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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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228/283

狐娘の修練場

「あうっ」


 ずん、と地面に頭をぶつけて、痛みに顔をしかめた。

 土の匂いを振り払うようにして慌てて起き上がると、フェルノートさんが木剣を構えたままで、


「……クズハ、大丈夫?」


 静かな言葉は、こちらの怪我を心配しているわけではなく、続けるのかという問いかけだった。

 答えは当然ひとつで、私は言葉の代わりとして、分身とともに相手へと走る。

 分身とともに入り乱れ、あらゆる方向からの同時攻撃。回避も防御も、ひとりでは手が足りないはず……!!


「多段同時攻撃。それはあなたの一番の強みだけど――」

「ふぎゅ!?」

「――気配でぜんぶ、分かるわ」

「ううぅ、まだ未熟ですの……」


 相手の逃げ道を潰すように、厚みのある攻撃をしたつもりだった。

 けれど相手は逃げたりはせず、寧ろ一瞬で分身をすべてさばき、本体である私を組み伏せてきた。


「そもそも、なぜ私が本物だと分かりましたの……?」

「本体が一番安全なところにいるでしょう」

「あぁ……」


 端的な言葉だけど、確かにその通りだった。

 分身はいくらでも生み出せるけれど、私はひとり。

 それを理解している私と、その私から生まれた分身だからこそ、分身たちにはより危ない位置取りをさせてしまいがちだ。


「今日はここまでにしましょう。あんまり根を詰めても仕方ないでしょうから」

「ありがとうございましたわ、フェルノートさん」

「いいのよ。どこか痛む? 簡単な怪我なら、ヒールしてあげるわ。それとも、アルジェに治してもらう?」

「……申し訳ありませんが、お願いできますの?」


 素直にお願いすると、フェルノートさんは微笑んで回復魔法をほどこしてくれる。


 ……見透かされてますわよねぇ。


 アルジェさんに知られたくないことを、言わずとも気付かれている。

 だからフェルノートさんはなにも言わずに私に付き合ってくれるし、こうして怪我の治療もしてくれるのだろう。


「ごめんなさいね、痛かったでしょう」

「いいえ、私が言い出したことですもの。構いませんわ」


 木剣による打撲の痕と痛みはすっかりと消えている。

 疲労までは回復していないけれど、そこまでいくとアルジェさんの領域だ。この疲れも私がまだ未熟であるという証として、しっかりと受け取ろう。


「――」

「リシェルさん、ありがとうございます」


 心配そうに声をかけてくるリシェルさんに頭を下げると、安堵したような笑みが返ってきた。

 言葉は通じないけれど、気をかけてくれているということは分かる。


「さっきも言ったけど、あんまり思い詰めない方がいいわよ」

「分かっておりますわ。私も、すぐにフェルノートさんや、アルジェさんに追いつけるとは思っておりませんもの」


 私の母は、九本の尻尾を持つ大妖狐だった。

 その娘である私の尻尾は未だ母には届かない。

 フェルノートさんやアルジェさんは、本気になった母様と渡り合えるほどの実力者だ。尾の数が足りない子狐である私は、きっと並んで戦うには不足している。

 事実、先日の模擬戦で、もしも自分が『黒曜』と戦っていたらと言う自問への答えがでていない。


「でも……大きな戦いを前に、甘えは許されませんもの」

「それが気負いすぎだって言ってるのよ」

「ふぁんっ」


 ぺちん、とおでこを叩かれて、私は目を丸くした。

 先ほどよりも開けた視界の中で、二色の目が優しく細められる。


「……あなたたち、似たもの友達よね」

「え、な、なにがですの!?」

「友達のことは凄く心配するのに、自分のことには無頓着すぎるのよ。ある意味バランス取れてるんでしょうけど、ひとりになると途端に心配になるわ」

「う……そ、そうでしょうか……」


 自分ではそんなつもりはなかったのだけど、かなり心配させてしまっている気がする。

 居づらさを感じつつ見上げると、向けられてくる表情はどこまでも優しい。自分が子供であると言われているようで、ちょっと気恥ずかしくもある。


「まあ、気持ちは分かるわ。足手まといにはなりたくないし、なにより……アルジェが大事なんでしょう?」

「それはもちろんですわ。フェルノートさんだってそうでしょう」

「あ、えーと、それはまぁ……まあちょっと意味が違うって言うか、好きは好きでもええと……」

「フェルノートさん?」

「なっ、なんでもないわ! 好きよ! 凄く好き! 私にとっても恩人だしね!」


 元々、王国の騎士であるフェルノートさんは、任務中の怪我が元で一線を退いた。

 その彼女の失われた視力を取り戻したのがアルジェさんであると、そう聞いている。

 理由や経緯は違えど、私たちは同じようにアルジェさんに救われているのだ。


「だから気持ちは分かるから、空いてる時間でよければこうやって相手してあげるわ」

「ありがとうございますですの」


 フェルノートさんの実力は、今までの旅で知っている。

 だから安心して稽古を付けてもらえるので、全力で相手をしてもらっているところだ。


「……あんまり焦らないようにね。ほら、リシェルも心配そうにしてるし」

「――」

「……気をつけますわ」


 焦るなと、そう言われる程度には心配されてしまっているのだ。

 ずっと一緒に旅をしていた仲間からそう見えるなら、きっと私は焦っているのだろう。

 落ち着くために息を整えれば、草の匂いが心地良い。訓練場が外にあるというのは、ちょっと気持ちが良いものだった。


「気分転換に、アルジェのところにでも行ってきたら? どうせ寝てるでしょうし」

「……そう、ですね。では、今日のところはこれくらいで。ありがとうございましたわ、フェルノートさん」


 深々と頭を下げてから、私は訓練場をあとにした。

 アルジェさんと会える。そう思うだけで、自然と歩調は早まり、尻尾は揺れていた。

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