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【完】異世界にてやりなお死  作者: 真打
第八章 襲来
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8.4.武装した水売り?


「馬車は三つ。数は十六」

「思ったより多いね……」

「水売りが主だって取引していた場所はここだ。麓の街に滞在していれば文でもなんでも出せる。だが何もなかった故ここで何かあった、として数を揃えて来たか」

「まぁ……大丈夫だよね」

「俺は心配などしておらぬが」


 自信たっぷりにそう口にした刃天に、アオは強張っていた表情を緩めた。


 さて、この村の人数は刃天やディバノを抜いて二十三。

 その内戦える者が十二名といったところだろうか。

 ここに刃天、アオ、チャリー、クティとテナが入るので戦闘員としては十七名だ。

 そう考えるとまだまだ人数が少ない村である。


 これまでの生活で村民から水売りの事はすべて聞き及んでいる。

 取引に来ていた水売りはいつも同じ人間が二名と、時々変わる顔ぶれが数名。

 人数は六人だったり四人だったりするらしいが……。

 今回に至っては明らかに異常な数を送り込んできている。

 敵対の意志があると思って間違いないだろう。


 現在、チャリーが敵情視察に向かってくれている。

 刃天は気配を察知することはできるが、相手の所持している武器などは流石に分からない。

 ここは目視で確認しなければならないところだ。


 さて、まだ水売りがこの村に到着するまで時間がある。

 この間に戦える村民は使えそうな武器を持って準備しているはずだ。

 防具は流石に揃えていないので、機動力を重視してもらう。

 まだまともな防具はこの村にないのだ。


 戦闘員はこちらの方が多いのでまともにぶつかれば負けることはない、と刃天は考えているのだが……。

 この世には魔法というものが存在することを忘れてはいけない。


「身に付けている物で魔法を使うか否か判別できるか?」

「剣を持ってるかどうか」

「至極単純」


 非常に分かりやすいので、チャリーが持って帰って来てくれる敵の情報は信じてもいいだろう。

 彼女が間違えることはないと思うが。


 すると、後ろから誰かが近づいてきたようだ。

 刃天は当然気付いていたが、アオは少しびっくりして振り返った。


「アオさん、刃天さん」

「ローエンか。どうした」

「こっちは準備できました。非戦闘員は最奥の家の中で待機。戦闘員は家の陰に隠れて合図を待ちます」

「弓を使う者は何名だ」

「二名です。彼らは屋根の上に登ってもらってます。二軒目と三軒目の家です」

「そこか……。三軒目の屋根に上っている者を七軒目の家の屋根に移せ」

「分かりました」


 ローエンはすぐに下がり、言われたことを伝えに走って行った。

 いつの間にか側にいたロクを抱きかかえながら、アオが不思議そうに質問する。


「なんで三軒目じゃダメなの? あそこ結構見晴らしいいよ?」

「戦闘時に弓を射れるか否かで考えろ。横矢を掛けられる位置にいるのが最良。魔法を操る者を射貫けば及第点だ。それに、弓兵の足元は本人に見えん。互いに見える位置にいた方がいい」

「おおー……なるほどぉ」

「シュイー……」


 二軒目と三軒目の家屋は距離が近く、刃天の言う通り足元を見ることができない。

 敵に屋根の下へと潜り込まれたら気付けないのだ。

 それを補うために距離を取らせ、互いの足元を見張ることができる様に位置を調整したらしい。


 アオは流石だなぁ、と感嘆する。

 だが一つ問題がある様にも感じられた。


「孤立しない?」

「気付いたか」

「え?」

「シュイ?」


 アオの問いにニヤリと笑みを返す。

 確かに戦闘員のいる場所と距離があり、恐らく戦闘が行われるであろう場所からも離れている。

 恐らく誰が見ても『孤立している』と思うだろう。

 だが刃天の台詞からして、これは策の内であるようだ。


「わざと?」

「そうだ。敵を混乱させるには複数の方角から攻撃を加えればいい。これに一役買うのが弓兵であり、囮でもある。まぁ、これ程に規模の小さい戦いでは大きな変化は見られぬが……注意を引くには十分だ」

「危なくない?」

「何を今更」


 これは戦いだ。

 危険は承知の上で全員が参加している。

 勝手に囮にされるというのは本人からしてみれば眉を顰めるところだろうが、敵を騙すならまず味方からという言葉もあるくらいだ。

 勝つために手段など選んではいられない。


 そこでチャリーが戻ってくる気配を感じ取る。

 刃天はアオに手招きをして場所を移動した。

 他の戦闘員同様、家の陰に隠れる。


 しばらく待っているとチャリーが戻って来て、刃天とアオのいる場所へと走ってきた。

 手を上げてこちらの存在を示す。


「チャリー、どうだった?」

「しっかり武装してますね……。ここの村民が何かした、と確信しているようにも思えます」

「敵にそう思わせられたなら上等だ。しかし数が少ないな」

「数は少なくても敵は精鋭です。あれは水売りではありませんでした」

「水売りじゃない? どういうこと?」


 彼女は一つ息を吐く。

 自分が目にしたものが正しい物かどうか不安ではあったが、あの紋章を見間違えるはずがない。

 先ほど見てきたものを、口にする。


「あれはベレッド領の騎士団です」


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