落日
「やった……!」
決定的とも言える一撃が入るのを、僕は目視で確認した。
ギンカさんとシオンさんの『黒曜』。その渾身の打撃が、帝王が纏う鎧を砕いたのだ。
「……って、落ちてきます!」
「っ……アオバ! 受け止められる!?」
「はいはい、お任せを〜」
フェルノートさんの言葉に、青葉さんが応えた。
自慢のツタを伸ばして編み上げて、即席のネットのようなものを作成する。
空から落ちてきた三人は地面にぶつかることなく、ツタによって受け止められた。帝王だけでなく、ギンカさんとシオンさんも融合を解いている。
「はい、痛いの痛いの飛んで行けー」
「……助かる。正直もう、指一本動かす余力がなかったからな」
「あはは、シオンももうしばらく動けませーん……ぐてっ……」
あれだけ激しい戦闘だったのだから、当然だろう。
もう決着は着いたのだから、ゆっくりと休んで欲しい。回復魔法はかけたから、直ぐに回復するだろうけど。
「……どうしてだ」
疑問、と言うよりは、憤りの言葉が響く。
身を震わせて言葉を紡ぐのは、クロガネさんだった。
「『黒曜』の性能は、『紅玉』の半分以下のはずだ……そもそもコンセプトが違う……『黒曜』は転生者を都市ごと殲滅することまで視野に入れた兵器だが、『紅玉』は帝王専用に組んだ絶対安全なカプセルであり、絶対に負けないための武装だ……正面からの戦闘なら、『黒曜』が、いや現存する兵器や個人が勝てるはずが……!」
「アルジェさん、なんかあの人、よくわからないことを言い出しましたわ……テンセイとかセンメツとか……」
「あー、えー……専門用語みたいなものだと思います」
ひとりで考えに入るのは結構だけど、それで妙な情報をこの世界に持ち込まれたら説明が面倒なので、僕の方で適当に誤魔化しておくことにした。
……さすがに、ショックが大きいみたいですね。
クロガネ・クオン。彼は技術屋だ。
しかも玖音として完成された、相応の能力を持っている。
事実、文明レベルが著しく低いこの世界で機械文明を確立させ、魔法や魔具といった僕たちが元いた世界にない技術さえ取り込んでいるのだ。紛れもなく天才、あるいは怪物と呼んでもいい。
「技術屋が自分の兵器のスペックを見誤るなんて、発狂ものでしょうからね」
青葉さんの言葉通りなのだろう。
彼にとって、この結果はありえない事。
自分で造り、自分で優劣をつけた『黒曜』と『紅玉』。そのふたつがぶつかって『黒曜』が勝つことは、彼にとって到底認められることではなかったのだ。
「君が纏うそれは、なんだ……それは本当に僕が造ったものなのか……!?」
「……人は、生まれ方は選べない。だが、生き方は選べる」
ああ、本当に。
なんて眩しい、言葉なのだろう。
僕が玖音 銀士として生まれたことは、僕が望んだことじゃない。
だけど、僕がアルジェント・ヴァンピールとして生きてきたことは、僕自身が選んだことだ。
こちらに向けられた訳では無いのに、言葉がすとんと胸に落ちてくる。
「人は……人はそうだ! だが『黒曜』は兵器だ! 感情を搭載しただけの、先が決められた……」
「何度でも言う。限界を決めているのはお前だけだ」
「ええ。その先は……私たちが決めるものです、お父様」
「感情が、心があれば、それはもはや兵器ではない、生き物だ。私が纏っているもの、そしてシオンが纏っているものは……」
「この人と共に生きると、この世界と共に有ると決めた、覚悟です!!」
転生などしなくても、この人たちは充分に強い。
揺るがない言葉と意思が響き、誰もがそれを否定しない。
その中でただひとり、否定は紡がず、しかし敵意を剥き出しにしたものがいた。
「……なるほど。確かに、僕が失敗だったようだ」
「お父様……?」
「僕の仕事は兵器開発。だというのに、生き物を開発してしまった。それは確かに、失敗だったな。猟犬部隊も、『黒曜』も、精神性というものを戦果に転用する試みだったが……兵器にするには、良くも悪くも揺らぎがありすぎるということか」
「っ……まだ、なにかするつもりですの!?」
「くっ……!!」
気配で危険を察知したのだろう。
リシェルさんが引き絞っていた魔法の矢を、容赦なく放った。
本来であれば、肩を貫いて無力化する軌道。正確な狙いは、防がれることで無力化された。
「なっ……!?」
「まだこんな隠し玉を……!?」
「見せてあげよう。正真正銘の、決戦兵器というやつを」
クロガネさんの瞳に宿る感情は、もはや不理解でも、怒りでも、焦りでもない。
それはひとつの答えと、覚悟を得た人の瞳だった。
轟音とともに、大地が割れる。『鉄の塊』が、無数に現れてくる。
そう、鉄の塊だ。それはひとつではなく、地面を破壊して唐突に現れ、そのうちのひとつが放たれた弓矢を無効化したのだ。
「やはり、兵器に感情は不要だったな」
「クロガネさんっ……!」
「……覚悟をもってあたろう。僕も、玖音の人間らしく、すべてを蹂躙してみせよう」
ちっとも楽しくない時間は、まだ続きそうだった。




