23.この手を離すのがどんな敵よりも強い
マッドナイトダンジョン、魔女の館。
古風な西洋の屋敷内部。玄関先から入ると目の前に大きな階段があって、その先には大扉があります。屋敷の各地には小部屋が配置されていて全て入れるようになっています。このダンジョンからはギミックを解除していかないと先へ進めない仕様になっていて攻略難易度も上がっています。
私はただの協力者なので何も言わずフユユさんについて行きましょう。彼女は近くの小部屋を開けて中へ入りました。私も続きます。
するとカチというロックされた音と共に天井から2足歩行の狼、ワーウルフが3体登場。ワーウルフは素早く攻撃力も高いモンスター。たまに繰り出す連続攻撃を全て受けてしまうとHPを一気に奪われてしまうでしょう。
ワーウルフは右へ左へとステップを踏みながら近付いてきます。このステップが凶悪で闇雲に魔法を撃っても中々当たりません。
そこで重要になるのがディレイという動作です。全ての魔法は溜めた状態にしていつでも撃てるようにできます。これを駆使してワーウルフの動きが止まった瞬間を狙って攻撃すればいいわけです。
マジックアロー命中。数発撃てばあっさり撃破。攻撃力が高い分HPは低めに設定されてますね。
フユユさんはワーウルフ2匹に挟み撃ちされてますが攻撃を避けながらマジックアローを連打してます。しかも全部命中させてるという……。
フユユさんならディレイも知ってるはずでしょうが、きっと彼女の場合はそんな溜めモーションも必要なく敵の動作を予測して当てれるくらい反射神経があるのでしょう。若いっていいな……。
ワーウルフが全滅してロックも解除。部屋の中央に宝箱が出現します。どうやらここは外れでしたね。
フユユさんは相変わらず宝箱に攻撃してますが……。
それから別の部屋を探索しつつも敵を倒していきます。私は殆ど補佐役で大体フユユさんのスピーディな動きで全滅です。
「ミゥさ、ゲームしないって言ってたけど普通に慣れてる?」
傍目で見たらそう感じるのでしょうか。ゲームは本当にしませんよ。
「慣れているのではなく、このゲームを理解しているだけです」
一応は全年齢対象なのでゲームが苦手な人でも攻略できるようになってるはずです。
「毎日スライム投げてる人が言うと説得力ある」
「でしょう?」
これでも開発者ですから。
そして次の部屋に入ります。
するとワーウルフが3体プラス後ろにお化けのモンスターが2体。明らかに敵の数が多いのでおそらく当たりでしょう。
問題なのは後ろのお化け。魔法を使って来るのでワーウルフの接近戦と合わさって面倒くさい。フユユさんはお構いなしで突っ込んで行きましたが。
私の方に狼ちゃんが1体来ましたね。倒してあげましょう。
するとワーウルフが前かがみになって両手を広げます。やば、これ連撃モーションじゃない? わー死んじゃうー。私は避けれる自信ないー。
あー飛びかかってきた。死んだ……。
と思ったらこやつの脳天にマジックアローが命中して敵さん昇天。フユユさん、あんな離れて戦ってるのにこっちまで見れるなんて視野広くない?
そして敵全滅。すると遠くでカチャッとロックが外れる音がします。
「フユユさん、さっきは助かりました」
「ミゥには指一本触れさせない。ミゥに触れていいのは私だけ……」
愛がすぎるとここまで来るのか……。
館の2階へ行くと大扉が開きます。その先は長い回廊になっています。奥には魔法陣が見えますのでおそらくボス部屋へ続くのでしょう。一見敵は見当たりません。
ここはフユユさんの動きを待ちます。
彼女は思案しながら周囲を警戒しています。実際敵がいないなんてあり得ないでしょう。
「決めた。ミゥ、行こう」
私の手を掴んでダッシュ!?
やー、私そんな機敏に走れないからー。
そして天井からはワーウルフさんがわらわらと落ちて来ます。けれどフユユさんは全部無視。まさかのスルー戦法。
後ろにはどんどん敵が増えてもはや有象無象。立ち止まったら絶対死ぬな……。
魔法陣に到着するとフユユさんがすばやく魔法陣を起動して逃げました。
手慣れ過ぎてる……。
魔法陣の先は大きな舞踏会場みたいな所。そして中央には人の何倍もある大きさで黒いドレスと黒い三角帽子、手には杖を持った如何にも魔女っぽい敵が待ち構えています。顔ははっきりと見えない。
マッドナイトダンジョンボスの館の魔女。
早速開戦。
なんですが。
「あの。いつまで手を握ってるんですか」
戦えない……。
「ミゥの手気持ちいい……」
目の前にボスいますよー。大丈夫ですかー。
「もうこのまま戦う……」
すごく強いのに時々バグってしまうのがこの子の弱点。
「勝ったらいくらでも手を握ってあげますから」
「約束だよ……?」
あ……これ失言パターン。もういいや。勝手にして……。
もたもたしてる間に魔女が杖を掲げて空から炎の弾を降らせてきます。魔法が発動した時点のプレイヤーの位置に着弾するので走っていれば当たらない。
フユユさんがようやく手を離してボスへと走りながらマジックアローを撃ちます。おかげで敵の注意も彼女に向きました。
私は……ここで観戦してましょうか。下手に攻撃するとこっちが狙われるので。さすがに走り回るのは疲れる……。
それにフユユさんなら1人で何とかするでしょう。
実際何とかしてます。魔女の炎の魔法を避けながらマジックアローで反撃。ただこのボスは魔法使いというだけあってこちらの魔法が効きにくいです。魔法しか使えないゲームなのにそんなのありなのかと思いもしますが、本来であればテイムしたモンスターが活躍する場でもあります。なんなら館にいたワーウルフがいると心強い。
見てください。フユユさんレベルが低いのもあってボスのHPがミジンコ程度にしか減ってません。おそらく私が攻撃しても同じでしょう。
「拳で殴った方が早いと思いますよ」
暇なので助言してみる。
「縛り、絶対」
あれだけルール変更したのに。なんでもいいですけど。
※半時間経過※
フユユさんは今も魔女と戦ってます。ようやく半分削ったくらい。私はずっと観戦してますけどよく集中力持ちますね。攻撃も一切当たりませんし、敵の周囲をクルクル周りながら戦ってます。
「あと半時間くらいですかね」
「ミゥも参加してくれてもいいんだよ?」
絶対に嫌だ。
そんな軽口を叩けるくらいには彼女も余裕らしい。もはや勝負ありで勝ちにしてあげたいくらいです。
「あれ? ミゥー」
急に呼ばれます。
でも原因がすぐに分かってしまいます。
なんかボスの魔女がずっとクルクル回ってます。舞踏会なのでダンスでも踊っているのでしょうか。
「攻撃もしてこないー」
そして目の前でマジックアローを連打される始末。
もしかしてフユユさんがずっと敵の周囲を回り続けてバグが起きた……?
「ミゥいいのー? バグだよー」
私は何も見ていない。だって今日は休日なんだもん……。




