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#19 目覚めし太古の秘宝⑦ TURN ON

 遺跡の地下内部は高さでいえばさながら大きな塔のようで、広々とした円柱型の空間の端に螺旋階段が長々と続いている。他の場所と違って薄暗く、足元がようやく見える程度で、最下層に何があるかはまったくわからない。


 <ゼータ>の4人とケヴィンたち5人は、ひたすら階段を下っていた。


「一番下にどえれぇ財宝が待ってんのかな」


「これだけ歩いて罠だったらどうする?」


 ケヴィンの仲間はそんな軽口を叩いているが、ゼクは財宝よりもエステルたちの安否が気がかりでならない。


「下のほうの壁ぶち壊していけば、あいつらがいる場所に出られねぇか」


「遺跡の罠全体を操作できる装置があればいいんだけど。でなきゃ、魔人を探すか」


「……敵がエステルさんたちのほうにいたら、どうしましょう」


「ズタボロになっても戦ってくれる騎士様に賭けるしかないわね」


 ゼクたちはそんな相談をしつつ、さらに地下深くへ潜っていく。



 ようやく最下層に辿り着くと、そこには金銀財宝などではなく――大きな宝石らしきものが据えられた柱のような複雑な装置があるだけだった。


「このデッケェ宝石みてぇなのが、例のお宝か?」


 ケヴィンが疑問を呈すると、まずはヤーラがその装置を隅々まで調べる。


「いえ、この石は魔石の一種みたいですが……普通のと違って、かなり魔力効率が高いみたいです。ある程度魔力を込めれば、相当なエネルギーに変換されると思います」


「じゃあ、物は試しね」


 魔力量には相当自信があるであろうロゼールが、さっそくその大きな宝石に触れる。


 まもなく宝石がまばゆい輝きを四方八方に散らし、大きな光の筋が天井に向かって真っすぐ伸びて、巨大な光の柱を作り出した。


 柱がふっと消えると、地下全体に尋常ではない揺れが起き、大地が軋むような地響きとともに外壁からパラパラと崩れた欠片が落ちていく。


「うおおおっ!!」


 何人かが悲鳴を上げる。全員立っていられずに床に屈みこみ、振動が収まるまでじっと我慢するしかなかった。


 ようやく静かになった頃、上から光が差し込んでいることに気づいて、見上げた全員が目を疑った。


 天井にあったはずの遺跡がそっくりそのままなくなって、丸い穴から青空が覗いていたのだ。



  ◇



 薄明かりの中に立ち込める硝煙のような焦げた臭い。私の目の前には、ところどころ焼かれてうずくまっているスレインさんの姿があった。


「スレインさんッ!!!」


「ぐっ……」


 小さな呻き声を上げながら懸命に立ち上がろうとしているが、傷が深いのか力が入らないみたいだ。


「へっ、へっへっへ。正義は必ず勝つのさ! こいつは俺の相棒だからな!」


 ヘロデは足から血を流しながらも、笑顔で遺跡の壁をぽんぽん叩く。やっぱりこの遺跡の罠を操作する術を使っているんだ。


「いででっ! クソ、あれどこやったっけな、ナオミに貰ったやつ……」


 怪我を思い出したのか、ヘロデはごそごそ何かを探し、液体の入った小さな瓶を取り出した。あれはポーションの一種なのだろう、一気に飲み干して床に投げ捨てた。


 スレインさんのほうは、ポーションはさっき使い切ってしまったようで、傷だらけのまま痛みに抗おうとしているだけだ。


「そしてヒーローはヒロインを救い出し、悪を打ち砕く。覚悟しな!」


 元気を取り戻したヘロデがスレインさんにゆっくり近づいている。トドメを刺すつもりなんだ。考える間もなく、私は魔人の前に無防備な身体を晒した。


「待ってください!!」


「どうした? 愛の告白は悪を倒してからだぜ」


 ちらっと後ろのスレインさんを見ると、息を荒くしながらも心配そうに私を見上げていた。でも、この魔人は少なくとも私に危害を加える気はないようだから、そこに賭けるしかない。


「えっと……ヒーローは、むやみに殺したりしないと思うんです」


「へえ、なんでだ?」


 理由を聞かれても困ってしまうが……必死に考えていると、ぱっとあることが思い浮かんだ。


「お兄ちゃんが、そうだったからです」


「おにーちゃん?」


「私のヒーローです」


 嘘ではないはずだ。お兄ちゃんが戦っているところなんてほとんど見たことはないけれど、むやみに命を奪う真似なんか絶対しないはずだし、私のヒーローだって本気で思っている。


