【整理】‐Organize‐
料理を注文してから俺の前に座るリリーナ。
頼んだのはキノコのクリームパスタと牛肉ステーキ、サラダや果物の盛り合わせ。
かなり空腹だったらしくそれぞれ大盛。
栄養は全て胸に行くのだろうか。
綺麗な食事マナーで口に運ぶ。
「第二王子の婚約者が異性と食事をして変な噂が立たないか?」
「大丈夫ですよ。相手が義弟の第三王子アルバート様ではありませんか」
「悪いがその身分は捨てた。今はただの[探偵]アルバだ」
「……ディテ? またよく分からないことを。王族は生まれて死ぬまで王族なのです。貴方に流れる血はドラゴネス王国の正義の象徴。家出した程度じゃなにも変わりませんよ」
流石は王族婚約者。
幼い頃から愛国心を叩きこまれている。
いや、リリーナに至ってはレオルドへの恋心のついでに愛国心か。
冷酷に見えるレオルドだが愛国心だけで言えば兄弟の中で一番強い。
好きな人が大切にしている物を同じよう(たまに過剰)に大切にしたいと思っているのがリリーナ・ヴィクトリアなのだ。
「……ずっと気になっていたのですが、そちらの茶髪の[半妖精]さんは?」──俺の後方に視線を向ける。
「はじめまして、ボクはティファ。アルバの友達だよ」
「正しくは助手だ」
「義弟君は友達に使用人の服を着せる趣味をお持ちで?」
それはちょっと……みたいな顔をされた。
いやこれはお前の婚約者の提案だ。
それにこの場のどの服よりも高級品なのは間違いない。
この依頼が終わったら質屋に出して【探偵事務所】強化の資金に。
「無駄話をしているほど悠長ではない。持っている情報を俺に聞かせてくれ」
「もちろんです」──食べることを一時やめ、ハンカチで口を拭く。──「ダリアさんが行方不明になったのは約一週間前。前日の夜に【リヴァイアサン寮】内で目撃されているのと、この学校は誕生日と春の長期休み以外は基本家に帰らせませんし、出て行った形跡もないため学校内にいるはず。ですが……」
「【転移魔法】の可能性は?」
「私が知る限りダリアさんは職業つまり[盾使い]魔法しか使えません。他者が連れ出すために使ったとしても学校長が【人数把握魔法】をかけている為可能性は薄いと思われます」──【人数把握魔法】。内容を聞こうとしたがリリーナはそれを察する。──「[人間種]限定らしいのですけど学園内にいる生徒数を的確に把握出来るそうなんです」
「ではまだ生きている?」──「間違いありません」
学園長が把握している生徒数が行方不明後も変わっていなかったということ。
つまり学校の敷地内で監禁または身を潜めている。
「しかしどこにもいませんでした。人探しを得意とする冒険者たちに学校近辺を探っていただいても手がかりひとつもなくって」
「行方不明ではなく、神隠しか」
見付らない理由を推理してもここは魔法の世界。
前世の常識なんて通用しない。
だから魔法ってやつは……。
解けない問題よりも見えている問題を先に解こう。
「リリーナは本当にダリア嬢をいじめていなかったのか?」──後ろから「ちょっ、失礼にもほどがあるよ!?」なんて動揺の声が上がったが気にしない。
「ありえません」
「号外に乗るくらいだ。なにか証拠があるに違いない。心当たりは?」
「彼女と良好な関係でした。号外で書かれたことは事実無根であり、なにかあったらお互いに言い合える仲だと信じています」
「ちゃんと公平にか。第二王子の婚約者だからと調子に乗っていたのでは?」
「私は第二王子ではなく。レオルド様の婚約者です」
後ろから結構強いチョップが飛んできた。
むっと怒った顔を作っているティファ。──小動物の威嚇みたいで怖くはないが。
「ティファさん、気を使っていただきありがとうございます。ですが私は嬉しいのです」
「嬉しい?」
「ええ。だってまるでレオルド様みたいに問い詰めるのですもの。──嗚呼、やっぱり兄弟なんだなと!」
照れっ。じゃないんだよ。
尋問されているのに呑気なものである。
「俺だって身内を疑いたくないさ、だが」
「気にしないでください。事件解決の為ならどんなに疑ってくれても構いませんので」
やはりというべきか王族の伴侶になるべく育てられたご令嬢。
俺の姉妹は武力的に強いが、彼女は内面的に強い。
「ここからはただの雑談だ。この質問の回答は捜査に影響することはない。──ダリア嬢の親友として、この行方不明に関わっていると思う人物は誰だ?」
「強いて言うのであれば……【ブラック生徒会長】ですかね」
「行方不明日からの態度の激変か?」
「それもあるのですが、彼だけ部屋の捜索を許可してくれませんでしたので」
「確認出来てないのか?」
「はい。でも隣の部屋の生徒が物音を聞いたなどの話も出ていませんし、友人たちも出入りしているらしいので──」
可能性は薄いと述べながら、もやもやとしているリリーナ。
ダリア嬢の婚約者ってだけで痴情のもつれなどの動機が考えられるのに、部屋の捜索まで拒否されてしまっては【第一容疑者】と呼ばずにはいられない。
──そして話題の【第一容疑者】ブラックは同じく食堂で昼食をとっている。俺から見て右手奥側。
自称全生徒の親友テレムと談笑していた。
真面目そうな生徒会長とチャラ男のカップリング。悪くない。
受けはもちろんブラック。いや誘い受けのテレムも捨てがたい。
……待てよ。こうは考えられないだろうか?
ブラックは真実の愛を見つけてしまったのだ。
それは性別を超えた許されぬ愛。
その愛を成就させるために、ダリア嬢が邪魔に──……。
「かっ!!」──力いっぱいに机に頭を打ち付ける。根拠も脈絡もない推理を吹き飛ばすように。
「義弟君!?」
たんこぶが出来たがティファが急いで薬草を塗る。
……この毒された脳で真相に辿り付かなければいけないとは。
先が思いやられるな。




