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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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62/283

盗賊団は懲りない

「お……」


 身体を縛り付けていたものが、唐突に消える。立ち上がることすら不可能なほどに全身に巻かれた赤い鎖が、いきなりに霧散したのだ。


「チッ。痴女め」


 いない相手に毒づきながら、すぐに立ち上がって砂埃を払う。周囲で俺と同じように動く気配は部下ふたりのものだ。

 俺と同様に鎖で縛られていたダックスとチワワも、やはり拘束が外れている。


「おかしら、すいやせん」

「気にすんな。動けるようになるまでなにも無かったからいいだろ」


 動けないところを魔物や軍に見つかると面倒だった。そのときは無理矢理にでもどうにかしなけりゃいけなかっただろう。

 鎖が消えた理由は、恐らくはあいつが寝たからだ。あの痴女。確かアルジェントとか名乗ってたか。

 吸血鬼が持つ技能ブラッドアームズは、その使い手が意識を失うと解除される。そのことを俺たちは、よく知っているのだ。

 そしてあいつは、どうも寝るのが好きらしい。解除されたのは寝たのが理由でまず間違いない。魔物にでも襲われて死んでてくれりゃ、それも清々するがな。


「怪我はねえな?」


 分かりきっていることだが、一応確認はしておく。

 俺たちを捕まえた後、あの痴女は回復魔法をかけてからこの場を離れていった。だから傷などは無いはずだ。あるとすれば 、簀巻にされて転がされていたから少しは砂がついてる程度か。


 ……無茶苦茶な回復魔法使いやがって。


 俺たちが負ったのはかすり傷程度だったが、それに対してあいつは随分と大掛かりな魔法を使ってきた。

 三人同時回復。おまけに汚れ落とし付き。僅かな怪我どころか俺が地面に潜ったことでついた泥や土まで、綺麗さっぱり落とされた。


「大丈夫です、おかしら!」

「俺も!」

「おう。なら行くぞ」


 明らかに情けをかけられたのはちょっとどころかかなり(しゃく)に触るが、命あっての物種とも言う。

 腹は立つが、生きていることの方を重要視したほうがいい。まずは投げたナイフを回収して、それからだ。


「なんなんでしょうね、あいつ」

「俺が知るか。あんな馬鹿げた回復能力と速度の吸血鬼、聞いたことねえよ」

「そうですよね。前からいれば俺たち、知ってるはずだし」


 ふたりの言う通りだ。そんな吸血鬼が前々からいるのなら、俺たちは知っているはずだ。

 デタラメな吸血鬼は何匹か知っている。金色の『吸血姫』、黒の『伯爵』、赤い『領主』。

 だが、あいつは銀だ。デタラメどもに匹敵する、新しいデタラメの銀色。吸血鬼はいつだって唐突に生まれるが、いきなりあれだけの能力のやつは中々いないだろう。

 おまけに、あんな玩具(おもちゃ)まで持っていやがる。


「あいつどこで拾ったんだ、あんなもん」

「あんなもん? あいつの刀ですかい?」

「……ああ」


 あの刀のことも、俺は前から知っている。ダックスとチワワも聞いたことはあるものだ。俺は道具の鑑定ができるから、すぐにあれが、そうなのだと分かった。

 かつて、片割れを失った狂える刀鍛冶が打った姉妹刀。一時の夢を思い出して打たれた、二本の刃。

 その内の一本は帝国にある。もう一本は闇に流れたままだとは聞いていたが、今はああして痴女の手に収まっている。どうやってあんなもん手に入れたんだ。どこにあるのか、何年も行方が掴めなかったもんだってのに。


「『夢の睡憐(すいれん)』」


 名前も効果も鑑定済み。そもそも元から知っていた。

 どうも知らないようなのであいつに教えてやろうかとも思ったが、話の腰が折れた時点で面倒になった。

 そもそもなんで俺が教えてやらなけりゃいけないんだ。アホらしい。


 投げたナイフをすべて回収し、一度しまう。手入れは移動しながらすればいいだろう。

 まだ国境からそう離れてはいない。早めに移動して、次の獲物を探さなければ。

 あの痴女とまた会うかどうかは分からない。もし会えば今度こそ俺たちを芸人扱いしたツケを払わせてやる気でいるが、今のままでは厳しいかもしれないな。

 あれだけの吸血鬼を真面目に相手にしようと思うと、三人じゃ厳しい。その厳しさをどうにかする、なにかがなければ。


「……手を考えてはおくか」


 いつ死ぬのかも分からない、先の見えない稼業だ。せめて見えるものへの対策は、前々からしておく方がいい。

 今のところはなにも思いついちゃいないが、暇を見つけて考えておくとしよう。


 ……隙は多そうだしな。


 正確に言うなら、あいつはこちらを舐め過ぎだ。

 今回の戦闘で少しは改めたようにも見えるが、まだ気を抜きすぎている。

 その辺りが次に会うまでに改善されていないなら、次はこちらが勝てるだろう。もちろん、改善されていた場合でも通じる手段は用意する。

 変な情けをかけて生かしておいたことを、次こそは後悔させてやるのだ。


「行くぞ、テメェら!」

「「へい、おかしら!!」」


 打てば響くいつも通りの反応に満足して、マントを翻す。

 とにもかくにも、まずは明日の食い扶持だ。獲物を探して、狩らなけりゃならない。

 そう。俺たちは泣く子も黙る盗賊団。テリア盗賊団なのだから。

 王国じゃやりづらくなっちまったが、共和国は広い。一旗上げるにはいいだろう。

 行き先は決まらない。明日のことは俺たちもしらねえ。

 それでいい。それがいいんだ。俺たちは今、自由なのだから。

 好き勝手にやらせてもらう。誰にも邪魔はさせねえ。俺たちは、盗賊なんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一度小説を最後まで読むとこの回の最後の文が深い……
[一言] 地味にかっこいい
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