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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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繋げるもの

「さて、それでは全員、立て直しだ。基本は変わらない。住民を避難させ、海賊は潰せ。もはや海賊からの砲撃はない。なにより、こちらには潮風の女神とまで呼ばれた勝利の女神がついている。負傷者は死なせる前に彼女のところへと連れてきたまえ!」

「領主様、部隊分けは」

「無事なもの、回復を得たものから再編してバランスよく配置する。ここから町の端まで虱潰しにしろ、ひとりも逃すな! 王の御前で、失態は許されん!」

「サマカー、私は?」

「ユズリハ君は自由に動け。その方がいいだろう。手が足りないところを任せた。私の護衛は不要だ」

「分かった。行く」

「サマカー様、私はどうしましょう~?」

「エルデラ君はいつも通り、私の側に」

「はぁ~い」


 サマカーさんはテキパキと指示を飛ばして、兵士さんたちを編成していく。

 海からの砲撃がなくなったこともあって、手際よく指示通りに人が動いた。

 そして準備ができた兵士さんたちから、海賊の掃討へと乗り出していく。

 敵が帰るべき船を僕が沈めてしまったので、もう完全に勝敗は決していると見ていいだろう。

 サマカーさんの言うとおり、あとは消化試合のようなものだ。残存する勢力を完全に潰すか、降伏させればこの騒ぎは収まる。


「はい、痛いの痛いのとんでいけーっと」


 そんな中で、僕の仕事は負傷者を回復させるだけの楽なものだ。

 転生するときに得た、カンストレベルの回復魔法。

 死んでさえいなければ怪我だろうと病気だろうと呪いだろうと治してしまうという馬鹿げた効果が、傷ついた人々を癒していく。


「……こうして己の目で見るのははじめてだが、凄いものだな」

「それはどうも……ふわぁ」


 サマカーさんが感嘆したような声を出しているので適当に返事をして、僕は欠伸をひとつ。

 もうすっかり落ち着いたので、先ほどのような不愉快はすっかりと消え失せている。まったく、僕らしくないことをしてしまった。

 部隊の再編はすぐに終わり、回復役である僕がいるここを中心地点として、掃討が開始される。

 港には僕とサマカーさん、エルデラさん、そして最小限の護衛としていくらかの兵士さんが残った。戦闘能力のない一般市民の人たちは、兵士さんたちが安全なところへと連れて行く。


「……僕としてはこの流れがすぐできることも相当凄いことだと思いますが」

「ふっ。うちの兵士たちは皆、優秀だからね」


 褒められて嬉しいらしく、サマカーさんは渾身のドヤ顔をキメる。

 相変わらずキノコカットなヘアスタイルな上に妙に派手な恰好なのでまったくキマっていないのだけど、本人が嬉しそうなので放っておこう。


「相変わらず、サマカー様はドヤ顔が可愛くもカッコよくもないですね~」

「……エルデラ君。君は私の妻だということを忘れてないかね?」

「今は公私の『公』なので、冗談はなしですよ~」


 あ、結構がっくり来てる。どうもエルデラさんは、三十人だか四十人もいる妻のひとりらしい。

 心なしかキノコヘアーをしなびさせつつも、サマカーさんはヤケクソ気味に指示を飛ばす。その様子を眺めてエルデラさんはニコニコ顔で、


「まあ、キメ顔はともかく、総括すると無茶苦茶かっこいいとは思ってるんですけどね~」

「それ、本人の前で言った方がいいのでは……?」

「いやぁ~、それは公私の『私』の方で~♪」


 遠回しに惚気が来たので、素直に頷いて聞き流しておいた。

 周囲を見れば、殆どの人が安堵の表情をしている。それはやはり、サマカーさんという領主の存在が大きいのだろう。

 彼は変な人だと思うし、領民にすら種馬だとか呼ばれているし、実際に女好きで何十人も妻がいる。

 だけどそれは裏を返せばそう気軽に呼ばれてしまうくらい領民に愛されていると言えるし、それだけの女性を抱えるだけの器量があるとも言える。そして港町という重要拠点を任されているのだから、間違いなく有能なのだろう。


