも壁に追い込むことができたヘロデは、好機とばかりに拳を振り上げる。


「死ねぇ!! ゴールデン・デストロイヤァァ――ッ!!!」


 ドガッ、という音で砕けたのは――部屋の外壁だった。


 スレインさんは滑り込むように床に腰を落とし、その一撃を回避していた。そのまま這うようにヘロデから距離をとる。


「逃げねぇで戦え、悪党!!」


「悪いが、もう勝負はついた」


「は――」



 煌々と輝く石が一斉に光線を放ち、ヘロデを四方から貫いた。



「うおああああああああああっ!!!」


「『ジャスティス・レイ』……だったか?」


 ガードする暇もなくまともに攻撃を浴びたヘロデは、身体中から細く黒い煙を上らせながらバタリと倒れる。ガクガクと痛みに悶えているようで、立ち上がれる気配はない。


「自動操縦に切り替えたということは、遺跡のトラップも自動に戻ると思ってな。私がここに飛び降りたときに床を少し崩したんだが、罠は作動しなかったから」


「な、なるほど」


 思わず感心してしまう。そんな細かいところまで観察して、敵を倒すのに利用するなんて。


「ぐっ……クソ、ヒーローが負けるはずが……」


「君はヒーローではなかったということだ」


 スレインさんはゆっくりと剣を構え、這ったままのヘロデを見下ろす。


「そして、私もヒーローではない」


 鋼鉄の刃の切っ先が、ヘロデの首元に狙いを定めた。私は思わず目を反らす。

 だが、それが魔人を突き刺すことはなかった。



 ドゴォ、という派手な轟音とともに、外壁が破壊され――氷でできた巨大な槍のようなものが室内の端から端を貫いたのだ。



  ◆



 ゼクたちは森の中を走り回って巨人から避難していたが、赤い光線で木々は焼き尽くされ、隠れられる場所も減っていた。

 ケヴィンの仲間たちは辛抱たまらず逃亡し、リーダー1人<ゼータ>に付き合っている。


「お前は逃げねぇのか? あいつら行っちまったぜ」


 ゼクが草むらに身を隠しながら、取り残されたケヴィンに話しかける。


「ここで死ぬにしてもな、あんたらを見届けてぇのさ」


「そうかい。まあ、俺は死なねぇけどな」


 ふいに、巨人の動きが止まった。動作が完全に停止したわけではないが、急にゼクたちを見失ったかのように立ち往生している。


「……どうしたんだ? あいつ」


 不思議に思ったゼクがそう呟くと、急にマリオが木陰から身を晒して巨人に歩いていく。

 その姿を捉えた巨人の目がまた赤く光り、灼熱の光線を飛ばした。マリオは軽々と横に転がって攻撃から逃れる。


「テメェも、何やってんだよ!」


「行動パターンが変わったみたいだから、ちょっと試してみたんだ。今のを見ると、動くものに反応した感じだったね。人為的な操作から自動操縦に変わったのかな」


 マリオの言葉を受けて、ふとロゼールが何かを察したように小さく笑った。


「じゃあ、今が反撃のチャンスってことよね?」


「でも、普通の攻撃は通りませんよ」


 不安そうな顔で意見したヤーラを、ロゼールはぎゅっと抱きついて黙らせる。


「ちょっ……!」


「心配しなくても大丈夫よ。あの巨人さん、魔術は効かないみたいだけど――魔術で作ったものを物理的に叩きこむのなら、効くんじゃないかしら?」


 その場にいる全員が、ロゼールの言いたいことを即座に理解した。その攻撃を担うのに最もふさわしいのが誰なのかも。


「ぼくが動き回って囮になるよ。ヤーラ君は、いいタイミングで合図を出してくれるかな」


「わかりました」


 そこで、ケヴィンが斧を握りしめて立ち上がった。


「囮役なら、多いほうがいいよな?」



 超高度な技術が用いられているとはいえ、自動操縦の巨人は隠れた人間を見つけられるほどの知恵はない。ただ動くものがあれば破壊するだけだ。


 高々と聳える木のてっぺんから突然飛び出してきた人影にも、すぐさまターゲットを絞って光線を放つ。マリオは瞬時に別の木に引っかけた糸を引き、軌道を変えてそこから逃れる。

 軽快に飛び回るその姿を捉えても、巨人の処理スピードが追いつかず、攻撃が間に合っていない。


 同時にドシンと動く何かがあるものだから、情報処理はさらに遅れる。

 それはケヴィンが斧で切り倒した木で、生物と無機物の違いがわからない巨人は、顔はマリオのほうに向いたまま倒れた木に拳を振り下ろした。


『今です!!』


 <伝水晶>でヤーラが叫んだのと同時、地面から氷の塔が突き出した。

 頂上には自分の身長の数倍はある氷の槍を構えるゼク。後ろにいるロゼールがすっと手を振り上げると、ゼクが接している部分からすさまじい勢いで氷が突出し、槍を持った戦士を砲弾のように射出する。


 むろん巨人もそれに気づいたが、拳を振り下ろして屈んだ姿勢から立ち上がる頃には、すでにゼクはすぐ目下に迫っていた。



「うおらあああああああああああッ!!!」



 氷による発射のスピードと武器自体の頑丈さに加え、ゼクの常人離れした腕力によって放たれた巨大な槍は、巨人の装甲をぶち破って胸部を貫通した。


 そこはちょうど、エステルとスレイン、そしてヘロデがいたあの部屋だった。

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