復興の時間を
「……なあ、イザベラ」
「はい、なんですか、ムツキくん?」
「なんでこんなに書類があるんだろうなぁ」
「ヴァレリア領の復興の手伝いと、おまけにルルイエとかいう意味不明な国家との交易を決めたからでしょうね」
「……サツキのところに遊びに行っていい?」
「ダメです」
物凄くいい笑顔で否定されていた。王様と言う割には立場が弱い。
「すみません、もう少しまとめられたら良かったんですけど」
「ああ、いや。気にするなよ、ゼノ。俺も結局、好きでこういうことをしてるわけだからな 」
魔大陸でひとつの国を治める吸血鬼、ムツキさん。
旅の中で彼との繋がりを得た俺は、度々魔大陸を訪れて売り買いを行っていた。
本来なら魔大陸への道はかなり険しいものだけど、新興国家である海魔の国、ルルイエの協力によって、安定した旅をすることができるようになっている。
そのルルイエの女王であるクティーラちゃんも今はムツキさんの玉座の間に来ていて、
「うむ! ムツキどのの手腕は素晴らしいのう! ぜひぜひ、我が国の経営にも参考にしたいのじゃ!」
「ムツキくんも書類仕事をして長いですからね。文句を言いつつも、手際は良いのです。ええ、あまり褒めると調子に乗るので程々に殴りますが」
「いや、程々に殴るのはやめねえ?」
ツッコミを完全に無視するあたり、一周回って仲良しなのだろう。このふたりは独特の空気がある。
納得をしたところで、玉座の間の扉が開いた。
「ゼノ様。追加の書類をお持ちしました」
「ありがとうございます、リシェルさん」
魔大陸にて、ヴァレリアという領地を持つ貴族、リシェルさん。彼女が持ってきた書類の束を、俺は受け取った。
記載されているのはヴァレリアの領地を復興するために必要なものや、それについての予算であり、つまり俺にとっては大事なものだ。
「……ええ、これなら充分ですね」
「ふふ。ゼノ様、古代精霊言語がお上手になりましたね」
「商売で必要なものは身につけるようにしていますから。リシェルさんの方も、王国語や共和国語を勉強しているんですよね?」
「はい。今度会った時に、クズハ様や、フェルノート様とも、たくさんお話をしたいので」
あの戦いの後、俺たちはそれぞれの日常に戻った。
みんなそれぞれに行くべき場所があり、そのために別れたのだ。
だけどそれは、永遠に離れるということじゃない。いつかまた会って、笑い話ができるという事だ。リシェルさんもそのために、言葉の勉強を始めたらしい。
……変わっていくんだなぁ。
良くも悪くも、世界や人は変わっていく。
特に俺とリシェルさんでは寿命も違うのだ。俺がヨボヨボになっても、目の前のダークエルフや後ろの海魔の女王、吸血鬼の王様たちは若々しいままだろう。
なんとなく寂しいような気もするけれど、それはきっと悪いことでは無い。彼らはきっと、俺のことを覚えていてくれるのだろうから。
「……では、俺はそろそろ行きます」
「ん、もう行くのか? ゆっくりしていけばいいのに」
「まだ魔大陸からは王国や共和国には手紙を出せませんからね」
「そうか。また来いよ、ゼノ。面白い品は、正直俺も楽しみにしてるからな」
手を振って見送られて、俺は気分良く玉座の間を後にする。
「さてと、忙しくなるかな」
商人にとっては、それくらいがちょうどいい日常だ。
足取りが軽くなることを悪いことだとは思わず、俺は帰路につくことにした。




