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22 違う世界の狭間

買い出しに送り出してから器具を出したり出来る準備を進めているうちに、メイ達一行が荷物を抱えて帰って来たので材料はこちらで預かる。そして中身を出して全て揃ってるかどうか確認。この量これから作るのかー……腕疲れそうだなぁ。

 取り敢えず皆にやってもらう事は無くなったので夕飯まで各自自由にしてくれという旨を伝える。が、誰一人僕の部屋から出て行こうとはしなかった。うん?


「この量一人で熟すつもり?手伝い位なら出来るけど」

「ん、私も下ごしらえ位ならなんとか~?」


 あぁ、手伝いの申告か。ネリアさんスゥさんだけでなく、男子3人組もこちらを見ているという事はその気だったのだろう。ありがたい、が。


「料理ってね、団体でやる程時間がかかるんだよ……」

「え?」

「次何やらないとならないから今これやって、て一人なら出来るけどね、誰かとやると次何やって、あれどうした?これどこにある?ってとってもメンドクサイことになるの……おまけに普段から料理してる人なら兎も角自炊出来ますけど……ってレベルの人にやられると、もう……ね」


 調理実習をしたことがある人達なら分かってくれるだろう。僕はこれでも平民暮らししてた時はオール自炊(畑作業手伝ってお小遣い程度の金と雀の涙程度の食糧を貰いつつ山で食べれる物確保して空家で生活)してたので、これでも料理は普通の主婦並には出来る筈だ。けど、彼等はあくまでも調理実習で有能か、まぁ指切らないで皮むき出来るよね程度。手際が悪いのだ。これだけの量を裁かなきゃいけない時には特に。


「という訳で、その好意は嬉しいし、お菓子一品とかなら喜んで手伝って貰うんだけどここまで多いと……ね。だから、悪いんだけど今日は本当にお客さんやっててくれる?あともひとつ理由足すならここのキッチンの狭さじゃ3人入るのが限界ってのもあるんだけど」

「それもそうですね……では今日の所はお願いしましょうか。メイ君、いいですか?」

「おう、むしろこっちがやってもらう側なのに悪いな……」

「荷物持ちと素材の良い春の味覚を堪能させてくれるってことでそこはチャラだよ。まぁ残りの皆はメイの好意で美味しいモン食べれてラッキー、とでも思ってて」


 割と本気で手間がかかる事だと今理解したのか、とても申し訳無さそうな顔になるメイには悪いが、実は料理は趣味の一環だから苦じゃない。だって仕事の事考えないでただ美味しいもの食べるにはって事考えればいいんだよ?なんて至福の時間。

 僕がそうやって周りの皆の気をメイへとずらすと、ソルトが心底真に受けたようで何度もコクコクと頷いた。


「ほんとそれは思ってる。こんな真っ白な白アスパラ、家じゃ高くて食べらんなかったしな。果物もその辺に自生してるのじゃなきゃ殆ど食べた事ねぇし」

「え」


 え、ええと、もしかして予想以上にド貧乏な暮らしだった?そうだ、ダノターだったもんな。石炭取れて昔は栄えてたけど、革命以降そんなものの需要急速に無くなって来て農業と漁業で食いつないでる所だもんな。お隣の領はウイスキーで儲けてるのに、同じように工場作る事すらお金無くて没になった憐れなダノター……ヴィレット屈指の経済問題と御世継ぎ問題抱えた色々と迷惑かつ前途多難な場所である。愛妾が多すぎるわ金使い荒いわ、と救いようがない。

 そんな所で育ったうえ、メイの情報曰くシングルマザーならお金に困るのもおかしく無い。あぁ、後でエンスにこの事上げておこう。にしても道理で最初の頃金持ちを僻む発言があった訳だ、納得。この学園入ったのも、一人分の食と住が無くなる点で楽だからってのもあったのかなぁ……あぁ頭が痛い。


「ソルト、後でリュバーブはコンポートにするから大目に持って行って。あと、良ければお母さんにでも送ってあげて。良いでしょ、メイ」

「おう、幾らでも持ってけ。つかマジで悪い……貴族に生まれた罪悪感ここまで感じるの革命後初めて町に出た時以来だぜ……」

「ダノターかぁ、後でお父さんに経済復興案出してくれないって進言してみるね~……」

「お、おう……?サンキュー」


 今まで人並み(=貧乏。革命期までは人口の8割が栄養失調だったと思われる)の生活を送った事が無いメイとスゥさんは現実にぶち当たったようである。同じく平民であっても御両親の職業的に裕福な傾向にあるアルはあぁー……と遠い目をしているし、ネリアさんも一人っ子で御両親健在、おまけに出身はブレナム、学術都市として有名な場所なのでそう悪い生活は革命以後は送ってないだろう。

