【幕間】‐material Collection‐
【鳥亜人】トキ。10歳。
帽子をかぶっているが【鬼国】に多く見られる白髪に一部赤色。
職業は[仕立屋]。
素材によってさまざまな技能を持つ衣服を作ることが出来る。
男装している理由は友人の住んでいる地帯が所謂、治安の悪い地帯であるから。
『少女ひとりでは危ない』と衣服屋を経営している叔母に忠告された為、性別を偽る装いをすることにした。
その友人、【猫亜人】ノラ。同じく10歳。
彼女はとても変わっており、職業は[獣術師](守護霊である動物を魔力に憑依させ自由に行動させたり、獣に変身出来る)のくせに自分の事を『[探偵]』と呼ぶ。
そんな職業はこの世界に存在していないし、内容を聞いてもぴんとこなかった。
そしてトキのことをノラの[探偵助手]だと。
遊びに行くといつも面倒ごとに巻き込まれた。
ペット探し、迷惑行為の犯人捜し──すれ違う人に浮気調査を依頼されたこともあった。
ノラが元凶では? と思ってしまう程に遊びに行く先々で軽い事件が起こる。
『探偵の素質なの。アルバもお揃いだけど、実際元凶だったりする』と語る。
アルバ。彼女がよく口に出す名前だ。
父親か兄弟かとも思ったけどどうやら違う。
まあ、口調からして家族の様な大切な存在だという事は分かった。
巻き込まれる事には慣れたつもりだったけど、馬車の屋根に飛び乗って【ルガルアン帝国】に来るなんて思ってもいなかった。
魔法省の役員であり褐色で色気のある女性ルパナを説得し、調査の同行を許してもらう。
「なんで私が子守しなくちゃいけないのかしら」
「失礼なの。ノラはとっくに一人前、アルバ達よりも先にこの事件を解決してやるんだから」
「なに言ってんだか。そもそもアルバート様の魔力量知ってるなら、他人が出る幕ないって事くらい知っているでしょ」
『アルバート様』?
王国でその名を聞けばまずアルバート・メティシア・ドラゴネス第三王子の顔が浮かぶ。
姿を消した【神種領域ランク】──最強の[魔法使い]。
え? ノラがいつも言っている『アルバ』って……いいや、まさか。
「アルバは弱いから助けてあげなきゃダメなの」
「そうとは思えないけど。帝国に潜入するとしても正装はあのふたりの分しかないのよね。予備があったとしても魔法省に幼女と男装幼女用のサイズはないわね」
「だったら僕が作るよ」──ふたりの視線がトキに向く。──「でも帝国の正装を見たことないからスケッチして欲しいんだけど描けるかな?」
「ええ、描けなくはないけど」
「じゃあ後は素材かな。ダンジョンや森はこの辺りにある?」
「この消失がひとつの町だけなら少し進んだ先に深くはないけど森があったはずだわ」
直進している馬車の経路を少し外すルパナ。
「ノラちゃんはともかく、トキく……ちゃんの家族は心配しないのかしら?」
「うん。叔母さんと暮らしてるんだけど、お店はいつも忙しいから。当分は気が付かないさ」──トキがいないと気が付いたらただでさえ白い髪から色が消えるかもしれないが。
「ふたりとも無事にちゃんと帰る為に無茶だけはしちゃ駄目よ」
「はーい」──ノラとトキが手を上げる。ノラは伸ばした袖を振った。
「返事が軽いわね」
ふたりはルパナ程、現状の危うさを理解していない。
帝国との戦争の予感。膨大な魔力量持ちの存在。
ルパナはこんな幼い少女達を同行させて良いものか葛藤している。
それでも連れて行こうと思ったのは誰かの面影を感じたからだろうか。
「着いたわ」
馬車を止める。
目の前には深い森。
奥まで入ったら迷って数日は迷って出られなそうだ。
「ここ【ルー・ガルーの森】。大昔ルガルアン帝国皇帝を暗殺しようとした[狼亜人]が身を隠していた森として言い伝えられているわ」
「ふーん。なんで皇帝を暗殺しようとしたの?」
「ノラは知らないかもしれないけどルガルアン帝国はそういう逸話に溢れている。戦闘狂が作ったものだからね。犯罪者同士を戦わせている闘技場だって、元々は皇帝と権力を奪おうとする国民との決闘の場として使われていたらしいよ」
「〝下剋上〟なの」
「そういうことかしら。その決闘に敗れたら斬首刑なのだけど、逃げた者がいるわ。それで行き着いた先がこの森ってわけ。彼は最後まで『自分の方が皇帝に相応しい』と叫んでいたそうよ」
博識なふたりに尊敬の視線を向けるノラ。
長い袖を振って拍手までしてきた。
トキとルパナは口元が緩む。
「良い事教えてもらったお礼に、ノラがこの森を調査してあげるの」
「ちょっと、ひとりなんて危ないわ。ノラちゃんになにかあったらアルバート様になんて説明したらいいのよ!」
止めようとするルパナの腕を引くトキ。
「大丈夫。ノラは森に入る必要はないからね」
「なんで???」
[獣術師]は[獣亜人]や[獣人]たち特有の職業である為、魔法の詳細を知る者は少ない。
[探偵]という称号がこの世界にあったのなら[獣術師]ほど適した魔法はないだろう。
「我は獣の末裔。獣と共に歩む者。守手よ、道を示せ。──【守護霊憑依】」
ノラの魔力が巨大な黒猫の姿に変わり、探索のため森へ向かって走り出す。
魔力を失ったノラは[人間]の容姿へ。
通常の[獣術師]は【魔力なし】の[獣亜人]や[獣人]になるはずなのだが、ノラは違う。
これは彼女が[猫亜人]と[人間]の混血ということに起因するのだろう。
「なにかあったの」
黒猫が森から出てくる。
口には人型のなにか──真っ黒な仮面に、黒いコートをはためかせる。
気絶か息絶えたように力無く、ぐでんとしていた。
「……もしかして、あれって。町を襲った」──青ざめるルパナ。
黒猫の歩みの衝撃か、仮面がはずれた。
──……〝人骨〟。
[骸骨兵]のような魔力も感じないため、紛れもなく死体である。
膨大な魔力に堪えられなかったような、破損状態で。
「ホ、ホラーなの」




