吸血鬼さんはやっぱり働きたくない
「あふぅ」
朝一番。一通りの会話が終わり、僕は欠伸をひとつこぼした。
会話と言っても、血の契約技能の念話であり、お相手は僕の愛馬であるネグセオーだ。
共和国のサツキさんのところで待っているということを伝えたところ、彼からは了解が返ってきた。
安全なところにいるので、無理せずのんびり来てほしいということも伝えてある。そもそも魔法も併用したとはいえ馬に乗って無理やり海を渡ったのだから、クズハちゃんもネグセオーも相当に疲れているはずだ。まずは自分のことを大事にしてほしい。
ムツキさんがフェルノートさんたちを連れてきてくれるのにも日数がかかるそうなので、そういう意味でも急かす必要はない。
「さて、連絡はしましたし、のんびりもう一眠りでも――」
「――なんてさせると思いましたか! アルジェちゃん確保ー!!」
「ふにゃ!?」
通信を終えて、二度寝に興じようとしたところで、部屋のドアが開けられた。
やってきたのは、喫茶店メイの店長、サツキさんだ。吸血鬼だと言うのに朝からハイテンションの彼女は、素早くベッドへと移動して、予想通りのものをこちらに渡してきた。
「はい、これアルジェちゃんの制服。ばっちり取っておきましたからね」
「……えーと」
「まだ忙しくない時間帯なので、今のうちにパパっと着替えてください。あ、私のことは気にしないでくださいね、どうぞ置物だと思っていただいて構いませんので、ささ、ずいっと着替えを」
「……これ、着ないとダメですか?」
サツキさんが用意してきたのは、喫茶店メイの制服だ。それも、僕のサイズにぴったりと合うもの。
前にお店のお手伝いをしたことがあるのだけど、そのときのものをわざわざ残しておいたらしい。
つまりは、お店の手伝いをしてほしいということだろう。ふりふりの可愛い、女の子らしい服装をして。
「それはもちろんです! 見てくださいこのフリル! スカート! 胸元! どれをとっても完璧に私のお店にベストマッチ。凄いでしょう、これを考えた人は天才でしょう!? つまり私なんですけどね!」
「あ、う、いえ、あの、そういうことでは無くて……」
恥ずかしいということを言いたかったのだけど、通じていないらしい。いや、分かっていて無視されているのか。
断るという選択肢ももちろんあるのだけど、サツキさんにお世話になっているのは本当なので、正直断りづらい。なにせこの部屋で寝泊まりできるのは、彼女がそれを許してくれるからなのだから。
どうしたものかと思っていると、来客が増えた。
「アルジェさん? 随分と騒がしいようですが……」
「あら、アオバさんじゃないですか、おはようございます」
「サツキさん……どうしてここに?」
「ふっ……可愛い子あるところ、サツキちゃんありです……」
ドヤ顔で腕を組んで自分のおっぱいを持ち上げているけれど、ちょっと意味が分からなかった。
「まあざっくり言うと、アルジェちゃんに可愛い服を着せようとしています」
「手伝いましょう。むしろぜひ手伝わせてください」
「青葉さん!?」
どういうわけか青葉さんが敵になった。
しゅるりと彼女のツタが伸びて、僕の足を掴んできた。
もちろんはじめから逃げるつもりまではなかったのだけど、これでは身動きが取れない。
「あ、あの、青葉さん……?」
「ごめんなさい、でも、とても好奇心が抑えられなくて……ああ、ああ……どんなに可愛い羞恥の花が咲くのでしょう……ふふふ……」
「あ、う……」
青葉さんはうっとりとした様子で、こちらにじわじわとにじり寄ってくる。
もちろんこのくらいの物理的拘束ならば霧化すれば抜けられるのだけど、それをすると本格的に追いかけっこになってしまうので、はばかられる。
「ふふ……可愛い姿、見せてくださいね……?」
「さあ、覚悟はいいですか? 念仏は唱えました? 神様にお祈りは? 部屋の隅でぶるぶる震えて恥ずかしがる準備はオッケー?」
「や、ふ、ふたりとも、ちょっと待っ……ひにゃぁぁぁぁぁ!?」
どうにかして許してもらおうと思ったけれど、それは叶うことはなく。
未だに自分の口から出ることに慣れない可愛い悲鳴が、部屋の中に響いた。