「……っ!?」


 改めてサマカーさんの有能さを理解したところで、衝撃が起きた。

 それは爆発の音で、つまりは襲撃の音だった。

 港へと残った数少ない護衛の兵士たちを吹き飛ばして路地裏から現れたのは、数にして五名の海賊たちだった。


「あら、こんなに近くにまだいたんですね~」


 エルデラさんの気軽な言葉とは裏腹に、海賊たちは血走った瞳をぎらつかせて、それぞれの武器を抜く。

 明らかな殺気をぶつけられつつも、サマカーさんは彼らへと言葉を投げた。


「ふむ。破れかぶれになった、そんなところか。どうだろう、君たち。降伏してくれるならこちらも楽なので、寛大な処置を施すが?」

「うるせぇ! 降伏なんぞ誰がするか!!」

「……では、少々荒っぽくなるが。みんな、下がっていたまえ」


 それは意外な指示だった。

 そしてその指示に従って、兵士さんたちは素直に下がってしまう。いくら本人からの言葉とはいえ、守るべき上司を置いて、大きく離れたのだ。


「サマカーさん……?」

「アルジェント。君は今ので負傷した私の部下を治しておいてくれないか。……さて、海賊諸君。これ以上私の部下を傷付けられるのも不愉快だ。なので君たちは、私が直々に片付けよう」

