表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

262/283

落日

「やった……!」


 決定的とも言える一撃が入るのを、僕は目視で確認した。

 ギンカさんとシオンさんの『黒曜』。その渾身の打撃が、帝王が纏う鎧を砕いたのだ。


「……って、落ちてきます!」

「っ……アオバ! 受け止められる!?」

「はいはい、お任せを〜」


 フェルノートさんの言葉に、青葉さんが応えた。

 自慢のツタを伸ばして編み上げて、即席のネットのようなものを作成する。

 空から落ちてきた三人は地面にぶつかることなく、ツタによって受け止められた。帝王だけでなく、ギンカさんとシオンさんも融合を解いている。


「はい、痛いの痛いの飛んで行けー」

「……助かる。正直もう、指一本動かす余力がなかったからな」

「あはは、シオンももうしばらく動けませーん……ぐてっ……」


 あれだけ激しい戦闘だったのだから、当然だろう。

 もう決着は着いたのだから、ゆっくりと休んで欲しい。回復魔法はかけたから、直ぐに回復するだろうけど。


「……どうしてだ」


 疑問、と言うよりは、憤りの言葉が響く。

 身を震わせて言葉を紡ぐのは、クロガネさんだった。


「『黒曜』の性能は、『紅玉』の半分以下のはずだ……そもそもコンセプトが違う……『黒曜』は転生者を都市ごと殲滅することまで視野に入れた兵器だが、『紅玉』は帝王専用に組んだ絶対安全なカプセルであり、絶対に負けないための武装だ……正面からの戦闘なら、『黒曜』が、いや現存する兵器や個人が勝てるはずが……!」

「アルジェさん、なんかあの人、よくわからないことを言い出しましたわ……テンセイとかセンメツとか……」

「あー、えー……専門用語みたいなものだと思います」


 ひとりで考えに入るのは結構だけど、それで妙な情報をこの世界に持ち込まれたら説明が面倒なので、僕の方で適当に誤魔化しておくことにした。


 ……さすがに、ショックが大きいみたいですね。


 クロガネ・クオン。彼は技術屋だ。

 しかも玖音として完成された、相応の能力を持っている。

 事実、文明レベルが著しく低いこの世界で機械文明を確立させ、魔法や魔具(アーティファクト)といった僕たちが元いた世界にない技術さえ取り込んでいるのだ。紛れもなく天才、あるいは怪物と呼んでもいい。


「技術屋が自分の兵器のスペックを見誤るなんて、発狂ものでしょうからね」


 青葉さんの言葉通りなのだろう。

 彼にとって、この結果はありえない事。

 自分で造り、自分で優劣をつけた『黒曜』と『紅玉』。そのふたつがぶつかって『黒曜』が勝つことは、彼にとって到底認められることではなかったのだ。


「君が纏うそれは、なんだ……それは本当に僕が造ったものなのか……!?」

「……人は、生まれ方は選べない。だが、生き方は選べる」


 ああ、本当に。

 なんて眩しい、言葉なのだろう。

 僕が玖音 銀士として生まれたことは、僕が望んだことじゃない。

 だけど、僕がアルジェント・ヴァンピールとして生きてきたことは、僕自身が選んだことだ。

 こちらに向けられた訳では無いのに、言葉がすとんと胸に落ちてくる。


「人は……人はそうだ! だが『黒曜』は兵器だ! 感情を搭載しただけの、先が決められた……」

「何度でも言う。限界を決めているのはお前だけだ」

「ええ。その先は……私たちが決めるものです、お父様」

「感情が、心があれば、それはもはや兵器ではない、生き物だ。私が纏っているもの、そしてシオンが纏っているものは……」

「この人と共に生きると、この世界と共に有ると決めた、覚悟です!!」


 転生などしなくても、この人たちは充分に強い。

 揺るがない言葉と意思が響き、誰もがそれを否定しない。

 その中でただひとり、否定は紡がず、しかし敵意を剥き出しにしたものがいた。


「……なるほど。確かに、僕が失敗だったようだ」

「お父様……?」

「僕の仕事は兵器開発。だというのに、生き物を開発してしまった。それは確かに、失敗だったな。猟犬部隊も、『黒曜』も、精神性というものを戦果に転用する試みだったが……兵器にするには、良くも悪くも揺らぎがありすぎるということか」

「っ……まだ、なにかするつもりですの!?」

「くっ……!!」


 気配で危険を察知したのだろう。

 リシェルさんが引き絞っていた魔法の矢を、容赦なく放った。

 本来であれば、肩を貫いて無力化する軌道。正確な狙いは、防がれることで無力化された。


「なっ……!?」

「まだこんな隠し玉を……!?」

「見せてあげよう。正真正銘の、決戦兵器というやつを」


 クロガネさんの瞳に宿る感情は、もはや不理解でも、怒りでも、焦りでもない。

 それはひとつの答えと、覚悟を得た人の瞳だった。


 轟音とともに、大地が割れる。『鉄の塊』が、無数に現れてくる。

 そう、鉄の塊だ。それはひとつではなく、地面を破壊して唐突に現れ、そのうちのひとつが放たれた弓矢を無効化したのだ。


「やはり、兵器に感情は不要だったな」

「クロガネさんっ……!」

「……覚悟をもってあたろう。僕も、玖音の人間らしく、すべてを蹂躙してみせよう」


 ちっとも楽しくない時間は、まだ続きそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