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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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大金庫の管理人

「はぁ……まったく、しつこいったらない」


 一通りの戦闘を終え、焼け野原となった周囲を見渡し、私は溜め息を吐いた。

 世界で唯一通用するシリル硬貨。それを造っているのが、ここだ。

 目先の欲に囚われた馬鹿者たちは、ひっきりなしにやってきてはこの場所を占拠しようとしてくる。

 それを防ぐのも、私の役目だ。この大金庫の精霊である、私の。


「そもそもここが陥落したら、経済が崩壊するっての」


 シリル硬貨がただひとつの通貨として認められているのは、その安全性と偽造防止の施しゆえだ。

 そのシリル硬貨から安全だという保証が無くなれば、世界は混乱に陥る。そうなれば当然、硬貨の価値も無くなる。

 金が欲しいなら、ここを攻めるのはっきり言って逆効果だ。


「そんなことも分からない俗物のくせに……ようやく帰ってきたシリルとの団欒を邪魔して……」


 シリルとの大切な時間。

 それを少しでも奪われてしまったことが、とてつもなく不愉快だ。

 まして、盗賊団は軒並み取り逃してしまった。いっそ鮮やかと言えるほどの退散ぶりで、捕えることも殺すことも出来なかった。

 攻め落とすことが不可能だと理解した瞬間に、全員が引き上げた。盗賊団とは思えないほどの統制ぶりだった。


「そこまで頭が回るのに、なぜここを攻める無意味さが分からないのか……まったく、あんな馬鹿みたいな格好して」


 本当に盗賊かと疑いたくなるような恰好をした首領に率いられた、妙な盗賊団。

 二度とくるなという思いを込めて、私はゴーレムに命令する。


「入口に塩を撒いておいてくれ。それと、周辺の地形の整備も頼むよ」


 塩を撒くのは昔シリルに聞いた、厄除けの儀式。

 荒れてしまった地形も綺麗にして、シリルが気持ちよく外を見られるようにしなくては。


 ゴーレムはなにかを語ることは無いけれど、いつだって私の言葉に忠実だ。

 同じようにシリルに造られた私たちは感覚を共有していて、見聞きしたものを同じように感じることができる。


「……シリルの姿が見えない」


 その力を使って探してみれば、シリルが見当たらなかった。

 ゴーレムの数は多く、私がなにもしなくても一定の数が保たれるようにシリルが生産ラインを確立させている。

 そのゴーレムたちが見回っている大金庫の中にいるのに、どこにいるか分からないとなると――


「――トイレかな?」


 あそこはさすがに監視の目が薄い。こう、いろいろと、プライバシーとかの問題で。

 つまりはシリルも私も、見られてると出づらいたちだということだ。


 少し待てばいいか。そう考え、私は大金庫の中へと戻った。

 背後、入口が閉まる音に紛れるようにして、足音が聞こえた。

 二人分の足音の主を、私は知っている。今しがた、ゴーレムの瞳に映ったばかりだからだ。


「少し、いいかしら?」


 廊下の奥から現れるなり私に言葉をかけてきたのは、鮮やかなオッドアイの女性。誰と言ったか。シリル以外に興味が無いから覚えてないな。もちろん、その傍らにいる狐耳少女の名前も知らん。

