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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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ヨツバ議会

「あはははっ。クロさんは面白いなぁ」

「わふ? そうかな?」

「そうそう。ハボタンも見習ったらどうかな、この面白さ」

「見習いたくありません……!」


 咎める声を爽やかに笑って受け流すのは、長めの黒髪をひとつにまとめた青年だ。

 オレンジの瞳は切れ長だけど、話す雰囲気は鋭さよりも丸みを感じる。背はフミツキさんと同じくらいなので、男の人にしては低めかな。


 牢屋から出された僕たちが連れて来られたのは、質素な印象のある部屋だった。

 調度品は少なく、テーブルや椅子が最小限用意されている一室。書類仕事をするための部屋、という印象を持った。

 クロさんと親しげに会話するこの青年は、おそらくはこの部屋の持ち主なのだろう。こうして引き合わせるということは、ハボタンさんの上司か、雇い主か。


「んーと、それでクロさん。その子は?」

「アルジェちゃんだよ! かわいい吸血鬼なんだよ!」

「そうか。なら安心だね」

「安心しないでくださいぃ!?」


 悲鳴みたいな声をあげるハボタンさんを完全にスルーして、クロさんと青年は楽しそうに談笑する。

 そろそろ相手してあげないと彼女、泣くんじゃないだろうか。泣いたところで目が隠れてるから分からないけど。


 やがて笑うことに満足したらしく、青年はこちらに顔を向け、頭を下げてきた。


「初めまして。ヨツバ議会所属、アキサメ・ヒグレといいます」

「アルジェント・ヴァンピールです。呼ぶときはアルジェでいいですよ」

「承知しました、アルジェさん。僕のことは苗字でも名前でも、お好きな方で」

「分かりました、アキサメさん」


 名前を呼ばれ、アキサメさんはゆっくりと満足そうに頷いた。

 ハボタンさんの態度から察するに、やはり彼の方が上司なのだろう。


「アキサメ様。この国の最高決定機関がそんなことでは困りますっ……!」

「え、そうなんですか?」

「ん? ああ、まあね。ヨツバ議会は僕を含めた四人で会議して、(まつりごと)を行っているよ」


 なるほど、ヨツバだけに四人か。


「国を回すのが四人というのは、ずいぶん少ないように思いますが?」

「共和国は元々小国の集まりで、僕を含めた四人は統一の主導となった一族でねぇ……伝統ってやつさ。周りの助けもあるから、問題はないよ」

「はあ、なるほど」

「それにトップが四人と考えれば多いんじゃないかな。王国や帝国には、王様一人しかいないんだから」


 確かにそう言われてみれば、そうかもしれない。

 納得していると、アキサメさんが動いた。じゃれつくように周囲をウロウロしているクロさんを撫でていた手を離し、こちらに歩んでくる。


「とりあえず、サツキさんの関係者なら安心かな。あの人はあれで、本当に危険だと判断したものには関わらないから」


 相手は男性としては背が低いとはいえ、僕は子どもと言っていいサイズだ。こうして相対すると見降ろされる形になる。

 言葉は降ってくるようだけど、声音が優しいのは、サツキさんへの信頼ゆえか。


 ……サツキさん、ここでも信頼されてるんですね。


 商人さんに続いて今度は政治家にも名前を覚えられてるって、ほんとにあのひと何者なんだろう。

 謎は深まるばかりだけど、お陰で助かったのは本当だ。本来なら多分、怒られる程度ではすまなかっただろうから。


「まあでも、あまりこういうのは止めてくれるかな。一応、国の重要施設なんでね」

「そうですね。すいません、知らなかったもので」

「ははは。大方クロさんに無理やり連れて来られたんだろう?」


 その通り過ぎるので頷くと、アキサメさんは笑みを深くした。彼は表情を崩さないままでクロさんの方を見て、


「クロさんも頼むよ。今月でもう三回はそれで捕まってるだろう? 気にする子もいるんだから」

「ふつうは気にするものですよ!? なんで私の方がおかしい感じなんですか!?」

「わふ! 分かった! 今日寝るまでは覚えておくね!」

「できればずっと覚えててくださいませんかねぇ……!?」

「まあまあハボタン、落ち着いて。クロさんにはちょっとした仕事でもして、反省してもらうとしよう」

「わふぅ? お仕事?」


 疑問符を浮かべるクロさんに、アキサメさんは頷く。

 部屋の壁にかけられたものに、彼は近寄った。文字を見る限り、それは地図のようだ。

 地図には一つの大きな大陸と、その周りに海を示すのだろう青が描かれている。大陸の周辺には小さな島もいくつかあるけれど、やはり一番目立つのは中心の大きな陸地だろう。


 アキサメさんの手が指し示したのは、大陸の西に書かれた「ヨツバ共和国」の文字。指はそこから滑るように動き、ある一点で再び止まった。


「サクラノミヤから少し西にある、レンシアって村のことは知ってるかな?」

「知ってるよ! うちのお店、そこの蜂蜜使ってるもん!」

「そうそう。蜂蜜の産地で有名なんだけどね。数日、そこに視察に行くから、ついてきてくれないかな?」

「えー。ダメなんだよ。サツキちゃんが帰ってきたから、明日からお店やるんだよ。クロ忙しいの」

「そう? それならサツキさんに頼もうかなぁ」

「……わふ?」

「クロさんに敷地内で昼寝されたり、知らない人を連れて来られたり、この間も勝手に議会に入ってきて壺割ってくれたりしたから、その辺りの弁償にしばらく貸して欲しいって、雇い主に交渉しようかなって」

「わ、わふぅ!?」


 あくまで笑顔で話すアキサメさんに対して、クロさんは明らかに狼狽した。

 クロさんが慌てた動きでアキサメさんの近くに行き、腕を取る。耳と尻尾は完全に垂れて、先程までの元気が嘘のようだ。


「そ、それは困るんだよ! サツキちゃん怒ると凄く怖いもん!!」


 サツキさんはいつもにこにこしている。ああいう人ほど怒ると怖いというのは、なんとなく分かる話だ。

 ただ、所業が完全に自業自得なので、ちょっと擁護はできない。できないからこっちチラチラ見ないでください。


「クロさん、僕も行きますから」


 知らなかったとはいえ、僕も迷惑をかけたのは本当だ。変に目をつけられても困るし、ここは手伝っておこう。

 幸い、ゼノくんが商業ギルドに戻るのは一週間後らしい。数日くらいなら、首都を離れても問題ないだろう。


「……うう。分かったんだよぉ。アルジェちゃんがついてきてくれるなら、クロ、がんばるよ。おやつ抜きになりたくないしね」


 思ったよりサツキさんの怒りは軽そうだった。

 とはいえ、しぶしぶでも承認は承認だ。アキサメさんが満面の笑みで頷く。


「話は決まりだね。一応戦闘の可能性だけ考慮しておいてくれるかな。道中、魔物が出たりするかもしれないんでね」

「分かりました」

「さて、それじゃもうひとりはどうしたものかな」

「もうひとり?」

「そう、もうひとり捕まった侵入者がいてね。ええと、ハボタン。どんな子だっけ?」

「三叉尻尾の狐系獣人ですね」

「すいません、その子も連れて行きます」


 なにしてるんだろう、あの子。

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[一言] 狼狽...狼だけに...フフッ
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