 以上の点から、僕等は全員ソルトを要庇護対象と捉えた訳である。憐みは要らないと言う人も居るが、実はこれめっちゃ重要なものなのだ。だって「可哀想に」とか「憐れな」とか思わなきゃそもそも福祉って始まらないよね?その状態に人道的に問題があると思わなきゃ、誰も助けの手なんて出さないのだ。だから僕は敢えて憐みをもってソルトを見る。ヤベェ福祉制度まだ整え途中だった、と。


「ということでジャム瓶一個追加っと……メイ、悪いけどルバーブは持ち帰りのコンポートにしちゃうよ。デザートには苺使うから」

「おー、その辺は任せる。オレそもそも料理殆ど出来ねぇし」

「君は出来なくて良いんです。貴族が使用人を必要としてくれるからこそこちらも職業として成り立つのであって、貴族が家事に手を出すようになると雇用が崩れます」


 どうしよう、ローゼンフォールだと料理は大抵好きな人がやってる。シェフもいるし、子供達におやつ作ってくれたりもするけど、暇だと一族の誰かしらが作っちゃう。いや、本邸には現領主とその妻子しか居ないんだけど、本邸の隣にあるローゼンフォール別邸ではそんな感じだ。領主が領経営出来ないから一族団子みたいな生活になってしまってる。一部ウィンザーに出て来てるのも居るが。

 もっと言うと、革命後も刺客が多すぎてエンスの住む城もおかしなことになってる。具体的には、料理出来る人が殆ど居ない。ただでさえ料理下手なウィンザーの人間雇うから余計に。出稼ぎ労働者ならぬ、出稼ぎメイドや出稼ぎシェフが少ない休みで頑張ってくれています。泣きたい。


「そんなこと言ったらこの中で一番自活出来るのぶっちゃけリーン君よね」

「料理洗濯家事掃除、までならず食べられる野草を取りつつ、ジビエに出来そうな動物まで狩って来れますしね」

「うーん、その辺に居る動物でジビエは怖いなぁ。最近は工業が復活してきてる所為で環境汚染とかも問題になりつつあるしねー」


 ある程度のサバイバルは軍務に就いてる以上必修です。仕込みが終わった頃、夏休み辺りにでもアルも【蛇落地(土石流頻発地帯)】辺りにブートキャンプに連れて行って教えなきゃならん。まぁアルは植物は‘視’れば食える・食えない位余裕で分かるからそっちはサブで、主目的は水分とタンパク質の取り方とかか。【聖痕(スティグマ)持ち】は児童へ対する権利協定を掻い潜る数少ない手段であると同時に、絶対に失ってはいけない国家の最終軍事兵器扱いでもあるので、死なないように本人含め徹底的に教育しなきゃいけないのだ。僕もやったよ、片手の数越えた位で。最終的には高魔力持ってるなら一月位なら水さえあれば生きられる(魔力で体力を補うという荒業。体には勿論良くない)に辿り着いたからあんまり役に立たなかったけど。


「ダノターじゃ割とあるけどなぁ、野生動物狩って来たり、シーズン次第では野イチゴ採集とか。子供の遊びついでに」

「農村部でなら野イチゴは分かりますけど、野生動物は一般じゃありませんね……」

「俺一回猪罠に仕掛けたりとかもしたぜ?」

「猪!?え、それどう絞めたの?捕まえた時まだ生きてるわよね?魔法?」


 予想以上にアグレッシブかつ拙そうな貧困具合に驚きを禁じ得ない。猪……ローゼンフォール育ちとしてはその発想は無かった。エンスよ、予想以上に格差が酷いらしいぞ。


「魔法?まさか。まず投石器みたいなので石を直撃させて脳震盪にするだろ?で、当然俺の周りにちゃんと魔法使える人なんて居なかったから、近所にいたそういうの上手いじっちゃん呼んで首落として貰って、吊るして血抜き。お袋と俺だけじゃ食いきる前に腐る位デカかったから、近所にお裾分けついでに女衆で解体して貰ったな」

「わ~、リアル~……」


 魔法使って首落としました、の方が幾分か精神的に良かった。魔法使える人居ないって、それ革命期以前の恐怖政治の名残だよね……なまじっか魔力が多い傾向にある貴族が魔法使って領民‘で'遊んでたから魔法=怖いものって革命より30年位前から意識が根付いてたし。かく言う僕も記憶喪失で村人に拾われた当初、魔力が強すぎて暴走するのを怖がった人達に村から追い出された。と、思ったけど感情につられて直ぐ暴走する子どもとか、魔法への忌避感うんすん以前に怖いか。

