【合流】‐Confluence‐
【アルバ】本作の主人公。職業:探偵。
【ティファ】探偵の助手。職業:医者。
【ノラ】探偵の弟子。職業:獣術師。
【ベルカーラ】アルバの婚約者。職業:剣士。
【ネネルカ】ベルカーラの専属メイド。
……食べ過ぎた。
苦しい。
材料は所々違うもののなかなかの再現度である。
ティファが全料理を試したいということで、俺が手伝いで半分食べることになったが焼きそばとお好み焼きあたりで限界に達していた。
手伝ってほしいと言っていた当の本人はけろっとしておりかき氷、りんご飴などをほおばる。
それに少しの敬意と呆れ混じりのため息がこぼれた。
食後の紅茶としゃれこむ。
【紅茶の茶葉】【水】【味変に使うもの】【自家製のティーポット】【使い捨てのコップ】【アルコールランプのようなもの】。
お湯を沸かし、ティーポットに紅茶の茶葉とお湯を淹れ2分ほど蒸らす。
同じく食事を終えたベルカーラとネネルカにもコップを渡し、注いだ。
「美味しい。前に似たような濁り湯をアルバが作ってくれましたが別格ですね」
「あれは泥の味がしたっす」
「紅茶を再現出来ただけでも、俺の旅には意味があった」
ほがらかになるふたりの表情を見たら[樹木の精]の森にて研究を続けたことが無駄ではなかったと再認識出来る。
「気に入りました。紅茶を郷土品にすれば〝私達の領地〟は栄えること間違いありませんね」
「領地? 公爵家のものという言い回しではないな」
「ええ。紛れもなく私とアルバの領地の話です」
「そんなものはない」
「〝今はない〟。ですがいずれ領地を手に入れましょう。大きくなくていいのです。私たちといずれ増えるであろう命が幸せに生きられる理想郷を」
「『大きくなくていい』なんて理想が小さすぎるっすよ。第三王子はいずれは国王になる人物。むしろ世界征服だって絵空事ではないんすから」
「国王になるつもりも征服者になるつもりもない」──しがない[探偵]でいさせてくれ。
「いやいやいや、考えてもみるっすよ。ご兄弟にドラゴネス王国を任せられるっすか? 第一王子ユリアス様は脳筋で政治の事が分からず、他国や宰相に都合の良いように扱われて国の実権を握られてしまうのは目に見えているっす」
「レオルドがいるだろ」
「第二王子はただでさえ仕事が多いんすから王になったら過労で死んでしまうじゃないっすか」
あの過酷労働は全て国王に成る為のものなんだが……。
それを原因に『過労死するから王にはなれない』と言われてしまうとは。
「ならフェリーナとイルミアの二択だな」
「第一王女は人格者ですので異論なしっす。ただ防御力ばかりで攻撃力が心もとない。第二王女イルミア様は……人格が残念。何故だかお嬢様を目の敵にして『ザコ』呼ばわりする生意気娘っすから」
「不敬罪で首が飛ぶぞ」──王族をことごとく否定しやがった。
「大丈夫っすよ。第三王子派閥なんでなんかあったら第三王子が守ってくれるんす」
ドヤ顔を見せるが初耳である。
そもそも第三王子の席は今や空席、こいつはいったい誰に助けてもらうつもりだ。
谷間を寄せて微笑みかけられても承諾しかねる。
「これ、ネネルカ。私の婚約者に色目を使おうものなら貴女とて許しませんよ」
「申し訳ございません。お嬢様。おふざけが過ぎました」──命の危険を感じたのか背筋を正し一流メイドの顔つきで頭を下げる。
「でもアルバが国王になるの賛成なの。そしたらノラは毎日美味しい物を食べて、いつもぐーたらしても誰にも文句言われないの」
「うお!?」──突然現れた人物に驚き、体制を崩す。
「ぐふっ!?」──ティファにぶつかり変な声が上がった。
黒い長髪、ウェーブがかかりくるんくるんしており猫の耳に尻尾。
服の袖が長くぶらんぶらんさせている幼女。
「ノラさん、ですね」──俺たちが名前を呼ぶ前に正体を突きとめたベルカーラ。
匂いだけで『[猫亜人]。黒い髪。幼女』という情報を取得していたわけだから不思議ではないが。
「うん。お姉さんは?」
「私はベルカーラ・ウェストリンド。アルバの婚約者です。そしてこちらが私の専属メイドのネネルカ」
「よろしくっす」
「よろしくなの!」
振っている長い袖を掴み、両手で豆結びにする。
「なぜお前がここにいる」
「ノ、ノラちゃん……追いかけてきたのかな?」
「置いてくなんてずるなの。ふたりは[探偵]として半人前、ノラが一緒にいてあげないと──む」──両手でほっぺたを伸ばす。
「そもそもルパナはどうした。行動を共にしていたんだろ?」
「うん、一緒に来た。でも報告と移住許可が必要みたいで受付の人と話しているの」
俺たちが一切手続きをしなかったのはネネルカが事前に済ませてくれていたのだろう。
「それで紅茶の匂いを追ったら、やっぱりアルバなの」
「なにはともあれ、無事でよかったよ」──ティファはノラの頭を撫でる。
「ふたりも無事そうで良かったの」──ノラからは安堵の微笑みが零れた。相当心配していたのか涙ぐんでいる気がする。
それを見て、追い返す気も失せる。
固く結んだ袖を元に戻した。
「ノラにはミルクティー」──自由になった途端に両手を差し出してきた。
仕方ない、ここまで着いてきた褒美だ。
いつも以上に丁寧に淹れてやろう。
ミルクティーを作り、「熱いから気を付けろ」とノラに渡す。
「心得ているの」と長い袖で受け取り、ティファの膝の上に座った。
ひとくち喉に流し込み、ほうと頬を赤らめる。
最近じゃ俺と同じくらいに紅茶の虜になっている。
「そういえばアルバ。もうこの事件は解決してるの。犯人はもういない」
「……どういうことだ?」
「【ルー・ガルーの森】で町を消失させたと思う[魔法使い]が白骨体として見つかったの。──この[探偵]ノラによって!」
そういってノラは小さな胸を張った。




