大金庫の姉妹たち
「うう、アルジェお姉ちゃぁん……」
「まーだ言ってるのかい、シャーリィ」
「だってぇ……アルジェお姉ちゃん、一緒に暮らすのはダメだって……」
「ダメとは言ってないだろう、単純にもう家が決まってるからと言われただけで」
さめざめと泣く可愛い妹の頭を、私はそっと撫でた。
あの戦いの後、当然だけど私たちはアルジェを連れて帰ろうとした。
しかし、本人に断られてしまったのだ。大金庫は実家のようなもので、きちんとほかに家があると言われてしまった。
シャーリィとしては姉妹水入らずで仲良く暮らしたかったらしいので、そこら辺が納得いっていないのだろう。
「まあまあ、そんなに悲しまなくても。ほら、お姉ちゃんならここにもいるだろう?」
「……アルジェお姉ちゃんの方が反応が可愛いからいい。ぎゅってしたら耳まで真っ赤になるのがいいの」
「シャーリィは意外と小悪魔だなぁ」
帰るまで散々アルジェに引っ付いて離さなかったので、周囲がだいぶ困っていた。
寂しがり屋なようでいて意外と計算高いのはシリルに似ている気がする。
「まあ、この家が実家だとアルジェも思ってるわけだから、そのうち里帰りにくるよ」
「そんなこと言って、アルジェお姉ちゃん面倒くさがってなかなか帰ってこない気がする……」
「……正直、私もちょっとそう思うよ」
同じ魔力から生まれたはずなのだけど、どうもアルジェは私たちと比べると面倒臭がりで、あまり動きたがらない。
暮らしているところは随分と快適そうなので、たまに手紙を出してくる程度で帰ってくることは少ないかもしれない。
「……ふふ、そう言うと思って、実はこんなものを用意してあるよ!」
当然、できるお姉ちゃんである私はなんでもお見通しだ。
逆に考えるんだ。アルジェが遠くに住んでいてこちらに帰ってこないなら、こっちから出向けばいいやと考えるんだ。
「じゃーんっ!」
「……お姉ちゃん、これは?」
不思議そうな顔をするシャーリィの目の前には、一体の大型ゴーレムがいる。
デザインの基礎はいつものゴーレムで丸っこく、しかしいつも以上に丸々とした姿だ。大きな饅頭のようで、ちょっと可愛いと自負している。
「飛行型ゴーレムさ!」
「飛行型ゴーレム……!?」
「うん。あの帝国で使われていた空飛ぶ船を見て、ちょっと真似してみたんだ」
帝国は兵器として運用していたけど、それはつまり砲弾や兵士を積めるだけのスペースがあるという事だ。
似たようなものを真似して作っても、戦争用でなければ別に問題ないだろう。むしろ使い方さえ考えれば、陸路や海路より安全なのではないか。
森を抜けたり丘を越えたりしなくていいし、魔法で攻撃されない限りは襲撃の心配もない。強いて言えば空を飛ぶタイプの魔物への備えと、地上からの魔法攻撃への防御が課題か。
「現状、私の技術力じゃこの大きさで数人を運ぶのが限界だし、燃料の問題もあるけどね。とりあえず魔力を流せば動くけど、結構消費は大きめだよ」
「でも、これがあればいつでもアルジェお姉ちゃんに会いに行けるね……!」
落ち込んでいた顔はどこへやら。シャーリィはきらきらと瞳を輝かせて、新作ゴーレムに大喜びだ。うんうん、お姉ちゃん徹夜して頑張った甲斐があったなあ。
「まあ、とりあえず何回か試運転を重ねて、大丈夫そうならアルジェに会いに行こうか」
「うん! ありがとうお姉ちゃん、大好き!」
「ふふ、もっと言っていいよ、もっと言っていいからね」
大事なことなので二回言うと、シャーリィはすりすりとこちらに頬擦りして、嬉しさをアピールしてくる。
アルジェと同じ顔なのに、反応が甘えん坊なんて反則だ。クール系妹と、甘々系妹で二度美味しいなんて、お姉ちゃんはどうすればいいんだろう。鼻血出せばいいのかな。
引っ付いてきた相手を抱き寄せて匂いを嗅げば、妹のいい香りがする。もう一生嗅いでいたい。
「……アルジェお姉ちゃん、元気にしてるかな」
「……ああ、元気だと思うよ。あの子にはたくさん、大切な人がいるからね」
多くの人に好かれることが幸いだとは限らない。
けれど彼女にとっては、それが幸いとなったのだろう。
愛され上手の妹のことを想って、私は飛行型ゴーレムを見上げた。
さてさて、あの子は今頃いつも通り、ぐうたら昼寝でもしているのかな。




