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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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まどろめないこころ

 ……寝られるわけないでしょうがー!!!


 心の中からの叫びを、私は喉元で押さえつける。

 なぜって、アルラウネは睡眠の必要が無い種族だから。

 けれど、たとえ睡眠ができる種族だったとしても、この状況で寝るのは無理だっただろう。

 なにせ銀士さんが目の前で眠っているのだ。そんな状況で、のんびり眠っていられるはずがない。


 アルラウネとして転生した私と同じように、銀士さんは吸血鬼として転生を果たしている。

 その上、彼は今、彼女と呼ぶ方が正しい存在に、つまり女性としてこの世界で生きている。


「うううっ……」


 今の彼女は銀士さんと違う顔で、違う声で、違う性別で。

 だけど銀士さんと同じ表情で、同じ雰囲気で、同じ心で。


「無防備すぎですっ……」


 触れられる距離にいて寝姿を晒してくれるなんて、嬉しすぎる。


「はあ……」


 溜め息を吐きながら、転生したときのことを思い出す。

 あのとき私は、転生担当の神の御使いとやらに対して、


「私の気持ちは永遠に実ることがないから、転生など無意味ですよ」


 そう言って、転生することを拒んだのだ。

 あのとき、転生担当の御使いはただ少しだけ微笑んで、乗り気ではない私を無理やり転生へと導いた。

 思えばあのときに、御使いは既に分かっていたのだろう。この世界に、銀士さんがいることを。


 それを知らなかった私は転生したところでやることも思いつかず、真面目に生きる気力がそれほどあったわけでもなく、ただ何者にも邪魔されずに花を愛でるだけの空間がほしかった。

 だから私は領地を持ち、そこに引きこもるという選択肢を選ぶことにした。


「ダメですね……」


 諦めていた人に、もう一度会えた。

 それは枯れた花が再び咲くような奇跡で、私にとってなによりも意味があることだった。

 いい歳をして、それも年下の親戚に恋するなんてバカのようだけど、私にとって彼はなによりも愛おしい人だったのだ。


「銀士さん、私……あなたが死んだとき、側にいられなかったんですよ」


 そもそも彼は、既に玖音にとって不要な存在だった。

 だから彼が死んでしまっても、誰かに便りが行くことはなく、秘密裏に処理された。

 私が彼の死を知ったのは、既になにもかもが終わり、彼を閉じ込めていた牢屋が空になったあとだった。


「私はあなたにまた来ますと言って、その『また』が、永遠に来なかったんです……!」


 思い出しても涙がこぼれそうになるほど、それは悔しいことだった。

 約束を果たすどころか、サヨナラを言うことすら許されずに、銀士さんという命は暗い世界で枯れてしまった。

 いつか助け出そうと思って、そのための手回しを少しずつ、少しずつやっていたのに、それがすべて叶う前に終わってしまった。そして私はそれを、知ることすらできなかった。


 そんな世界に、いい歳をして恋をした私の心のひとつも救ってくれないような世界に、未練なんてあるはずがなかった。


「顔が変わったって、違う人だなんて思えるわけないでしょうが……」


 大好きな人なのだ。

 たとえ顔が変わっても、聞いたことのない声になっていても、性別が違っていても、吸血鬼以外のなにかに生まれ変わっていたとしても。


 この胸の高鳴りが、変わるわけがない。

 この心の愛しさが、消えるはずがない。


「すやぁ……」

「……無防備に寝てくれちゃって」


 こっちの気も知らずに、相手は爆睡している。鼻ちょうちんまで作ってさぞ気持ちよさそうだ。

 本来なら腹立たしさすら覚えても仕方がないシチュエーションなのに、それよりもずっと愛しさが大きくて、顔がにやけてしまう。


 このままこの人と一緒に花に包まれて、誰にも邪魔されずに暮らしたい。そんな気持ちに従ってしまいそうになるほど、今の私は心が乱れている。

 もう一度会いたいと思っていた。それだけでいいとさえ願って涙を流し、最後には血を流して命を捨てた。

 だというのに、いざもう一度出会ってしまったら、私の心はワガママばかりを叫ぶ。もっとこの人の近くにいたいと騒ぎ立てる。なんてややこしい女なのか。


「……心臓がなくてよかったです」


 アルラウネには臓腑はなく、この身には血液ではなく蜜が流れている。

 だから私の心臓は叫ばない。あれば今頃破裂してしまっているかもしれない。それくらい、銀士さんと寝床を共にするということは嬉しいことだった。

 それでも、体温は明らかに高くなっているのが分かる。興奮によって、身体の中を巡っている蜜が高速で動いているせいだ。


「大好きなんだから、今度こそ放しませんからね……?」


 ワガママになっていることを自覚しながらも、私はそれを止めたいとは思わなかった。

 一度は諦めるしなかったものが、今こうして身近にあるのだ。

 もう二度と失いたくない気持ちを隠すことなく、私は彼に寄り添う。


「……いつか、そんなふうにスヤスヤ眠ってなんかいられないくらい、夢中にさせて見せますから」


 自分だけがドキドキしているという状況に捨て台詞を吐いて、私は瞳を閉じた。

 私はもはや眠れない種族だけど、このままずっと彼の顔を見ていたら、どんどんワガママになってしまいそうだから。

 優しい時間に浸る愛しい人に合わせて、今の私はただ、花のように静かにしていることにする。

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