「領主が前に出るなんて、馬鹿じゃねえのか!?」

「殺さねえ程度に痛めつけて、人質にしてやらあ!!」

「やるぞ、お前ら! どの道ここを切り抜けなきゃ、捕まるんだからな!!」


 海賊たちの言うとおりだ。

 帰るべき場所である船を失った彼らに助かる目があるとすれば、サマカーさんを捕まえて、その身柄と引き換えに自分たちの身の安全を保証させるくらいのものだ。


 相手の狙いが分かっている上で、サマカーさんは前に出たのだろう。そうすれば、自分の部下が傷付かないから。

 本来ならばそれは愚かな選択なのかもしれないけれど、部下想いな彼らしくもある。


「エルデラさん、サマカーさんって強いんですか?」


 本来なら、僕は自分の技能のひとつであるブラッドリーディングの効果で、ある程度の強さを把握することができる。相手の血の匂いから、だいたいの実力を予測できるのだ。

 ただ、サマカーさんの場合は彼がつけている香水の匂いが強すぎて、いまいち強さが分からない。

 エルデラさんは僕の言葉ににっこりと笑って、


「サマカー様はそんなに強くありませんが、私たちが強いので大丈夫ですよ~」

「へ……?」


 疑問符を浮かべる僕の目の前で、サマカーさんは懐からゆっくりと小さな箱を取り出した。

 その箱は手のひらに収まる小ささだった。彼はゆっくりと箱を開く。


「さて、それでは始めようか。『分かたれぬ円環』」


 言葉が響き、サマカーさんがそれを身につける。

 箱から取り出されたものは、指輪だった。

 左の薬指にすっぽりと収まったそれは白銀の色を宿し、僕の世界で言うところの結婚指輪と同じものに見える。

 ゆったりとした動作でその動きを終えた彼の元へ、海賊たちがやってきた。


「死ね……!」

「死んだら人質にはできないのではないかね……エルデラ」


 サマカーさんが桃色の髪の女性の名前を呼ぶ。

 それは今、僕の隣りにいる彼女へと放ったのではなく、ただ独白のような言葉だった。

 そして、サマカーさんの動きが明確に変わった。


「ぐっ……!?」


 海賊が呻くのも、無理はない。

 サマカーさんは向かってきた相手へと一瞬で距離を詰め、すれ違いざまに剣を抜き、振るった。

 通常であれば反応ができないほどの速度での動きと、剣筋。それは僕の動体視力を持ってしても、早いと思えるほどの速度だった。


「ドリゼッタ、頼もう」


 追加で呼ばれる名前は、僕が知らないものだ。誰かの名前を呼びながらも、サマカーさんは戦闘の動きを繋げていく。

 血しぶきを置き去りにするように前に出て、彼は懐からナイフを抜く。迷うこと無くそれを投じれば、吸い込まれるようにして海賊の右腿に突き刺さった。

 サマカーさんは投じた短剣を見届けることすらせず、うめき声を裂くようにして更に自らの側にいる海賊へと剣を振るった。急所を外しつつも、正確に相手を無力化していく。


「これで三人……面倒だな。ジルフィ、惑わせてくれるかね」


 指輪をはめた左手を振り、サマカーさんが言葉を紡ぐ。

 広がった魔力の波は、僕にとって心地が良いものだった。


 ……闇属性の魔法ですね。


 肌に触れる魔法の質も、最近は分かるようになってきた。

 サマカーさんが使った魔法は、闇属性。そしてその効果は、見ていればすぐに理解できた。

 ふたりの海賊がお互いの武器でお互いを傷つけて、同士討ちをしたのだ。

 惑わせるという言葉から判断するに、サマカーさんが幻覚を見せる魔法でも使ったのだろう。


「……これで片付いたな。アルジェント。すまないが、この賊たちの傷の治療を頼めるか。捕縛はこちらでやる。君は血を使うな」

「ええと、それは構いませんが……サマカーさん、今のって……魔具(アーティファクト)、ですよね?」

「ああ。確かにこの『分かたれぬ円環』は魔具(アーティファクト)だ。残念ながら、本来の私は凡庸な男でね。妻の助けがあって、なんとか戦えている」

「『分かたれぬ円環』は、同意を受けた相手の技能を自分で使えるようにする効果があるんですよ~。ただし、同意した相手は技能をすべて失いますけどね~」

「……それって」

「はい。サマカー様の妻になるということは、ただの女になるということです~」


 エルデラさんはあくまでにこやかに、軽い調子で言葉を作る。けれど、実際にはそれは軽いことではない。

 この世界では技能というステータスで、大まかな実力が管理されている。魔法や剣術、投擲や鑑定に至るまで、あらゆる技術が、技能という枠組みに収まっているのだ。

 その技能を相手にすべて渡してしまうのが、サマカーさんの魔具(アーティファクト)の効果だと言う。

 同意が無ければできないとはいえ、あらゆる意味でとんでもない効果だ。望めば無限に技能が手に入ることもそうだし、技能を渡してしまったら、この世界ではなんの能力もない人になってしまう。

 思考や判断能力などは技能には左右されないから完全になにもできなくなってしまうわけではないけれど、それでもかなり大きいことだろう。


「……サマカー様は私たちのことを背負ってくれる人だから、こうしていっしょにいるんですよ~」

「……そうですか」


 きっとエルデラさんがそうして微笑むのが、すべての答えなのだろう。

 彼女たちにとってサマカーさんは自分の能力をすべて渡してしまってもいいと思えるくらいに真剣で、そして実際に背負ってしまう。

 彼は本当に真剣に、何十人といる自分の妻を愛して、大切にしているのだ。そしてその気持ちは確かに妻に伝わっている。でなければ、自分の技能を渡すなんてことはしない。


「……いい人なんですねえ。痛いの痛いの飛んでいけっと」


 捕縛されてきた海賊と、負傷した兵士さんを回復させながら、僕は素直に頷いた。

 やっぱりサマカーさんは女好きで変態でちょっと気持ち悪いけど、いい人なのは間違いなさそうだ。


「どうだね、アルジェント! 今ので私に惚れたりしていないか!?」

「あ、それはないので大丈夫です」

「……そうかぁ」


 真剣に残念そうなあたり、本当に女好きだった。

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