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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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足がある便利さ

「ん、んん~……あふぅぅぅ……眠いですね」

「アルジェント、お前さっきまで眠ってはいなかったか?」

「十二時間じゃ睡眠不足ですよ。せめてその倍は眠らないと」


 何故か一瞬、ネグセオーの動きが止まった。

 ぶふぅ、と鼻息を吹いてから、彼はまた歩き出す。何か変なこと言ったかな?


 寝てても進む足を手にいれた僕の旅は順調そのもの。起きたら移動してるなんて理想的すぎる。

 草原に吹く風は心地好くて、お昼寝に最適な日和だ。えへへへ、もうちょっと寝てよっと。


「ん、ふにゅ……」

「また寝るのか?」

「何かあれば……ん、起こしてください……」

「待て、アルジェント」

「……なんですかぁ……?」


 声をかけられたので、沈めようとしていた意識を持ち上げた。

 ネグセオーの低くて落ち着いた声を聞いていると少し眠なってくるのだけど、待てと言われれば会話はする。

 一緒に旅しているわけだし、コミュニケーションは取るべきだろう。馬だけど、翻訳技能のお陰で会話できるし。


「俺にも血の契約をしてくれないか」

「んぁ……構いませんよ。少し待ってくださいね」


 ネグセオーの意図は解らないけれど、デメリットがあることではないので軽く了承した。

 能力が向上するわけだから、寧ろメリットの方があることだろう。

特に体力が向上すれば、僕が眠っている間に進める距離は大きく伸びることになる。今よりらくちんになるなら、むしろ喜んで。

 軽く指に噛み付いて傷を付け、ネグセオーの背中に血を垂らした。後は言葉を紡ぐだけでいい。


「血の契約」


 オズワルドくんにしたときと同じように、お互いの存在が繋がった感覚がする。

 ピスケス号にしたのとは違い、生き物に血の契約を使うとお互いの存在を強く認識できるようになる。

 ちょっと不思議な感覚だ。なんとなく、お互いの体調や気分くらいならわかる。

 ちなみにオズワルドくんは今ちょっと疲れ気味だけど気分的には充実してるみたいだから、トレーニングでもしているのだろう。課題である速度を克服できれば良いのだけど、そこは本人次第だろう。


「ふむ」


 ネグセオーはオズワルドくんのように大袈裟な反応はしなかった。

 ただ自分の調子を確かめるように四つの足で順番に地面を踏みしめ、一言放って、それで終わり。

 彼らしいクールな受け止め方だった。


「満足ですか?」

「嗚呼。感謝するぞ、アルジェント。これでより速く走れる」


 あ、やっぱりそういう理由ですか。

 乗せて貰ってる身で何もしないというのも悪い気もしていたので、満足してくれたのなら良かった。

 いつもの痛いの痛いのとんでいけで指の傷を塞いでから、瞳を閉じる。はー、これでやっと――


「――アルジェント」

「ええ、解ってます」


 焦げ臭い。それも、肉が焼け焦げた臭いがする。

 馬の嗅覚は人よりも遥かに強い。吸血鬼の嗅覚も。お互いに焦げ臭さを感じたからこそ、話はすぐに伝わった。


「どうする?」

「気にはなりますね」


 無視したい気持ちもあるけど、火事か何かだとすると、そっちの方が面倒くさい。一応確認はしておこうかな。

 周りを見渡してみると、炎や煙は見えない。ただ、遠くの方角に黒の景色があった。周囲にあるのは背の低い草なので、あそこが焼けたのだということになる。


「見たところ、焼け終わってるようですね」

「嗚呼。放っておいても大丈夫そうだな」

(くすぶ)ってたりしたら危ないから、ちゃんと消えてるかどうかだけ確認しにいきましょう?」

「行くのは俺なんだが……?」

「お願いしますね、ネグセオー?」

「……承知した」


 自分で行くならたぶん面倒くさくて放っておくだろうけど、今の僕には歩いてくれる足があるので、寄り道は苦ではない。

 人間の溜め息のような大きめの鼻息を吹いて、ネグセオーはそちらに向かって歩き出してくれた。

 別に嫌なら嫌って言えば良いのに。流されやすい人、いや馬だ。

 これで人間だったら、ズルズルと僕のお願いに流されて最終的には養ってくれそうなのに。人間じゃなくて残念。


「アルジェント、お前変なこと考えてないか?」

「ネグセオーさんは良い馬だなーと考えてただけですよ」

「フッ、そうか」


 うん、結構ちょろいし。

 心無しか足を早めるネグセオーの背に暫く揺られて、現場に到着する。

 まず始めに思ったことは、「綺麗だな」だった。

 名前も知らない草花が燃えたのだと解る一帯は、ある一定の位置で燃焼の痕跡が消えていた。燃えていない草花は草の端どころか、熱で乾いたような印象もない。

 例えるなら、その部分にだけ蓋をして燃やしたような感じだ。一定範囲だけが燃えていて、後は無事という状態。


「……不思議な燃え方ですね?」

「なんらかの魔法によるものだろうな」

「そういうの解るんですか?」

「お前が鈍感なのだ」

「確かに僕はのろまで鈍くて、怠け者の代名詞みたいな存在ですね」

「そこまで言ってないぞ!?」


 ネグセオーから降りて、焦げ付いた地点に踏み入ってみる。

 意識を集中すれば、肌がぴりぴりするような感じがした。治りかけの日焼けにも似た、落ち着かない感じ。


 ……魔力の残滓?


 ネグセオーが感じてる感覚はこれなんだろうか。

 聞いてみようかと思ったけど、ネグセオーは燃えていない草を食んでいた。食事の邪魔をしても悪いので放っておこう。


 ……肉が焦げたような臭いの原因は、これかな?


 焼け跡の中、人に似た形の炭がいくつかあった。たぶん、元々は生き物だったものだ。

 崩れかけているけれど、手足があることは判別できる。顔の骨は犬に近い。人狼、とでも言えば良いのかな?

 森で見たコボルトにも似ているけど、コボルトは僕の腰くらいの背丈だった。目の前の(むくろ)はもっと大きい。成人男性よりも少し小さいくらいかな。

 人に似たなにかは、おぼろ気な骨格の形だけを残してすっかり焼けてしまっていた。風に吹かれるたびに崩れていく(むくろ)からは、相当強い火力で焼かれたということが窺える。


「ん……」


 焦げ臭さの中に、獣臭さを感じる。目の前の炭のものじゃない。もっと新鮮というか、ハッキリとしたものだ。

 もう少し嗅覚に集中すれば、なにか解るかも――


「――んにゃ?」


 焦げた臭いを強く感じた瞬間、炎が僕に直撃した。

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