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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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258/283

あなたのおと

 意識は暗く、深く、水の底に沈むようだった。


 ……負けたのか。


 情けない。あれだけ大口を叩いておいて、愛する人であるシオンそのものである『黒曜』を纏っておいて、一撃で叩きのめされるとは。


「……すまない、シオン」


 言葉を口にしてみても、答えはない。

 そもそもここは真っ暗で、なにもない。たぶん死ぬ前に見る夢のようなものなのだろう。

 自分が喋っているのか、考えているのかも定かではない世界。

 確かなものはひとつもなく、後悔ばかりで満たされていく。


「シオン……」


 名前を呼ぶ。思う。そのどちらを行ってみても、反応がない。

 もしかするとあのとき、『黒曜』が砕かれるのと同時に、彼女も消えてしまったのだろうか。


 ……だったら、もう、私も眠ってもいいのだろうか。


 反乱軍という場所は、放浪の旅の中でなんとなく身を寄せただけにすぎない。つまり、元々の身の上はクロムと同じだ。違っていたのは、私が自分の力の振るい方に疑問を持っていたことだけ。

 今の地位に収まったのは、単純に今までの指導者が次々に戦いに倒れて、私がいつの間にか最古参になっていたというだけの話だ。


 ミヤマの家は古い流れを組む家系で、武を重んじる。しかし私は、その武をどう振るえば良いのか、皆伝を言い渡されたあとも答えを出せないでいた。

 そんなとき、私は彼女と出会ったのだ。私と同じように、力があるだけで、まるで子供のように行き先に迷っていた、シオンと。


「……君がいなければ、私はただの力だ」


 きっと、私は一振りの刃であれば良かったのだろう。

 ただ振るわれるだけで、いつか折れてしまうだけの力の消耗品であれば、もっと楽だったのだ。

 そしてそれはシオンも同じだ。心などなく、ただの兵器であったなら、悩むことも、泣くこともなかったのだ。


「ああ……どうして私は……私たちは……こんなふうに、生まれてしまったのだろう……」


 どうせなら、刀と鞘にでもなりたかった。

 シオンと私、ただ一組のモノであれば、思い悩みなどしなかったのに。


 愛しい人の声が聞こえない。たったそれだけで、私の心は冷えていく。意識を手放して、捨ててしまってもいいと思えるほどに、なにもかもがどうでも良くなっていく。


「……シオン……シオン……寂しいよ……シオン……」

「ふふ、呼びましたか、ギンカさん?」

「っ……!?」


 意識を捨てようとしたその瞬間、私は望んでいる人の声を聞いた。


「し、シオン……!?」

「はーい、いつもニコニコ、ギンカさんのお姫様。シオンちゃんでーす♪」

「無事だったのか……!?」


 相変わらず周囲は真っ暗で、なにも見えない。

 けれど、声だけは聞こえてくる。方向さえも不確かで、幻聴なのかとも思うけれど、愛しい人の声が。


「無事、というか現在、急速修復とリスタートをかけているというか……ちなみにこれ、ギンカさんの意識に、融合したシオンの意識が混ざっている……まあ同じ夢を見ている状態に近いですね」

「……そうか。そしてこうして話ができるということは、君も回復してきているということだな?」

「ええ。時間はかかりましたけど……完全に破壊されるのを、フェルノートさんが防いでくれていました。そして今、ギンカさんの身体をアルジェさんが治してくれています」

「みんなが……」


 ああ、なんと情けない。

 私が諦めようとしていたのに、反乱軍ですらない彼女たちが今もなお戦っているなんて。


「ふふ。ギンカさんは、シオンがいないとダメですからね」

「……返す言葉もない」

「ええ。でも……シオンがいるギンカさんは、無敵です」


 ああ、本当に我ながらなんと情けなくて単純なのだろう。

 さっきまで諦めかけていたのに、恋人の声が聞こえた瞬間にやる気を出すなんて、あまりにも単純だ。

 こんなことでは組織の長など務まるはずもない。さっさと戦争を終わらせて、お役御免と行こう。


「いけるか、シオン」

「シオン……『黒曜』も竜の身体を元に造られていますから、半分は生体ユニットです。アルジェさんの回復魔法で修復もかなり早まりましたよ」

「そうか。では、報いねばならないな」


 意識がはっきりしてきているのか、徐々に夢の中の視界が開けてくる。

 そして私の目の前に、愛しい人の笑顔があった。


「……私はただ、一振りの刃であれば良かったと、今でも思うよ」

「でも、心があるから出会って、恋をして……大好きな人と、共に生きられるんですよ」

「……本当に、君には敵わないな」

「ふふ。シオンの王子様は不器用で、鈍感で……でも、一番側にいて欲しいときに、こうして抱きしめてくれます。それは……刃じゃなくて良かったと思うのに、充分な理由だと思いますよ?」


 シオンがそう言ってくれるから、私は生きる意味を見つけられたのだ。

 君がいなければ、私は生きていたいとさえ思えない。

 だけど君がいるのなら、何度だって立ち上がれる。

 王子様は、お姫様がいて、はじめて困難に立ち向かって、幸せに暮らせるのだ。


「……愛してるよ、シオン」

「えへへ、後で現実でも、聞かせてくださいね」


 意識が浮かんで行くのを感じる。きっと、目覚めが近いのだろう。


「昼寝が過ぎたな」


 寝坊した分は、戦働きで取り返すとしよう。

 不器用な私でも、それだけは自信があるのだから。

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