ひとつのやくそく
「えっ……!?」
「なぁっ……!?」
クロガネさんと僕の反応は、同じ驚きから来ていた。
砲撃が来ると思ったその瞬間、吹き飛んだのは機械兵たちの方だったのだ。
正確には僕へと攻撃しようとしていたロボットではなく、遠くにいる別の一団が吹き飛んだようだけど、クロガネさんにとって予想外のことだったらしくこちらへの攻撃が止まった。
「砲撃、だと!?」
「一体どこから……!?」
「っ! アルジェさん、あれですの!」
クズハちゃんが指さしたのは、海の方角だった。
反射的にそちらを向いて、僕は驚愕する。
「船……!?」
「あの旗は……共和国と、王国のマークですのよ!」
いつの間に、そこに現れたのだろう。
海の上には何隻もの船が浮かんでいて、それは水平線の向こうまでずっと続いている。
「海上から増援だと!? 有り得ない! 海路での侵攻は厳重に警戒しているし、そもそもこの世界の海は海魔族どもの庭で……!」
「……海魔……あ……」
海魔族になら、知り合いがいる。
共和国と王国にも、知り合いがいる。
そしてこれだけ大掛かりな共同作戦でも、まとめあげられそうな人を、僕は知っている。
「クティーラちゃん、アキサメさん、スバルさん……ゼノくん」
これまでに出会った、たくさんの人の顔が浮かぶ。もしかするとアルレシャの領主、サマカーさんも来ているかもしれない。
「……約束を、果たしてくれたんだ」
あの日、ゼノくんはたしかに僕に約束してくれた。
必ず僕の有利になるように、何かをすると。
きっと僕たちがここまで来る間にたくさんの話があって、それをゼノくんは必死にまとめてくれて、そして間に合ったのだ。
「くっ……まだだっ! まだ、こっちの負けじゃない!」
「往生際が悪いですわよ!」
「君たちと同じさ! 諦められない、理由があるんだ!!」
そうだ。クロガネさんにだって、理由がある。
だから僕も、クロガネさんも、いいや、ここにいる誰もが、退こうとしていない。
誰も彼もが明確な意思を持ち、ぶつかった結果がこの戦場なのだ。
「邪魔っけな方から片付けてやる……!」
海上からの増援への反撃として『鉄巨人』から出てきたのは、飛行船の群れだった。
「っ……まずい!」
空からはまずい。
これだけの規模の戦闘において、制空権を掌握しているかどうかは重大な意味を持つ。
海に浮かぶ船も、陸を歩く歩兵も、空から爆撃を受けたら一溜りもない。
この世界なら魔法もあるけれど、魔法が使える人ばかりというわけじゃない。
ましてや高空に存在する鉄の塊を撃墜するなんて、余程の出力がなければ――
「――空は私の居場所だ」
声が響くと同時に、光が疾走した。
天を貫くようにして放たれた熱線は、飛行船をなぎ払い、まとめて撃墜した。
「『黒曜』……!? 飛ぶのは危険だって……!」
「分かっているさ。だが、あの巨人に辿り着くのはひとりでいいのだろう?」
「だったら、シオンたちは引き付け役をしますよ!」
言っている間にも、無数の砲撃が宙を舞う『黒曜』を狙って放たれる。しかも地上からだけではなく、飛行船からもだ。
それらを掻い潜り、迎撃すらしながら、ギンカさんとシオンさんは叫ぶ。
「あの援軍は君が連れてきたんだろう、アルジェ!」
「だから、行ってください! 船にも、地上の仲間にも、空からは手を出させませんから! あなたがやりたいことを……!」
「っ……はい!」
あそこまで言われたら、こちらも応えなくてはならないと思う。
ふたりの言葉に押されて、僕は再び走り出した。
「クズハちゃん!」
「ええ、ここにいますわ!」
少しだけ元気が出てきたらしく、クズハちゃんも遅れずについてきてくれる。
船からの砲撃は味方に当たらないように配慮されているようで、遠くの機械兵たちが吹き飛んでいく。直接の援護ではないけれど、数が減るのはありがたい。
敵のうち、遠距離攻撃ができるものの多くは『黒曜』を狙っていて、こちらへの攻撃の密度が下がる。
そして空からの爆撃は、『黒曜』が防いでくれているので心配する必要は無い。
上を見上げることなく、僕はクズハちゃんと共に前へと突っ込んだ。