 ぽかんと話を聞いていたヘロデだったが、「ヒーロー」という言葉を聞いて途端にニッコリと笑い、目を輝かせた。


「君の兄貴もヒーローなのか!! よし、俺もヒーローだから今は見逃してやるぜ! さあ、行こう!」


「きゃっ!」


 私の身体は魔人の腕でひょいっと抱き上げられ、抵抗できるわけもなく運ばれていく。


 後ろに見えたスレインさんは、歯を食いしばりながら這ってでも追ってこようとしているふうで、大丈夫だと目で訴えた。そんなひどい怪我で、無理をしてほしくなかった。

 それに、この穴から脱出すれば、外にいるであろうゼクさんたちと合流できるかもしれない。


 が、そんな願いとは裏腹に、スレインさんは決死の力を振り絞ってヘロデに斬りかかってきた。


「うおっ!?」


 もうほとんど倒れ込むようにその背を斬りつけようとしたスレインさんだったが、反射的に振り返ったヘロデは膝を上げてその身体を押さえ、そのまま足を突き出して蹴り飛ばす。


「ぐぁっ!!」


 床に転がり込んだスレインさんは、もはや体力も尽きてしまったようで、這いつくばって拳を握りしめたまま動けない。


「せっかく見逃してやったのに、この野郎っ!!」


「だ、ダメです!! えと、ヒーローはそんなことしちゃ、ダメなんです!」


 追撃しようとしたヘロデを、私は必死で声を上げて止める。


「ぬぅ、しょうがねぇ……。二度と不意打ちなんて卑怯なことするんじゃねぇぞ!!」


 ヘロデはそう吐き捨てると、私を抱えたままさっき落ちてきた場所へと向かった。



 行き止まりになったところでヘロデが軽く壁に触れると、さっきは閉まっていた天井が再び開き、ガゴッと音がして床が上がっていく。


「こんな仕組みになってたんだ……」


 思わずそうこぼすと、ヘロデは嬉しそうにまた歯を見せる。


「君が落ちた上の部屋はな、どこからでも床が開くようになってんだ。本当はこの昇降機で上ったり下りたりするんだけどな」


 ということは、私はこの装置を使わずに落下させられたことになる。死ぬかもしれなかったと思うと、ぞっとする。


「あの……あなたは、ヨアシュっていう魔人を知ってますか?」


 ヘロデがわりと好意的に接してくれるので、私はちょっと探りを入れてみた。


「ヨアシュ? 知ってるとも! あいつに言われて俺はここに来たんだ。君を救い出せってな」


 ヨアシュが私を狙っているのは間違いないみたい。でも、失礼だけど……どうしてこんな変人を刺客として寄越したんだろう。


「さっき言っていた『ナオミ』というのは?」


「ナオミはヨアシュの付き人みてぇな女だよ。あいつが作る薬はすげぇんだ、めっちゃ効くぜ!」


 敵には薬品に明るい魔人がいるらしい。そういえば、ギャングの研究者「クイーン」の研究成果を盗んだと聞いたけれど、そのナオミという魔人が悪用するつもりなのかもしれない。



 話しているうちに私たちは元の部屋まで戻っており、ヘロデはなぜか私を下ろしてくれないまま、あの台座のある広い部屋まで連れて行った。道中、ゼクさんたちの姿はなかった。

 その代わり、中央にあった円形のところが開いていて、地下への階段が見える。


「ほう、あいつらもうここの仕掛け解いたのか!」


 ヘロデはのん気に感心している。本当は今すぐ階段を下りてゼクさんたちのところに行きたいが、身動きが取れないのではどうしようもない。


「じゃあ、ちょうどいいな! もうすぐ面白いもんを見せてやれるぜ」


「お、面白いものって?」


「見てのお楽しみだろ、そこは~」


 わけもわからず上機嫌な彼の鼻歌を聞いていると――突如、地震が起こった。

 遺跡全体がひっくり返りそうになるくらいの大きな揺れで、大地が裂けるような地鳴りが轟いている。


「来た来たぁ!」


 戸惑っている私をよそに、ヘロデは興奮気味に辺りを見回している。ということは、これも何か遺跡の仕掛けの1つなのだろう。


 だが、その振動は激しさを増していき――私は悲鳴を上げそうになった。


 部屋全体が、直角に傾き始めていたからだ。

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