輪廻の果てで
「……うむ。どうやら、大丈夫そうだの」
とある世界を覗き込んで、私は大きく頷いた。
頭の中では上司の安堵の吐息が聞こえてくるあたり、余程心配だったのだろう。
なにせあの緩いテンションの神々が、「ちょっと権能分けてあげるからなんとかして」と来たものだ。個人的には、ここ最近でそれが一番痛快な出来事かもしれない。
ともかく、これでクロガネ・クオンが危険な兵器を作ることはないだろう。とりあえず、今のところは、だが。
「……まったく、転生者どもは面白いのう」
誰も彼もひとりとして同じ人生は歩まない。
そんな人々の中でも、転生したものというのはやはり面白い。
一度目とは違う道を歩もうとするものも、同じ道を歩もうとするものも、等しく見ていて輝きを感じられる。
「……そう考えると、やりがいのある仕事じゃの。あのぐうたらも、あそこまで変化するとは思わなんだ」
玖音 銀士。彼もまた、私が転生させた存在だ。
アルジェント・ヴァンピールとして生まれ変わった彼は、はじめこそ生前と変わらない道を歩もうとしていた。しかし今は、少しだけ違うようだ。
「……不完全な世界も、また、在り方のひとつなのかもしれんの」
魂が世界に適合していないから転生させるというシステムは、神々の設計の不完全さを示している。
神々と名乗り、世界を眺めている彼らもまた、完全ではないのだ。
しかしそんな不完全な世界だからこそ、別の世界での幸せを手に入れられるものたちがいる。
「我ながら、責任重大な仕事よ」
とはいえ、休憩はしっかりと取る性分だ。
肉体はとうに失われて神の下僕となった我が身だが、それはそれとして甘いものも食べたいし、マッサージチェアとか座ってまったりしたい。
「ま、あんまりゴロゴロして吸血鬼になってもいかんから、そろそろ働くとするかのう」
軽く指を降れば、それだけで世界の覗き窓を閉じることができる。
自らが座っていた椅子も、甘味も、そして己の肉体さえも消失させて、私は仕事の準備を終える。
「……大事なものたちと、好きに生きるが良い。それは転生者だけでなく、きっと全てのものが赦されるべきことじゃ」
誰にも届かないと分かっていても、私は言葉を紡いだ。
「さてと、それでは仕事を始めるとするかのう」
再開を望めば、すぐにこの空間に転生者が現れる。
突然のことに目を白黒させる相手に、私は努めてゆるやかな調子で声をかけた。
「ようこそ、新たな転生者よ」
さて、今度の転生者はどんな人生を望むのか。




