【復元】‐Restoration‐
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ティファ】探偵の助手。職業:医者。
【ノラ】探偵の弟子。職業:獣術師。
【ベルカーラ】アルバの婚約者。職業:剣士。
【ネネルカ】ベルカーラの専属メイド。
【ルパナ】魔法省。律儀な悪女。職業:女盗賊。
【トキ】ノラの友達兼助手。職業:仕立て屋。
「ノラの保護者アルバさんとティファさんだね。僕はトキ。ノラにはお世話……いや、こちらがほとんど面倒を見てるかな」
「よろしくね、トキちゃん」──手をとり握手するティファ。
後からやってきたのは、帽子を深くかぶった(一部赤い)白髪の[鳥亜人]でフード付きのパーカーに下は短パン。
『女の子』と聞いていたのだが、現在目の前にいる『トキ』と名乗った人物は明らかに少年の見た目をしている。まさしく『ショタ』である。
「トキとやら、性別を偽ってノラの信頼を得ようとしているわけではないな?」
「正真正銘の女の子さ。こんな装いで信じてもらうのは難しいけどね。私生活ではふりふりした服が好きなんだ。まあ、似合っているとはいえないのだけど」
「誰かさんが治安の悪い場所に探偵事務所を立てるから男の子のフリをしなくちゃいけないらしいの」
「確かに小さい娘がペタフォーク街を出歩くのはちょっと危ないよね」
『ダレノセイカナー?』と視線が刺さるが気にしない。
と言われてもあの街の治安の悪さはほとんどが酔っ払いのせいであるため犯罪数から見たら他の土地より少し多いくらい。
しかも魔力量Bのノラなら大抵の犯罪者には対処出来る。
……だが魔力量も体力もない子供なら、変装して身を守っている理由も頷ける。
ここまで完成度の高いショタなら一定数には受けが良さそうで逆に危険な気もするが。
「まあ、理由は分かった。よろしく頼む」
「……」──トキは俺が差し出した右手をじっと眺める。
「どうした?」
「……よろ、しく」
人差し指だけを握ってきた。
耳を真っ赤にさせているような気がする。
「あ、言い忘れてたけどトキは男性に慣れてないから緊張しちゃうの」
「すまない。苦手というわけではないんだ。僕の周りは男性が少なくて……その、ドキドキしてしまう」──もじもじと身体を揺らし、帽子をさらに深くかぶった。
「そうか」──ティファも一応男なんだがな。
男装をしている少女で、男性を前にすると極度の緊張をしてしまう。
随分と異質なショタまがいである。
次にトキの後ろにいる女性に視線を向けた。
「悪いなルパナ。子守りみたいな仕事を押し付けて」──名前を呼んだ事に驚いたのか目を丸めた。
そういや、【R・D】と名乗っていたんだった。
「気付かれていましたか。いえ、道中にぎやかで退屈しませんでした。それよりもアルバート第三王子がご無事でなによりです」──深く頭を下げる。
「話し方がなんか変なの」
「無理してる」
幼女ふたりはルパナに横やりを入れるが、すぐさま口を掴まれ拘束される。
知らないうちに随分と仲良くなっているな。
「ノラから聞いたが、森で白骨体を見つけたというのは本当か?」
「はい。間違いありません」
「この施設の者に渡してしまったか?」
「いいえ。彼等の手に負える代物ではないと判断いたしましたので、こちらに」
そういって袋を取り出した。
魔法道具[増量袋]。
見た目の倍以上の収納容量がある。
「魔力がまだ残っているようなら、生前の姿を復元することが出来る」
「そんな魔法が?」
「ああ。ある令嬢の為に俺が前に作った魔法だ」──話題の令嬢に視線を向ける。──「考古学の世界に行くなら、必要だと思ってな」
化石令嬢ベルカーラ。
今や俺以上に正確な復元を可能にすることだろう。
しかし彼女は小さく微笑んで。
「随分と女性のお知り合いが多いのですね。アルバ」
「これは言い逃れ出来ないっすよ。第三王子」
「たまたまだ。男の知り合いだっている……はず」
「え、ボクは???」
確かにこの状況を見られたら勘違いされそうなものだが、ちゃんと同性とも交流を持っている。
ただ(明確に男と言える)同性の顔見知りはなにかと問題が多い気がするのは気のせいか。
「と言いたい所ではありますが、ルパナさんには借りがあるようですので言及はいたしません。しかし復元するとなると少し他の目が気になります。王国の工作員と言えど事が事なので」
ベルカーラが言う通り、慎重に行動しないとならない案件だ。
出来るだけ目の届かない場所に移動する。
地下施設には寝泊まりする小屋や食事をとる空間以外に戦闘訓練出来る建物が用意されていた。
そこを貸切る。
大きなグラウンドのようになっている。
真ん中に白骨体を寝かせた。
あの〝土地の記憶〟で見た人物とまったく同じ装備。
「残留魔力はありそうか?」
「ええ、かなり濃い。間違いなくつい最近亡くなった者です」
ベルカーラはその場にいる皆を後ろに引かせ、手を白骨体に向けた。
俺はいつでも動けるように指輪に手をかける。
「我は暴く者。古の王の生涯を。善行を。悪行を。我に汝の姿を見せたまえ。──【化石復元】」
白骨体はひとりでに起き上がる。
それから回復するように肉が付いていく。
次第に元の身体へと戻って──……。
「アルバ」──誰かが、いや呼び方は違ったが全員が俺を呼んだ。
『俺を呼んだ』というのは語弊があるかもしれない。
町を消失させ神父を殺害した犯人と思われる正体不明の白骨体が──俺になったのだ。
その場がざわめく。
この魔法はただの復元であり、いうなれば化石に粘土をつけて生前の姿を再現しているだけ。
死者の蘇生ではない。
……そのはずなのだが、瞳に光がともった気がする。
それから息をするように──「……ベル」。
「〝解除〟」
ベルカーラがそう告げると復元は解け、白骨体に戻り地面に落ちる。
その衝撃で骨が散乱した。
「──……アルバート」
ベルカーラは俺の名前で、別の誰かを呼んだ。




