湯けむりの会議場
「はふぅ……」
あたたかなお湯の温度が、先ほどまでの恥ずかしさを少しだけほぐしてくれる。
転生したばかりの頃は、回復魔法で身綺麗にできるからお風呂に入るのも億劫だと思っていたけれど、最近はお風呂の気持ちよさが結構好きになってきた。
「それで、反乱軍は結局、協力してくれるのかしら?」
「まずは話を聞いてからだ。成功率が低いと思ったら、蹴らせてもらう」
「……その割に、あっさりと拠点に案内してくれたようですが」
「なにも、要請を蹴ったからといって君たちが帝国に私たちの拠点をバラすとは思えないからね」
湯船に浮かんだシオンさんの髪をさらさらと指に絡めつつ、ギンカさんはそう応える。
……お互いの目標、ですからね。
たとえ協力ができないとしても、お互いの目指すところが帝都ということはハッキリしている。
ならばお互いに不可侵であるべきで、拠点のことも漏れることは無いと、そういうことだろう。
「……そっちの子に甘えられたから私たちを連れてきたわけじゃないのね。少し、安心したわ」
「心配には及ばない。八割の理由はそれだ」
「急激に心配になってきたわ……!」
ギンカさんにとって、そっちの方が大切だったらしい。
「仲がよろしいんですのね……」
「もちろん。ギンカさんは私の王子様ですから」
「うん。シオンは、私のお姫様だね」
一糸まとわぬ姿になってもぴったりと引っ付いて、お互いの肌の感触を確かめ合うかのようにしているふたりは、どうみてもラブラブだ。
見たところ女性同士に見えるけど、シオンさんのほうはよく見ると『なにもない』。
……無性別、なんですかね。
吸血鬼も精霊に近い種族だけど、ほかの精霊のことはよく知らない。
人工精霊と言っていたけれど、だとしたらイグジスタと同じで、誰かに造られたということになる。その過程で、性別は不要だとされた。そんなところだろうか。
本人たちがお姫様だと言っている以上、女性扱いでいいのだろうけど……。
「アルジェさん、あの人……」
「ええ、ちょっと気になりますね」
彼女は僕と青葉さんを指して、『久遠から来たようだ』と言っていた。
発音は違えど、クオン。その辺が、青葉さんとしても引っかかりなのだろう。まさか、この人も玖音の元関係者だったりするのだろうか。
「はふぅ、気持ちいいですねえ……」
ただひとり、状況をあまり理解していないリシェルさんは素直にお湯を楽しんでいる様子だ。
難しい話は僕が後ですればいいので、構わないだろう。
「それで、具体的にはどうやって落とす?」
「今は帝国の兵もあちこちに出張っていて、手薄でしょう?」
「周辺はな。さすがに、帝都はそうはいかない。直属の部隊である猟犬どもと、吸血鬼の兵士たちが昼夜を問わず詰めている」
「昼間の方が手薄?」
「……帝国は、常に夜だ」
「いつも夜……?」
疑問符を作ったクズハちゃんに、シオンさんがゆるゆると頷いて、
「魔具の効果ですね。あそこは常に月が浮かんでいるのと同じ状態になっています」
「……つまり、いつ行っても吸血鬼兵がいるってことね」
あてが外れた、という感じでフェルノートさんが溜め息を吐いた。それだけで胸元が揺れるから、相変わらずボリュームがすごい。
「そうなると、海からも難しそうね。帝国には海に面してもいるから、船で上陸、というのも考えていたのだけど」
「吸血鬼は空も飛べますから、沈められて終わりですね〜」
「……尚更、反乱軍には手伝ってほしいところね」
「一度の反抗作戦で帝都を落とすくらいでなければ困る。消耗戦は不利だからな」
反乱軍の規模がどれほどかは分からないけれど、数の上でも、質の上でも帝国の方が上だろう。
長年戦争をしてきているくらいには人が足りているようだし、なにより向こうには玖音の家の技術者がいる。
「そういうことなら、こっちも同じよ。数は見てのとおり、これだけだもの」
「状況は一致しているということか」
「実力が不安なら、試してもいいわよ?」
「……そうだな。それも、悪くないだろう」
大人同士ということもあるのか、話が早い。
ざぶん、と水の音を立てて、フェルノートさんとギンカさんが湯船から出る。
「シオン、ゆっくりつかっているといい」
「はーい。あとで行きますね、ギンカさん!」
「アルジェたちも、のんびりしてなさい。こっちでやっておくわ」
「はい、フェルノートさん。よろしくお願いします」
ゆったりとした様子で、ふたりはお風呂から出ていった。
「ふふ、生真面目同士、気が合うんですかね?」
状況を楽しむようにして、シオンさんが笑い声をこぼした。




