My Friend
「アルジェさん! 今日は鳥がたくさん捕れましたのよ! 一緒に食べましょう!」
「ありがとうございます、クズハちゃん」
ほこほこと湯気をあげる串焼きは、明らかに焼きたてだった。
タレのいい匂いに誘われるようにして手に取ってかぶりついてみると、甘辛いタレに、野性味のある鳥の味が良く合っていた。
焼き加減からして、クズハちゃんのお手製だろう。肉汁がしっかりあふれる絶妙の焼き具合は、これまでに何度も食べたことのあるものだ。
……料理、上手なんですよね。
恐らくは母親からの仕込みだろうけど、クズハちゃんはすごい。
その気になればどこにでもお嫁にいけそうな感じだ。
「タレ、美味しいですね」
「えへへ、アイリスさんに教わりましたの」
「そうですか……ありがとうございます」
「いえいえ! 隣、いいですの?」
「どうぞ」
友達が隣に座ることを、拒否する理由はない。
クズハちゃんは焼き鳥が山のようにのっかったお皿を僕の前に置くと、ちょこんと隣に座ってきた。
「労働後の食事は堪りませんわねぇ……はぐはぐ……我ながらバッチリですの」
「お疲れ様です、クズハちゃん」
「いえいえ。果物やお野菜は青葉さんがしてくれますけれど、やはりお肉も大事ですものね」
クズハちゃんは屈託のない笑顔で首を振ると、せっせと焼き鳥をかじりにかかる。
規模は帝国軍より小さいと言っても、やはり大所帯。食べる量の多いリシェルさんがいることもあるけれど、分身して狩りのできるクズハちゃんの存在は、反乱軍にとってもありがたいようだ。
「なんだかすっかり慣れてしまいましたわねえ」
「そうですね。と言っても、準備期間ですから。のんびりしているくらいが丁度いいんだと思います」
「……そうですわね」
僕の言葉にクズハちゃんは微笑んで、空になった串を置いた。
「アルジェさん。そういえば私、聞いていないことがありましたの」
「なんでしょうか」
「どうして、アルジェさんは旅をしているんですの?」
「それは……」
先日までの僕であれば、その言葉に即答できていただろう。
三食におやつとお昼寝、血液がついて、養ってもらえる生活。それを今でも求めていることに、嘘はない。
だけど今の旅は、その目標とは大きく離れてしまっている。
目標は帝都で、間違いなく戦うことになる。
「……問わなくてはいけないことがあるんです」
「問い、ですの?」
「……クロガネ・クオンさんは、僕の知り合いなんです」
前世で繋がりがある、という言葉は、さすがに紡げなかった。
それでも僕は今、クズハちゃんが目を丸くする程度には大きなことを明かしている。
見開かれた狐色の瞳に宿る感情がなんなのか。僕はそれを、知りたくないと思ってしまった。
「……だから、どうしてなのかと、問わなくてはいけないんです」
それでも、紡いだ言葉は取り消せない。
前世のこと、玖音のこと。言えないことは多い。
なんとか言葉を探しながら、僕は気持ちを口にした。
「どうしてと問うて、そうしないと……安心して、眠れないんですよ」
「……そうでしたの」
すぅ、と手が伸びてきて、僕は反射的に目を閉じた。
……どうして、こんなにも怖いんだろう。
そうだ、これは恐怖だ。理解した瞬間に、恐ろしさは寒気となって僕の背中を走る。
玖音から切り捨てられたときも、そのあとの生活も、死んだことすらも、怖いとは感じなかった。
なのに今、目を開けて友達の顔を見るだけのことが、こんなにも恐ろしい。
「大丈夫ですの」
触れられた感触は優しくて、あたたかかった。
ふわりとした柔らかいクッションと、彼女の匂いに包まれる。
瞳を開ければ、目の前にはクズハちゃんの胸があった。抱き寄せられていたらしい。
「……隠し事をしていたこと、怒ったりしていませんわ。だから、そんなふうに怖がらなくても大丈夫ですの」
「……でも、僕は」
「クロガネさんがやっていること、納得していないんですのよね?」
「……それは、もちろんです」
玖音の家としては、彼が正しいのかもしれない。
弱いものは淘汰され、強いものが残る。そしてその強いもののトップであり続けるというのが、玖音の考え方だ。
だから僕の方が異質なのだろう。
考え方があの世界にあっていなかった。ズレていたからこそ、僕はこの世界に転生した。
クロガネ・クオン。彼のやりかたを容認することは、僕にはできない。
「でしたら、アルジェさんは私が知っているとおりの人ですわ」
「クズハちゃんの……?」
「優しくて、寝てばかりで、面倒くさがりで、可愛くって……私が泣いたときに、そばに居てくれた。大切なお友達ですの」
髪に指を通されることを、嫌だとは思わなかった。
顔をあげれば、クズハちゃんは笑っている。まるで彼女の母親がそうしていたように、慈悲深い微笑みだった。
「あなたが悲しいとき、きっと私は傍にいます。そう決めたんですの」
「……ありがとうございます、クズハちゃん」
「……もう少しだけ、このままでいますわね」
「はい……もう、少しだけ」
身体の震えが治まるまでの間、僕はクズハちゃんに抱かれていた。
年下の女の子に甘えるというのは、どこか気恥しいことでもあったけれど、友達という言葉が、それを和らげてくれた。




