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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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君は僕に似ている

 シリル大金庫、中層。

 来客のために用意されているという大部屋に、僕たちは集められていた。


「……どういうことなの、あれは」


 フェルノートさんが困惑したような声を漏らすけど、それに答えられる人はいなかった。当人である僕自身にも、どういうことなのか分からない。

 シリルさんと僕が似ている――というより、髪と目の色、服装を除けば、僕らの容姿はほぼ同一だった。しいて違いがあるとすれば、描かれていたシリルさんの右目の下には、小さな泣きぼくろがあったことくらいだろう。


「瓜二つ……双子の姉妹と言われても、信じられますわね」

「ゲームの2Pカラーみたいでしたね」

「つーぴー?」

「ああ、いえ。なんでもありません」


 いけない、考えていることがついダダ漏れに。

 頭を切り替えて、少し考えてみる。

 シリルさんと僕がとても似ているのは、紛れもない事実だ。

 あまりにも似ている僕と彼女。これは一体どういうことなのか。

 転生する前にいろいろと説明してくれた神様の御使い――ロリジジイさんがまったく説明してくれなかったことを考えると、偶然だと結論するのが自然だけど……偶然と言う言葉で片付けてしまうには、僕達は似すぎている。


「アルジェさん、お姉さんがいたんですの?」

「吸血鬼はそもそも自然発生型のデミ・ヒューマンだから、肉親というものは存在しないよ、クズハちゃん」

「あ……そうですわね」


 ゼノくんの言う通りだ。吸血鬼には血の繋がりはない。

 あるとすれば血の契約技能による繋がりで、誰かから生まれる存在ではない。

 共和国の首都、サクラノミヤで喫茶店を営んでいるサツキさんとアイリスさんは同じ姓を名乗っているけれど、あれは気分と言うか在り方として家族であるという証だ。僕にはそんなものを結んだ相手はいない。いたとしたらその人に養ってもらう。


「……どちらにせよ、ここから出られないのは困るわね」


 フェルノートさんの言うように、今、僕たちは事実上の監禁状態にある。

 僕のことをシリルと呼ぶ大金庫の管理人が、入口を閉じてしまったからだ。


「シリルはここにいて当たり前だよ、だってここはシリルの家なんだから。他の人は出て行くのならご自由に。シリルの友人なら、滞在を歓迎するよ」


 というのが管理人さんの言い分だけど、僕はシリルさんではないので困ってしまった。

 魔大陸に行くには僕の持ち物である商船、ピスケス号を使う手はずになっている。僕がここから離れられないなら、他のみんなも出てはいけない。

 逆に僕ひとりならどうとでも逃げられるような気がするので、先にみんなに出ていってもらってあとから合流するのでもいいのだけど……。


「……失った人が帰ってきた、ですか」


 彼女に起きたことを考えると、黙って逃げてしまうのは気が引けるというのが正直な気持ちだ。

 あの人の涙も、嬉しそうな声も間違いなく本物だった。たとえ勘違いだとしても、彼女が本当に心から喜んでいるということくらいは、鈍感な僕でも分かる。


 僕の周囲も、きっとそれが分かるから誰もが「放っておこう」とは言わないのだろう。

 特にクズハちゃんがかなり大人しいのは、自分のことと相手を重ねているからかもしれない。彼女も母親という、大切な人を失っているから。


「……あのう、なにか問題がございましたか?」


 ただひとり、言葉が通じないために状況が分かっていない人が疑問符を放った。

 この中で唯一違う言語を話している、ダークエルフの女性。リシェルさんだ。

 小首をかしげ、耳をぴこんぴこんと動かす様子は少女のように愛らしい仕草だった。

 そんな彼女に対してみんな視線は送るものの、なにを言っているのかが分からないから困ったように視線をさまよわせている。

 意思の疎通ができるのは僕だけなので、説明のために口を開く。


「少し問題が起きて、もう少しだけここにいることになったんです」

「……そうですか。承知いたしました」


 リシェルさんが動揺したのはほんの一瞬だった。一息と耳の揺れ、それだけの時間でいつも通りに微笑んでしまう。

 早く戻りたいという気持ちを抑えて、僕たちのことを優先させたと、そういうことだ。


 ……どうしたものですかね。


 逃げてしまうのも、のんびりしているのも心苦しいという状況になってしまった。

 かといって、大金庫の精霊さんに正面から説明して分かってもらうの難しそうだ。

 或いは、少し時間置いて落ち着けばまた違ってくるだろうか。

 思案していると、ドアが開いた。入ってくるのは人ではなく、丸みのあるボディをした白い姿。ゴーレムたちだった。

 マジックハンドのような太い二本指で挟むようにして、彼らはお盆を持っている。その上にあるのは、色とりどりの料理だ。

 肉、魚、野菜。米もあればパンもある。何十種類もある料理がテーブルに並ぶと、まるでパレットに絵の具を広げたように華やかな光景が生まれた。


「……そういえば、そろそろお昼でしたか」

「ず、随分と豪華ですわね」

「随分というか、もうとんでもなく豪華ね。王宮のパーティに呼ばれたときにも、さすがにここまでは出なかったわよ」

「……俺の食費何ヶ月分かな、これ」

「ゼノさん、商人らしい計算ですわね……」

「いや、これあとで請求されたら困るなと思ってね」

「管理人のあの様子を見る限り、大丈夫なんじゃないかしら」

「でも、アルジェさんはシリルさんではないでしょう? それを理解したあとで、改めて請求されたらと考えると――」

「――もぐもぐ」

「って、もう食べてるぅ!?」

「もぐ?」


 こちらの会話がまったくわからないリシェルさんが先走った。というより、もう二杯目のおかわりをついでいた。

 言葉が分からないまでも、ゼノくんの大声に驚いたのだろう。リシェルさんはお茶碗に視線を落とし、ゼノくんの方を見るという動きを数度繰り返して、それから言葉を作った。


「これは魔大陸でも栽培されている優良なお米ですね。ふっくらとした炊きあがりと、上品な甘さが特徴です」


 違う、そうじゃない。

 突っ込むべきかと思ったけど、ほっぺに大粒のお米をつけてなぜかドヤ顔で説明してくるリシェルさんを見ていると気が抜けた。

 リシェルさん以外の全員がこちらに視線を送る中、僕は溜め息を吐いて、


「毒は入ってないそうです。美味しいそうですよ」


 全員が諦めたような顔で、黙って席についた。僕と同じで、突っ込むのが面倒くさくなったのだろう。

 とりあえずもう手をつけてしまっているから、僕も食べてしまおうか。そんなことを考えたところで、手が引かれた。


「え、っと……なんですか?」


 こちらの手を冷たい機械の手で捕まえるのは、一体のゴーレムだ。

 瞳の役割を担っていると思われる、緋色の光がこちらを見据えた。


「……すいません、ちょっと呼ばれてるようなので行ってきますね。できそうなら説明してきます」

「アルジェさん、ひとりで大丈夫ですか? 俺も……」

「いえ、ゼノくんはここにいてください。相手もそのほうが嬉しいと思うので」


 相手は僕のことをシリルさんだと思っている。僕だけを呼ぶということはつまり、「シリルさんとふたりだけで話したい」ということだ。

 勘違いしてるとはいえ、その気持ちは理解できるので、水を差すのははばかられる。ここは素直に従っておこう。

 そろそろ眠くなってきたけれど、我慢してゴーレムについていくことにした。


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