神に祈らぬものたち
「……ああ、ああ」
なんて声だ。これが僕の声か。
酷くかすれて、自分でも動揺していると分かってしまう。
「……見誤った」
認めなくてはいけない。
玖音の家は、力のあるものを常に認めてきた。
それはなにも屈服させるだけではない。たしかに僕たちの血筋はほぼ近親婚だが、外部からの有力な血を取り込むことはあったのだ。
だから玖音として、僕はこの状況を、『黒曜』がもたらした成果を認めなくてはならない。
「この『鉄巨人』を使った時点で、帝都は事実上の崩壊。この戦争は、僕たちの負けだ」
帝都をひとつの兵器とするというのは、いわゆる最終手段だ。
そしてその切り札を、僕は今使ってしまった。
結果として敵は逃げた。だが、帝都は失った。
首都が消えた以上、帝国という国は崩壊したに等しい。
この『鉄巨人』は、本当に最後の手段だったのだ。
パーツは地下で保管し、動力はこの帝都を覆う夜をもたらす魔具の力をエネルギーに転用。
巨大な移動要塞であり、決戦兵器でもあるが、逆に言えば何もかもを踏みつぶしてしまうので制圧には向かない。完全な『殲滅』兵器だ。
「……ん、んん」
「ああ、起きたかい、帝王様」
「クロガネ、か……ここは……」
「前に言ってた最終兵器だよ。しばらくは動けないだろうから、そこにゆっくり座っていてくれ」
僕が開発した『紅玉』は、帝王の身を守るためのものでもある。破損と引き換えに、彼女の負傷は片腕と腹部の骨折に納まっていた。
適切な処置を施していれば、問題ない。そもそも『紅玉』の主となった時点で、治癒はふつうの人間の数倍だ。たとえ技能がなくとも、外部からの補助は受けられる。
僕の背後に設けた玉座に座ったままで、彼女は口を開く。
「帝都が陥落したか」
「そりゃあ、君が倒れたからね。事実上、この国は滅んだ」
「……ままならないものだ」
手のひらからこぼれていくものをすくうかのように、彼女は虚空へと手を伸ばす。
「一度手に入ったはずのものでさえ、こうも簡単に無くなってしまう。そして、それを我慢できないと思う自分がいる」
「だったら、我慢しなくていいのだろうさ」
僕はこの世界において、孤児として生まれた。
当然だろう。僕は戦争を望んだ。であれば、戦争のある国へとうまれる。そして戦争がある国に、孤児なんて捨てるほどいる。
彼女もそのうちのひとりだった。無数に居る、名もない孤児のひとり。
ただ、僕と彼女で決定的に違うことがあった。
……祝福だ。
僕は転生者だ。言うなれば、神の祝福を受けて、約束された成功というレールの上に乗せられた。
しかし彼女は、誰にも祝福されず、この世界の技能というシステムからも外れてしまっている。
きっと彼女は死後、転生者となるだろう。魂が世界に合っていないことが転生の条件なら、彼女はそれを十分に満たしている。
「……くそっ食らえだ、そんな世界は」
システムエラーで生まれ間違えるだなんて、そんな欠陥品の世界を用意しておいて、よくも見守るなんてほざけたものだ。なにが神だ。ふざけるなよ。
新たな命で素晴らしい人生などと聞こえがいいけれど、例え代わりの命を貰っても、元いた世界での想いは決して果たされないのだ。
ああそうだ。お前たち神々に言われるがまま転生して、それで元の世界でのなにもかもはどうなる。
彼女の望みは、この世界でこそ果たされるべきものだ。
僕はそれが出来なくて、転生してようやく手に入れることができた。だけど、それで前世で味わった無力感がチャラになるなんてことがあるものか。
「なに、大丈夫さ、帝王様。君には僕がいる。兵力は一時的には兵器で補える。失った民はどこかにいる新たな民で回復すればいい。或いは敗残兵が再び君の元に集うまで、僕が守る……いいや、いっそ目の前の邪魔者をすべて葬ってしまおうか」
「……任せよう、クロガネ。お前は私の……最初の部下だからな」
「お任せあれ、僕の王様」
上司の許可も得たので、僕は容赦をしないことにした。
さあ、ここからが本当の最終決戦だ。




