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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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潰される芽

「さて、それでは反逆者たちの処刑でもするとしようか」


 声の重圧は凄まじく、誰もが動けなくなるのがわかった。

 喚いていたはずのクズハでさえ、帝王の方向を見つめて固まっている。


 ……動きたいけど、動けないわ。


 聖騎士として、長く戦いに身を置いてきた。

 その私の経験が、ただただ警鐘を鳴らしている。

 見れば、帝国の手勢である吸血鬼や猟犬の名を持つ兵士たちさえ動きを止めているのだ。

 それほどまでに空気が重い。誰もが動けない。動いたらその瞬間に、命を失いそうな気さえしている。


「さて……『黒曜』、だったか。それを作戦の中核に据えるのには、些か問題がある」

「シオンが失敗作だから、ですか……!?」

「いいや、シオンとやら。お前は失敗などしていない。立派に生み出され、自らの意思で生きている。十二分に素晴らしいであろうさ」


 褒められるとは思っていなかったのだろう。ミニシオン形態となったシオンが目を丸くする。それを肩に乗せているギンカの方も、明らかに動揺した。


「そうではない。『黒曜』を中核に据えるのも悪くは無い。しかし、問題がある。それは……お前の生みの親が、こちら側だという事だ」

「まさか……同型の新しい兵器か!?」


 肯定するようにして、ブルートが片手を空へと伸ばす。


「……接続(アクセス)


 紡がれた言葉は、ギンカとシオンのように共鳴するのではなく、ただ響いた。

 眩い閃光は紅で、まるで血液が吹き出すかのように、撒き散らされた。

 光が納まったあと、そこにいるのは一体の鎧。

 フォルムはギンカの黒曜に似通っていて、けれど真っ赤な色合いをしていた。


「……紅い、『黒曜』」

「……『紅玉(こうぎょく)』と、クロガネは呼んでいる。最新式だ」


 ゆったりとした構えは、徒手空拳だった。

 武器を持つことなく、ただ、両の手を上下に構える。たったそれだけで、空気が震える。濃密な魔力によって、大気が揺らいでいるのだ。


「来るがいい、旧型。お前はもう古いものだ。前へ行く私には必要ない」

「っ……こっちはふたりで、成長もします!!」

「ああ……行くぞ、シオン!! そちらから来てくれるなら、願ってもないことだからな!!」


 魔力収束刃という、私が魔法で生み出す剣と同質のものを構えて、『黒曜』が突撃する。

 竜の突撃にも匹敵する威力の二刀は、確かに相手の身体を捉えた。私と戦ったときのような遠慮は一切ない、相手を殺すことを完全に視野に入れた一撃だ。


「……なるほど。確かに成長はしているようだ。まさか、片手を使わされるとは思わなんだ」

「っ……!!」


 その攻撃を、『紅玉』は涼しげな様子で受け止めていた。

 それも、ただ腕を上げるという、何気ない動作。防御したというよりは、腕を犠牲にしたような手段で防いでいながら、『紅玉』は傷のひとつも負っていなかった。


「言っただろう。旧式では、ここが限界だ……ふっ!」

「っ……ギンカさん!!」

「かふっ……!?」


 打撃音は重く、明らかになにかが砕ける音がした。

 たった一撃。突き刺さるようにして叩き込まれた正拳で、ギンカは力を失った。

 崩れ落ちる『黒曜』に一瞥すらくれることなく、『紅玉』は周囲を見渡す。


「さて。処刑を続けよう。或いは、降伏でも構わないが」

「……クズハ、アオバ、クロムも。リシェルと反乱軍を連れて退きなさい」

「フェルノートさん!?」

「あれは私じゃないと時間が稼げない。引き付けておくから、体勢を建て直しなさい」


 ギンカの生死を確かめる余裕はない。

 少なくともミニシオンは消失したので、『黒曜』の機能は完全に停止したと見るべきだろう。


 だとしたら、今この場での最大戦力は私。そしてこの状況をひっくり返すには、正面からでは不可能だ。


「なんでもいいから、打開して、なんて……あまり言いたくはないのだけど、頼むわよ。まずはアルジェを優先して。あの子の回復魔法がないと、無理よ」

「……分かりました! 行きますよ、クズハちゃん」

「あ……フェルノートさん!!」


 クズハが私を呼ぶ。

 ああ、ひどい顔だ。友達に拒絶されて、泣き腫らして、今もまた、私に手を伸ばそうとしているのに引き離されていく。


 ……友達は大事にしなさいって言ったでしょうが、バカ吸血鬼。


 ここにいない相手のことを考えながら、私は無理矢理に笑顔を作る。


「心配しなくていいわよ。これでも、聖騎士なんだから」


 元、なんてもう言ってられるような状況ではない。

 退いていく反乱軍たちと、それを追う敵軍。どちらにももう視線を向けることなく、私は目の前の相手と向き合った。


「……フェルノート・ライリアか。現役時代は随分と苦しめられた相手だ。まさかお前ひとりで精鋭部隊を23も潰されるとは思わなかったからな」

「覚えが良くて光栄よ、皇帝様」

「ああ、覚えている。私の部下の顔、名前、家族構成に至るまで、私はすべて覚えている。お前が殺した部隊員全ての名前を、この場ですべていうことも出来るとも」

「……そこまで部下思いなのに、どうして戦争なんてはじめたのよ」


 驚きを超えて、私は戦慄していた。

 相手の目に、言葉に、淀みはない。つまりこの相手は自分が言うように、少なくとも報告されている限りの私の戦果と、それによって散った命のことをすべて覚えている。

 死んだ人間のことをそれだけ覚えていて、ここまで泥沼の戦争を引き起こすなんて、正気の沙汰ではない。


「戦争をはじめたのは私のずっと前の代からなのだがな」

「あなたで終わらせることができたはずでしょう」

「馬鹿な。まだ何も始まってはいない」


 こちらの言葉に首を振り、相手は構える。右手を上に、左手を下に。どこか芝居がかかっているようにも見えるのに、恐ろしいほどの殺気と魔力を垂れ流している。


「王国との戦など小競り合い。私はその先……世界のすべてが欲しいのだ」

「それは傲慢でしょう」

「欲しいと思ってしまったのだ。この世のすべてが愛おしい、私のものにならないのなら壊したいほどに」

「……あなたが狂っているのは分かったわ」


 この相手に、言葉は通用しない。

 たとえ間違っていても、それをやり通そうとするだけの意思と力を持っている。いや、持ってしまっている。


「……ギンカ! 聞こえてるならさっさと起きなさいよ!!」


 正直、私ひとりでは無理だ。

 『黒曜』を纏ったギンカを相手にあそこまでギリギリだった私では、この相手に勝つことは出来ない。

 倒れているギンカが起きることを期待して、私は剣を抜いた。


「……時間稼ぎくらいには、ならないとね」


 まだ終わっていない。けれど帝王を野放しにしておけば、いずれすべては終わる。

 だから今は。今は、私が時間を稼ごう。

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