 尚、貴族が魔力強いのは権力者としてそういう人を選んで結婚を繰り返したからだと思われる。あと顔が無駄に整ってたりするのもその所為。パーツはとっても綺麗でも駄肉で汚顔になってる人も結構いるから一概には言えないけど。


「り、リーン君はまさか猪狩ってたなんて言わないわよね?いくら平民育ちとはいえ……」

「言わない言わない。記憶にある限りだと僕平民生活一年ちょっと位しかないからね?一年経たずに村追い出されて彷徨ってる所父さんに拾われたから」

「それはそれで重いから聞きたくなかったわ……」


 どんよりとした雰囲気になってしまった中、ソルトだけがキョトンと首をかしげる。


「村追い出された?拾われたとは聞いてたけど……」

「僕子供の頃から魔力強すぎて、一度暴走させたんだよね。で、当時魔法はタブーだったから」

「あー、確かにお前のレベルで暴走されたらそりゃ追い出されるわな。しかも聞いてる感じだと多分その村出身じゃねーんだろ?」

「うん、村の人達が泥棒の荷馬車襲ったらその中に居たらしいんだよね」

「……うん?村人‘が'?」


 メイが胡乱気な顏でこちらを見て来るので、僕はあえてニッコリ笑って現実を教えてあげる。フォロートたる者、現実を知らなきゃ統治出来ないぞ。フォロート侯はちょっとメイに甘すぎやしないだろうか。


「泥棒?ってか旅人とか余所者とかでもいいんだけどさ。あまりにも切羽詰まってると人間生きる為に必死になるよね?」

「……つまり、余所者が何らかの理由で村に来た時点でカモにされると?」

「正確には村に金か食糧、もしくは売れるものを置いて行かないと、だな。俺の所は流石にそういう事はしなかったけど、偶に身ぐるみ剥がされた野郎とか森ん中転がってたぜ?まぁ既に死体になってたけど」


 唖然呆然。お坊ちゃま、もうちょっと現実知ろうね?生温い生活しか知らないし、知ろうとする努力があるから受け入れてるけど、妬みとか僻みとかが強い人からはこれだから貴族はって言われるからな?


「ソルトの村は聞いてる限りだと狩れる食料があったのかな?それで飢えをギリギリ凌げてたから?」

「だな。10年位前のゼノ大量発生も起こらなかったし、森に結構食える実があったからな」

「成程ね、それなら野生動物も来るしそこまで困りはしないよねー冬以外。僕の所はガッツリゼノ被害合ってた上に森に結構茨が多くて」

「うっわ、そりゃ食糧不足にもなる訳だ。よくお前一時期だけでも村人に拾って貰えたな?」

「んー、多分拾われる前はそこそこマシな所に居たんだろうね?文字が読めたから、国からの回覧読むための人雇わなくてよくなるって置かせてもらえたんだ」


 今は多少改善されたが、当時の識字率は出身地によって非常に偏りがあった。都市や町なら読めない人はスラム層や迫害対象―――まぁ、ただでさえカツカツの暮らしの中、ある程度育っても家族によって支えられなきゃ生きていけないような人達―――程度だった。が、農村部となると読める人間の方が少ない。


「字読んでもらえるだけでお金支払わなきゃいけない世界って聞いた事はあるけど~……」

「そんな所に住んでた奴がここでトップクラスの成績誇るっつーのもスゲーよな……」


 中上級階層出身者達が戸惑いの声をあげる。これがヴィレットの闇だ。まだ革命から殆ど日が経っていない所為でもあるが、文字通り住んでる世界が違うのだ。泥水を飲み物と思える人間と思えない人間、飢えを体感した事のある人間と無い人間。一番難しい事が生きる事な人間と、生きる事を苦楽で考える以前の人間。その差はまだ埋めがたく、そして理解しがたい。ここに居る皆は理解しようという努力はしているけど、本当の意味での理解は出来ないし、しちゃいけない。そんな世界をもう一度作らないようにするのが、僕の仕事だ。

 重苦しい雰囲気になりかけた中、ふとアルが首を傾げた。


「というか、ローゼンフォール領なら農村部でもそこそこ識字率ありましたよね?村人全員が読めないって」

「ん?僕が居た村はローゼンフォールじゃないよ。あ、いや今はローゼンフォールに併合されてるんだけどさ。アンボワーズ領だったっぽい」


 一瞬の沈黙。そして息を大きく吸う音が同時に響き、嫌な予感に身を任せて耳を塞いだちょうどその時。


「「「「あ、アンボワーズぅぅぅうううううう!?!?」」」」


 あ、ソルトに耳塞げって伝えられなかった。

タイトルは「ちがうせかい」でなく「たがうせかい」で読んで欲しいです。厨二病こじらせてるので。

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