 本来なら無視してシリルのところに戻りたいところだが、彼女はシリルの友人だ。無下にするわけにもいかない。


「なにかな、お客人」

「少しここを案内してほしいのだけど、頼めるかしら?」

「それならゴーレムに頼むといい。ものは言わないが、お客人が入ってもいいところならばどこへなりと連れていってくれる。優秀なのでね」


 シリルが造ったゴーレムたちは本当に優秀で、大抵の雑事はこなしてしまう。

 しいて欠点を挙げるとすれば、喋らないことくらいだろう。それだけが唯一の欠点で、少しばかり、寂しさを感じるところだ。

 言葉を返したところで、一歩前に出るものがいた。

 金毛が鮮やかな、狐耳の少女。伸長差の問題からこちらを見上げるような形になった彼女は、こてんと首を傾げて、


「解説付きで下から順番に見ていきたいんですの……ダメ、でしょうか?」

「ふむ……」

「折角こういうところに来たのだから、シリルさんがどういう風にここを造ったのか、見たいらしいのよ。なかなか無い機会だし、頼めないかしら?」


 畳み掛けるように、保護者からの言葉が追加された。

 そこまで言われると、少し困ってしまう。

 解説はゴーレムにはできない。語らない彼らには、どうしてもその機能は欠けている。

 思案に使った時間は数秒。決めた心を確定させるため、私は一度、愛用の杖で床を突いた。


「いいだろう。案内を引き受けよう」


 この大金庫と、ここにある機械はシリルの英智の結晶。

 ここよりも『技術』の使われた建物は、世界中を探し待っても他にはないはずだ。

 さすがに貨幣を生産しているラインや、ゴーレムのことなど、全部を説明するわけにはいかない。それでも、概要くらいは話してもいいだろう。

 シリルの偉業が多くの人に広まるのは、私としても嬉しいところだ。

 今の時代、あらゆる国の学舎(まなびや)でシリルのことは教えられると聞いているが、実際にその技術に触れてみれば、また違った感動もあるだろう。


「まあ、いいんですの!? ありがとうございます!」

「うむ。勉強熱心な娘さんですね。実に関心だ」

「……言っておくけど、私の娘じゃないわよ」

「む? そうなのかい? それは失礼」


 仲がいいから、てっきり親子かなにかかと思ったが違うようだ。

 獣人と人間のハーフくらいなら珍しくないし、彼女の見た目の年齢的に子供くらいいてもおかしくないと思ったのだが。

 あまり掘り返すとなんらかの地雷を踏みそうなので、軽く謝って終わりとしてしまう。

 案内しているうちにシリルも出てくるだろうし、手早く仕事を片付けてしまおう。


「それでは、案内しよう。お客人」


 ちょうどよく、この場所は入口だ。ここから頂上まで案内すれば、それが最短で最適なルートとなる。

 ゴーレムたちにシリルを見つけたら連れてくるようにと指示を飛ばして、私は客人の案内を始めた。


「まず、君たちがはじめに私と会ったホールから案内しよう。あそこは客人をもてなす場所で、シリルの心遣いが随所にあってね」

「そう。さっきはよく見て回れなかったから、楽しみね」

「うむ。その次は厩舎(きゅうしゃ)なんてどうだろう。客人の馬を繋ぐ場所で、もちろん配慮は行き届いている。外の光は取り入れられないが、馬たちが過ごしやすいように造られているよ」

「それもやはり、シリルさんの手によるものなんですの?」

「もちろん。シリルはいつだって、お客人への配慮を忘れなかったからね」


 この大金庫は外からの攻撃に対する備えも勿論だが、中で暮らす人間や客人の快適さにもきちんと配慮した造りになっている。

 ここはシリルの夢の体現であり、安らいだ時間を過ごす場所で、友人を呼ぶ家だった。

 シリルが行方不明になってからは、来訪するものは商人魔法を使った行商人くらいしかいなかったが、これからはまた人を呼ぶ機会も増えるのだろう。案内ついでに、メンテナンスが必要そうな箇所も見ておこうか。


 ついでの目的もできたので、案内にも熱が入った。

 中層の半ばに差し掛かる頃には、自分でも思った以上に時間が経っていた。


「次は……図書室が近いな。蔵書はほとんどが共和国語のものだから、君たちにも読めるだろう。たまに古代精霊言語で書かれているものもあるが、そっちはシリルの趣味の本で、私にはどういうものなのか分からないんだ」


 私は人工の精霊として生まれ、ここで育ち、ここで生きてきた。

 シリルに教えられた言葉は共和国語で、古代精霊言語は覚えていないのだ。


「あ……いえ、図書室は行かなくてもいいですわ、先ほど見ましたもの」

「おや、そうなのかい?」

「……ええ。あなたを探す間に、そこは覗いたのよ」

「む、なんだ覗いた程度なんじゃないか。それなら改めて案内してあげよう」

「ちょ、ちょっと待って下さいですの!」


 気を取り直して歩こうとしたところで、狐の子から声がかかった。

 慌てているのか、少女はどこか落ち着かない様子でいる。

 彼女は行き場を求めるように視線をさまよわせ、やがて救いを見つけたような顔で、


「お、おトイレですの!」

「ああ、なるほど」


 もじもじしていると思ったら、そういうことか。


 ……気遣いが足りなかったな。


 シリルから「他人への気遣いを覚えろ」と何度も言われていたのに、すっぽりと抜けてしまっていた。

 長い間、他人と接していなかったのでそのせいもあると思うが、相手は子供だ。大人である私が配慮すべきだったのに、失してしまった。


「すまない。すぐに案内しよう」


 頭を下げ、目的の方へと足を向ける。


「少し、いいですか?」


 その瞬間、私はすべてを忘れた。

 なにもかもがどうでもよくなる声が、聞こえてきたからだった。

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