141.ミゥミゥ
平日
時間の流れは早く異動の日が刻一刻と迫っていた。今日の仕事も終えたので机を片付けて荷物をまとめます。
「雨宮さん最近早いですね」
隣の席の田中君が話かけてきます。
「少し野暮用がありましてね。お先に失礼します」
「お疲れ様です」
早足で会社を後にしました。
自宅に帰って素早く身支度を済ませていきます。一分一秒も無駄にはできない。そのために仕事も早く片付けていたのだから。
家に帰って1時間ほどして落ち着いたところで自室のデスクトップPCの電源を入れる。パスワードを入力してホーム画面に切り替わるとデスクトップにある『夢』と書かれたフォルダをダブルクリックします。
私の夢はまだ終わっていない。だから何としても仕上げないと。
何となくスマホを見る。特に連絡はない。せっかくなので通話を入れてみよう。AirPodsを装着する。数コールの内に相手に繋がった。
「ミゥだ」
「ミゥです」
「ミゥミゥ」
「フユフユ」
などと軽い冗談を言いながら笑いが零れる。
「こんな時間にかけてくるって珍しいね」
「最近は定時にあがってるものですから」
「いわゆるシゴデキってやつ?」
それはどうか分かりませんが。
作業を進めつつキーボードを打ちます。
「勉強中でしたか?」
「うん。でもミゥからの通話が来てやる気100倍モード」
わざとらしくペンをカリカリと音を立てています。
この子もまた夢に向かって進んでるようで何よりです。
「ミゥは何してるの?」
「当ててください」
「ナツキの配信に投げ銭」
ピンポイント過ぎませんか。
「違います」
「ミネさんとのデートプランを考えてる」
だからなんでそんなにピンポイントなの?
「不正解です」
「むー。じゃあなんなのー」
「秘密です」
「ズルくない?」
「大人には秘密が多いんですよ」
「エッチな動画でも見てるの?」
一瞬キーボードに手を打ち付けそうになった。なんでいつも話が飛躍するの。
適当に流して私は作業を続ける。今はまだ言えない。でも、これももうすぐ終わる。
「フユユさん、明日ガールズオンラインにログインできますか?」
「もちろん。アプデでもあるの?」
「そうですね。全ての答え合わせです」
「おけー。だったら0時から待機してる」
だからそのガチ勢思考はやめなさい。
「いつも通りの時間で大丈夫です」
「私にとってはいつも通りだけど?」
「なるほど。添い寝の刑が必要ですか」
「そんなに私と寝たいんだ?」
ある意味そうかもしれない。
「冗談はさておき、本当にいつも通りでいいですから」
「分かってるよ。でも今のは冗談じゃなくてもいいんだよ?」
「わ、私が寝れなくなるので……」
それに今日は徹夜になるかもしれないのでどの道、添い寝はできそうにありません。
「そうだね。目が覚めたらキスしちゃうもんね」
「ごほん。ともかく明日必ずログインするように」
「はーい。ミゥせんせーの言う事聞きまーす」
それから雑談を交わしながら私達は静かな夜を共にするのでした。




